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ショパントーク翻訳 反田恭平、角野隼斗、進藤実優

だいぶ時間が経ってしまいましたが、第18回ショパン国際ピアノコンクール1次予選が終わった後のショパントーク。そちらに登場された日本人コンテスタントである反田恭平さん、角野隼斗さん、進藤実優さんを含む全会話を、練習のために訳してみました。

この記事はここ数年でピアノに魅了され、国際コンクールまで追いかけはじめたクラシック音楽初心者が、その余韻を味わう目的で残す備忘録です。

特に音楽的な表現など詳しくないためにうまく訳せないところはカッコ表記でカタカナや英単語のまま書いてる箇所もあります。ご容赦ください。

<出演>
ホスト:Rachel Naomi Kudo, Alessandro Tommasi
ピアニスト:右から角野隼斗、Yutong Sun、進藤実優、Zuzanna Pietrzak、反田恭平、Talon Smith

※以降、反田さん、角野さん、進藤さん、Zuzannaさん, Talonさん, Yutongさんとお呼びします

放送日:2021年10月5日 (火)12:00 - 12:30(ワルシャワ時間)
    2021年10月5日 (火)19:00 - 19:30(日本時間)
    Warsaw Philharmonic Concert Hall


【Rachelさん】ポーランド・ワルシャワからこんにちは。こちら第18回ショパン国際ピアノコンクール、1次予選第3日目、Rachel Naomi Kudoです。こちらにはこの2日間で演奏された素晴らしい6人のピアニストたちをお迎えしています。

【Alessandroさん】Alessandro Tommasiです。いつものお決まりの質問ですが、みなさんに自己紹介いただきたいと思います。隼斗さんから、お名前、どちらからいらしたか、どこでお勉強されているか教えていただけますか。

【角野さん】日本の東京から来ました、角野隼斗です。東京大学で勉強していました。あと何でしたっけ?

【Rachelさん】好きな食べ物とか?(笑)

【角野さん】好きな食べ物ですか?日本食もポーランド料理も、すべて好きです。

【Yutongさん】中国から来ましたYutong Sunです。現在アメリカ・ボストンのNew England Conservatory of Musicで勉強しています。(以降みなさんの学校の表記はショパンコンクール公式アプリを参考にしています)

【進藤さん】日本から来ました進藤実優です。19歳です。モスクワのCentral Music Schoolで勉強していました。

【Zuzannaさん】Zuzanna Pietrzakです。ポーランドから来ましたが現在ドイツのハンブルクのHochschule für Musik und TheaterでHubert Rutkowskiさんに師事しています。

【反田さん】よろしくお願いします。反田恭平です。Moscow Tchaikovsky Conservatoryで学んでいましたが、現在ワルシャワのFryderyk Chopin University of Musicで勉強しています。

【Talonさん】アメリカから来ましたTalon Smithです。現在プライベートでGarrick Ohlessonさんに学んでいます。

【Rachelさん】Garrickさんといえばショパンコンクールで優勝された方のひとりである素晴らしいピアニストですよね。

最初のショパンは?

【Rachelさん】ではTalonさんからお伺いしましょうか。最初のポーランドというかショパンの音楽との出会いやその時の印象は憶えていますか?

【Talonさん】憶えていると思います。とても幼いころから両親がショパンのテープやテレビでの録音をよくかけていて、そういうのをたくさん聴いて育ちました。最初に聴いたショパンの作品でしっかり覚えているの「Walts in E flat major Op.18」(華麗なる大円舞曲)です。それは印象的だったので驚くようなものだったのですが、リズミカルでアップビートな雰囲気が伝わるような作品だなと思いました。それが興味深いことに、かのショパンでした。

【Rachelさん】優雅で華々しくて、ファンファーレのようなものではないですよね。記憶に残るものだったというお気持ちがわかります。

【反田さん】9歳ごろだったと思うのですが「Mazurka in F major」(マズルカ第48番)を弾きました。この作品を習いはじめたとき、心に残るような印象的な曲だったことが良い思い出です。

【Zuzannaさん】ポーランド人としてはショパンの血が流れているようなものですから。学校でピアノの先生から学んだのが8~9歳の時だったと思います。また両親が音楽家ということもあって、いつもショパンの音楽に囲まれていました。

