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周りがみんな行くらしいので、適当に大学行った8

15 室蘭の人間、やべくねーっす!?


 2019年4月。平成最後の新学期。いつも通りゲーセンにいくと、知らない影が左筐体でビートマニアをしていた。
 一年も室蘭という閉鎖空間で音ゲーをしていると、すべての人間は顔なじみになっていた。知らない人がビートマニアをやっている場合、大半は苫小牧なり札幌から来た遠征勢。名前を見た瞬間に「あっ、こいつ苫ディで見たことある」みたいな情報が共有される、奇妙な居心地のいい空間だった。
 しかし、その知らない影は苫小牧でも札幌でもTwitterでも見たことのない細身の小さな岡山県登録の男。全員が思った。「あっ!某大の新入生か。」と。
 だが不可解な点がたった一つあった。彼は必ずゲーセンに来るとき白のハイエースで現れるのだ。
 全員が20近辺の我々は当時車どころか免許すら持ってないオタクがたくさんいた。高校生と言われてもおかしくない童顔の男が乗り回しながら夕方過ぎに来るのは変な違和感があったのだ。
 裏でものすごく話題にしていたが、なんとなく怖かったのですぐには話しかけることはしなかった。と言っても気になりすぎるが勝って2週間後には彼の肩をたたいて「もしかして…某大の新入生?皆伝だから話しかけちゃった…ごめんねっ!」をしていた。
 彼は我々の予想していない答えをすぐにたたきつけてきた。「えっ、この辺大学あるんすかぁ?全然この辺の人間じゃねぇーんでわからんす。」
 

What???? 


 話を聞いてみるとなんと彼はSくん。岡山から出張してきたただのサラリーマン。歳は一個したと意外と離れていない。maimaiを結構やっていたが最近はビートマニアにお熱。とのこと。
 私事だが、岡山県の皆伝には2,3人ほどTwitter上の知り合いがいた。なんならライバルがいた。
 「〇野とが、〇ゃんさんとか知ってる??ライバルなんだけど…」と彼に聞いてみるとテンションをこのうえないほど上げてから、「みんな友達じゃ!」と騒ぐ声が胆振中に響き渡った。
 そこからは早かった。なぜか一人が友達になると周りもこぞって話しかけていく田舎のゲーセンネットワークあるあるが発揮され閉店後駄弁りメンツにすぐに参加することになった。
 5月5日のビクトリアでハナビを打ったり、何度も家まで送ってもらったり、ひたすらおしゃべりしたり、ありえないほどのスピードで仲が深まっていく感覚があった。彼の口癖だった「やべくねーっす!?」は胆振の音ゲーマーの中で流行り散らかすこととなる最強のキラーワードだった。
 8月。別れはすぐに訪れた。出張は8月末に終わるとのことだった。
 ここまでの1年半の間音ゲーマーとの別れというのは一度も経験したことなかった僕たちは心底悲しんだ。4か月しか関わっていないのにもかかわらず強烈なインパクトを北海道の片田舎に残してくれた功績はデカすぎた。最後に監獄カラオケに行ってお互いやけに盛り上がって別れたのを今でも覚えている。それから4年半後に再開するのだがそれはまた別のお話。

16 「社会ってなぁ…いろいろあるねんなぁ」

 2019年10月。学校に行ったり行かなかったりしてたある日、友達から「"コネクト"っていうイベントが札幌であるんだけど行かない?」という誘いがあった。聞いてみると音ゲーの曲が流れ散らかすクラブイベントが開催されるとのことだった。
 Beatnation Summit2017に参加したことがあり、最高の思い出を作ってしまった自分は、札幌でそんなイベントがあると聞くなり再来を願ってしまい即参加を表明してしまった。
 当日、友達の車に揺られながらすすきのを目指す。目的地はちょっとだけ有名なクラブ。
 着くなり周りはオタクまみれ。THE 音ゲーマーの群れの中開店を待つ。門が開いて中に入るなりNo tearsが流れる。そんなに好きなわけではないが浴びるだけでテンションが上がるのがクラブという場所だ。無残な姿で酒を飲みながら叫んでいた。
 そんなこんなで今回一番のイベントが。Naoki MaedaのDJだ。
 彼は登場してマイクを取ると一言。「今回は僕のルーツをさかのぼっていきたいと思います」と。
 大鳥居でも流してフロアを爆発させるのか?とか思っていると、彼はCan't stop fallin' love-super euro version-を流した。セガゲーマーが半分くらいを占めているであろうこのフロアで。
 おじさんは大発狂。俺も叫び散らかした。踊っているニキネキもいた。泣いている者も。そこからはNaokiのユーロが出るわ出るわ。僕は次のTatshがヌッと出てくるまでずーーっと叫んでいた。楽しすぎて何も覚えていないけれど。
 そのあと、某さんのDJが始まると、おもんなさすぎて水を買いにローソンへと向かった。
 たまたま今年から札幌で働き始めた友人もその場にいたため、彼も誘った。ローソンに着きタバコを吸っていると、見たことのある影がミンティアを買っていた。「あれっ…Naokiじゃね??」
 「すみません。Naokiさんですか?」と聞くと、
 「んっ、せやで~」と笑ってくれた。ヤバすぎる。レジェンドDJがそこにいる。
 絶好のチャンスだと感じた僕は、Naokiに好きな曲の話を持ち掛けると、彼はとても穏やかに「ありがとうなぁ~」と返してくれた。
 気をよくしてくれたのか、KONAMI在籍時代のあまりしてはいけないであろう話も語ってくれた。Lincle付近に実際に起こったであろう話し合いなどはとても聞いていて興味深かった。あのときああいうことになっていなかったら、今のBEMANIシリーズはどうなっていたんだろうか。
 「君は…学生か。なるほど。君は…社会人か。そっか。社会ってなぁ…いろいろあるねんなぁ。なぁ?君も感じてるだろ。でもそこを乗り越えてこそやで。がんばり!」
 締めにいい言葉を残して彼は一人クラブハウスへと戻っていった。かっこよすぎて手が震えた。
 そんな、最高の思い出Phase II。

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