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日本語教師は、Google翻訳以上のパフォーマンスを発揮できるのか

釣りみたいなタイトルですみませんが、今日は、日々の授業の中で感じている、タイトルのようなインパクトについて書いてみたいと思います。

山の日本語学校では、授業中に母語を使うことは特に禁止していません。むしろ授業中に、母語や英語で議論をすることは、普通の授業風景です。その代わり、話し合った結果は、必ず日本語で報告、共有することにしています。1日の授業で、何回も日本語でのアウトプットの機会があります。
で、このアウトプットの時に、学生が多用するのが、Google翻訳です。
特に、入学して間もなく、日本語があまり話せない学生は、よく使います。

そこで今回は、学生が日々、授業の中で行っていることを、具体的にお見せしながら、授業の様子を説明しようと思います。とはいうものの、学生が授業の中で考えたり、書いたりしていることは、学生に著作権がありますから、公開するには許可が必要です。

それもいろいろと面倒なので、今回は、TED動画を使って、試してみたいと思います。題材に使ったのは、下記。

(日本語訳)レラ・ボロディツキー : 言語はいかに我々の考えを形作るのか

この動画を選んだのに他意はありません。TEDなら、スクリプトや翻訳が充実しているのと、たまたま、このプレゼンを見ておもしろいなと思ったからです。

Google翻訳の使い方

では、学生の使い方を紹介していきます。まず、自分が言いたい、伝えたいと思うことを、英語でGoogle翻訳に直接入力していきます。
ここでは、上記、Lera Boroditskyさんのスピーチの冒頭部分の英語スクリプトを、Google翻訳にコピペしてみます。

元の英語はこれ。

So, I'll be speaking to you using language ... because I can. This is one these magical abilities that we humans have. We can transmit really complicated thoughts to one another. So what I'm doing right now is, I'm making sounds with my mouth as I'm exhaling. I'm making tones and hisses and puffs, and those are creating air vibrations in the air. Those air vibrations are traveling to you, they're hitting your eardrums, and then your brain takes those vibrations from your eardrums and transforms them into thoughts. I hope.

Google翻訳で生成された日本語は下記です。

だから、私は言語を使ってあなたと話しています...できるからです。 これは人間が持っているこれらの魔法の能力の1つです。 私たちは本当に複雑な考えをお互いに伝達することができます。 だから私が今やっていることは、私が息を吐くように私の口に音を出すことです。 私はトーンとヒスとパフを作っており、それらは空気中で空気振動を作り出しています。 それらの空気の振動はあなたのところに行き、彼らはあなたの鼓膜に当たっています。そして、あなたの脳はあなたの鼓膜からそれらの振動を取り、それらを思考に変換します。 私は願います。

TED動画につけられていた日本語訳は以下でした。

私は言葉を使って 皆さんにお話しします— そうできますので これは人間の持つ 不思議な力のひとつです とても複雑な考えを 伝え合うことができます 私が今しているのは 息を吐きながら 口を使って音を作るということで かすれた音や はじける音を出し それが空気を振動させ その空気の振動が 皆さんのところに届いて 鼓膜にぶつかり その鼓膜の振動を 脳が 思考へと変えるのです 願わくは

両者を比べてみても、そんなに大差ないように思います。Google翻訳の方が、多少、語彙が固いくらいです。句読点もきちんとついています。
そうです。今のGoogle翻訳って、すごく進化しているのです。

そして、Google翻訳の下には、ローマ字で読み方まで出てきます。
学生は、だいたい、このローマ字を読んでいます。
漢字が読めなくても、ほぼほぼ伝わります。

これだけの作業をするのに、1分もかかりません。
ITエンジニア達なので、入力は高速です。場合によっては、タイムラグを感じないほどです。

もっと大掛かりなプレゼンの時には、このGoogle翻訳で生成された日本語訳のローマ字を、スライドのコメント欄にコピペして読み上げてます。

発話の練習方法

いやいや、いくらローマ字で書いてあるからと言っても、正確に発話するのは難しいでしょ、とお思いの方。ご心配なく。
東京大学大学院の工学系研究科、峯松研究室の開発している「韻律読み上げチュータ スズキクン」があれば、読む練習もできます。
先ほどの日本語訳を「スズキクン」にコピペしてみます。

こんな感じで、アクセントや韻律も表示され、実際に読み上げてもくれます。noteでは、音声まで再生できないので、実際、使ってみて欲しいのですが、かなり正確です。学生も、「スズキクン」を使って、発話の練習をしています。

日本語教師の役割再考

と、ここまで見てくると、「じゃ、日本語教師は何をしているの?」という疑問が湧いてくるかと思います。うーん、何をすればいいんでしょう。

日本語教師の役割については、おいおい書いて行こうと思いますが、その前に、ここでもう一度考えてみたいのです。

上記のスピーチ内容を学生が伝えられるようになるまでに、従来のやり方をしたら、どのくらいの学習期間が必要でしょうか。
『みんなの日本語』の Ⅰ と Ⅱ を半年かけて勉強したあとなら、言えるようになりますか?
それとも、中級、上級レベルの日本語になりますか?

私は、山の日本語学校で授業をするようになってから、数分の作業でできることを、半年も、1年もかけて学習するなんて、コスパが悪すぎると思うようになりました。
もちろん、私は今まで、学習者に対して、1年も2年もかけて日本語を教え込んできた教師なので、従来のやり方を真っ向から否定するわけではありませんし、対岸から物申すようなことはしたくありません。

それでも、このような現実があることを踏まえ、日本語教師がGoogle翻訳以上のパフォーマンスをあげるには、何をしたらいいのだろうと日々考えざるを得ません。そして、これは、従来の日本語教師の役割を再考するための大きな「問い」だと思います。
最近、取り沙汰されることが多い日本語教育ですが、このような技術の進化に触れるたび、実は、もっと根本的な「教育のあり方」を考え直す時期に来ているのではないかと思っています。

「日本語教師の資格導入」も話題になっていますが、このようなIT技術の進化に対して見合うだけの資格の中身が検討されるのでしょうか。ここは、当事者として、注目していかなければならないと思っています。

おまけ①

文化審議会国語分科会から「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(二次報告案)」に対して、パブリックコメント募集のお知らせが出ていました。自分ごととして、提言して行きたいですね。
「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(二次報告案)」の日本語教師【初任】(活動分野:就労者,難民等,海外)に関する意見募集の実施について

大学日本語教員養成課程研究協議会(大養協)からアンケートの依頼も出ています。
「日本語教員実態調査 2018 :待遇に関するアンケート」

おまけ②

Google翻訳は、ものすごい勢いで進化しています。以下の記事では、Google翻訳の進化を支える技術について、とてもわかりやすく説明されています。
Google最新技術「BERT」と「東ロボ」との比較から見えてくるAIの課題」(HARBOR BUSINESS Online)

以上、今回は、Google翻訳が日本語教師にもたらすインパクトについて書きました。

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ヒラサワエイコ

自称 フルスタック日本語教師。緑に囲まれた日本語学校で、ことばとは、教育とは、学びとは、など考えながら、日々試行錯誤してます。なお、ここでの発言は、ヒラサワ個人の見解です。

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