【進藤さん】私の場合、人生で初めて弾いたショパンの作品は憶えていないのですが、ショパンがマズルカやポロネーズなど素晴らしい舞曲を書いた素晴らしい作曲家であると思ったことは憶えています。日本では、もちろん私は日本でピアノを習い始めたのですが、先生と簡単なマズルカを弾いて楽しんでいた記憶があります。

【Alessandroさん】ご自身も踊られるのですか?踊るというより弾くことが好きということでしょうか。

【進藤さん】そうですね、もちろん、舞曲が好きということですね。

【Yutongさん】初めてショパンの音楽を聴いたことは本当に憶えていません。きっと3歳以下だったのでしょうね。人間って3歳以下は記憶がないと言われますので。ただステージで最初に弾いたのが「Waltz in A flat major」(ワルツ第5番)で、とても印象に残っている経験です。

【角野さん】私もしっかり憶えていないのですが、最初に弾いた作品は「Grande polonaise brillante Op.30」(華麗なる大ポロネーズ)で5~6歳でした。次に「Waltz in E minor」(ワルツ第14番)でしたがとても美しくて気に入っていました。

【Alessandroさん】いつピアノを習い始めたのですか?とても小さなころから?他の楽器もやっていらっしゃるのですか?

【角野さん】うーん、そうですね。メインはピアノですが。弾き始めたのは2~3歳でした。母がピアノの先生で家にピアノがあったので、自然とピアノに触れるようになりました。

ショパンコンクールを知ったきっかけ

【Rachelさん】お母様がピアノの先生ということでショパンコンクールのこともお母様からお聞きになったのですか?最初にコンクールのことを知ったのはいつだったか憶えていますか?

【角野さん】憶えていないのですが、おそらく2人の日本人が4位になった2005年が最初にコンクールを知ったときだと思います。

【Rachelさん】興味があるのですが、みなさんで最初にショパンコンクールを知ったときのことを憶えている方はいらっしゃいますか?特にZuzannaさんはポーランド人ですし、これはポーランドのピアニストが通るべき登竜門だったのですか?どう思われているものなのですか?

【Zuzannaさん】実際にここにいることですよね?

【Rachelさん】はい

【Zuzannaさん】コンクールはいつもそこにあるものでしたね。初めて知ったのはおそらく3歳のとき、2000年の回でした。それ以降のコンクールは毎回よく憶えています。というのもいつもテレビで配信されていましたし、身近なものだったからです。学校のピアノの先生に参加させられたということもありました。6年前、18歳のときにすでに参加しましたし。先生だけでなく両親も参加するよう言いましたし、ポーランド人にとっての文化でもあります。ショパンコンクールは将来的にも重要なことですし、ポーランド人ならみんな多少なりとも少しはショパンコンクールのことを考えるのだと思います、可能なら。

【Alessandroさん】機会があれば1回受けてみようというかんじでしょうか。

【Zuzannaさん】わからないですけどね。素晴らしい機会ですので。

【Alessandroさん】もちろんですよね。私たちはショパンコンクールの第一印象を聞かれることが多くありますが、同時に過去の受賞者についてもよく語られますよね。優勝者だけでなくその下の賞の方々もコンクールの広告塔としての貴重な役割を担うというのは明らかです。例えば昨日お話したように、前回の韓国のチョ・ソンジンさんもどれだけコンクールの名を広げたことか。過去の優勝者に師事しているTalonさんにお伺いしたかったのですが、Talonさんがこのコンクールに参加するにあたってOhlessonさんの影響はどういうものだったのですか。

【Talonさん】初めてコンクールを知ったのがOhlessonさんを通してだったかという質問ですか?

