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パッケージデザイナー向け金型知識~その5~

金型に関してずいぶん間を開けてしまいました、どうもウチダです。
今回は、すごい金型抜きの例を紹介したいと思います。

■初代iPod shuffleができるまで

(画像1)

発売当時は「アップル?なにそれ、ソニーのパクリ?」という空気だったiPod shuffleです。意地でも抜き勾配を0°にしたいジョブズの執念のプロダクトでもあります。
これ以降のiPod shuffleは基本的に金属筐体で、無垢の削りだしで作っていることもあり比較的水平・垂直面は出しやすいのですが、唯一初代だけは樹脂で作られています。
そして、この商品の何がヤバイって、表面の抜き勾配だけでなく、内側の抜き勾配まで0°で作ってあることです。


■なんて作り方してんだよ!?

基本的にプロダクトは目に見えないところは結構手抜きしたり、精度にわざと遊びを作っているものなのですが、iPod shuffleに関してはその常識が全く通用しません。
一体どうやって型を作っているのか紹介させていただきます。

①一次成形

斜線のところが型で、黄色い部分が樹脂です。
とりあえずは、iPodのカクカクの下側から作ります。もうこの時点で悪い予感がします。下側から作る?一次って何…?
一般的に型に樹脂を注入して物を作る(射出成形といいます)場合、一発で完成品にするか、目的の部品として完成させてしまいます。

②一次型開き

さっきの型を一回開きます。
完成する前に一回型を開くってどういう事!?
普通の射出成形だと一度型を開くと、品物が型から外される→型が閉められる→次の商品を作るというサイクルで回っています。

③二次成形

ここで二次型がやってきます。以前紹介しましたスライド型です。奥義です。型が分割されていて変形合体の末、目的の形状になります。なるほど、これなら内部も直角にできるのか!!

…と、話を聞いても全く理解ができません。全く理解が出来ません。大事なことなので二回言いました。
というのも、上でお話したとおり、射出成形機は「型を開く→品物を外す→型を閉める」という一連の流れで動いています。
裏返すと、型を開いて上の型だけ別の型に入れ替えるなんて機能は一般的には存在しません。
特注でその機能をつけたとしても、まだ暖かい半生の商品に第二波でアツアツの樹脂を追加するということも常識では考えられません。

④型開き→完成

最後にスライド型を引っこ抜いて、上型を開いて完成です。
ここまで無茶な作り方して、その上で得られるものが「誰も見ない裏側が水平垂直」という事だけってのに狂気を感じます。(実際は内容量のオーダーも含めてギリギリまで空間を作るためだったのだと思いますが…)
成功したから良いものの、これで売れてなかったら、完全にアホ経営者呼ばわりされたに違いない。


(ちなみにこの金型の話は「素材とデザインの教科書 第2版」以降に紹介されている記事を参考にしました。プロダクトデザイナー見習いの方はぜひ一読あれ)

■まとめ

アップルはやっぱりすごい。(小並感)
iPod shuffleは水平垂直を樹脂で作ることがどれほど難しいかが端的に現れていた例です。
こんなデタラメ成形法を実践しろとは思わないですが、こんな方法を使った例もあると紹介することで、何かしら僕以外のクリエイター方の提案がより良くなったら幸いです。

ではお休みですー


(画像1:https://www.amazon.co.jp/Apple-iPod-shuffle-1GB-M9725J/dp/B0007DGQIUより)

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