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逃げるは恥っていうか逃げる勇気などない。

逃げる勇気もない。

あまり欲がなかった。諦めてるんだ。

自信がないから。

ファックスはそのままアタシそのものだと思う。格好もつけずにだらしない。中途半端で美しくもない。誰かが好きなだけだった。

いつから、見返りを求めるようになったんだろう。誰かを好きになると欲しくなる。アタシはこうなのに。こうだよ。なんで?

小さい頃、よく先生にすぐに意味がわからないというのはやめましょうと通信簿に書かれた事がある。中学にあがった頃にアサミからその通信簿を懐かしいからみてみ。と言われて渡されて、ぎょっとした。

いまは、そんな主張も勇気がいる。

意味がわからないことなんかたくさんありすぎる。アタシの脳みそでは理解ができないことが多すぎると思う。人がかわいいとかかっこいいとかそういうバランスみたいなのも何が基準で生まれたのかとか好きとか曖昧な話とかスクールカーストとか。

嫌われる勇気

アタシにはない。

ファックスをバインダーから取り出して、窓から投げた。

外は一面、黒い煙。ファックスはひらひらとまって吸い込まれていった。もうこのままでいいかな。アサミはどこかでちゃんと生き延びているといいけど。ファックスが入っていたバインダーも投げ捨てようとした時、一枚の小さな写真が目に入った。

バインダーのポケットに入っている見覚えのある写真。見た事あるような気がする。昔、あの頃大切にしていたなにか。好きな人?いや、にしては年取り過ぎだよな。アタシ、そんな趣味ないしな。

昔の記憶はほとんど悪いことしか思い出せなくなっていたから、さほど驚きはしなかった。きっと、いい思い出だったんじゃないか。最近、本当によく忘れる。執着がなくなってるのかも。でも、いい思い出だったならこの煙に吸い込まれてほしくないなとか、ぼんやりおもってカーディガンのポケットにそれをいれた。

細身の男性。顔は結構ハンサムだった。30代くらいだろうか。

ポケットにいれた手が震えた。

携帯に手が触れた瞬間、血が一気に引いた。


アタシの足は動くことも忘れちゃって

アサミのいなくなった家は、あたたかな炎でつつまれた。







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