【Alessandroさん】はい、もしそうであれば。それは彼の影響か、それとも違うことだったか。

【Talonさん】そうとも限らなかったです。実はショパンコンクールのことは前回まで知りませんでした。2016年チョ・ソンジンという名前を聞いて、彼がショパンコンクールで有名になった方だと知ったのですが、若かったのでへぇそうなんだ、というくらいでした。その後、2年前くらいに自分もやってみたいと思うようになりました。Ohlessonさんに会ったのはその後で、コンクールの準備を一緒にしていただきましたが、コンクールへの参加を考えていたのはそれ以前でした。

【Rachelさん】恭平さんはいかがですか。ここにいるみんなそうですが、ベートーヴェン、リスト、プロコフィエフなどたくさんの他の作曲家の作品も勉強するわけですが、恭平さんがショパンについて思うことや印象はどんなものでしたか。ショパンコンクールに参加した理由はなぜですか。恭平さんはワルシャワで勉強されているとおっしゃっていましたよね。また最初に弾いたのはマズルカとのことですが、私にとっては捉えにくい(subtle?)表現でリズムとしても不思議と言うに近いニュアンスがあると思えるのですが、ここにきて勉強して何かマズルカについて見抜くことができたのですか。

【反田さん】ショパンをどう弾けばいいのかわからなかった、というか未だにわからないのですが、本当にショパンが好きなのでここワルシャワに来て勉強しようと決めました。そして最初に教授に会った時にショパンをどう弾くべきか聞いたところ、ただ美しくやってみて(笑)と答えるので理解ができませんでした。今はマズルカもポロネーズも少しだけわかる気がします。そしてショパンの手紙を読もうと思ったのです、それってとても重要なことだと思うので。そうしたらわかるようになってきて、コンクールに参加することにしたのです。もし3次予選に行くことができたらマズルカを演奏することができます。待ちきれないです、とても弾きたい。

【Rachelさん】楽しみにしているのですね。いいことですね。私たちも楽しみにしています。実優さんは最初にショパンコンクールを知ったときのことを憶えていますか?このコンクールはずっと夢だったのですか?

【進藤さん】よく覚えいないのですが、日本ではショパンコンクールというと世界で最も人気があり有名な国際音楽コンクールであることで知られていますし、ピアノを弾く人じゃなくても聞いたことがあるというくらいです。コンクールの優勝者なども知っていたり。子供のころまさか自分がこのコンクールに参加する日が来るなんて想像もしなかったのですが、今ここ、10月のワルシャワにいるのは夢のようで信じられないくらいです。

【Rachelさん】実際に起こったということですね

【進藤さん】はい

【Alessandroさん】少しでもワルシャワを見る時間はありましたか?

【進藤さん】観光ということですか?

【Alessandroさん】そうです。多忙なスケジュールだとは思いますが。

【進藤さん】はい、そうなんです。練習場から練習場へと走り回っている状態で忙しいので出かけることができなくて。でも7月にショパン博物館を訪れることができて、ショパンの筆跡やお財布みたいなものや日記など、とても興味深いものを見ることができました。それによってショパンも人間だったのだと感じることができて、とても貴重な経験でした。

【Rachelさん】Yutongさんはいかがですか。

【Yutongさん】最初にショパンコンクールを知ったのは中国人が優勝した2000年だったと思います。でもそのときに自分も参加したいと思ったわけではありませんでした。というのもショパンの音楽を聴いたり弾いたりするのはとても好きでしたが、ひとりでもコンサートでも。でもショパンコンクールに出ずに他のコンクールでショパンを弾くのはリスキーだと思ったのです。みなさんすべてのショパン作品を知っているわけですし。よくわからないままでしたが、ショパンコンクールが近づいているから、それなら申し込んでみようということになりました。

コンクールの演奏曲

【Rachelさん】それでは最も難しかったことはなんですか。ショパンコンクールというのは通るべき道だったのは確かですが。何かすでに学んだことはありますか?準備を通して、ここまで進んできた中で、レパートリーを選んだり準備する中でなど。どなたかいらっしゃいますか?例えばパンデミックのために1年遅れたことで不安になったりしたでしょうし。いつ始まるのか、いつ演奏することになるのか未定で。この時間は助かったと思うものですか、それとももう準備はできているのにスケジュールを止めなければならなかったなど、もどかしいものでしたか。

【Zuzannaさん】私にとっては新しいレパートリーを学ぶことができるさらなる時間で、よりレパートリーの選択幅が広がりました。

【Alessandroさん】レパートリーを変えたのですか?

【Zuzannaさん】はい、変えました。レパートリーの構造(construction)が変わってより良くなりましたし、なぜその作品をその順番にするかなど考える良い時間になり、気に入った選択になりました。

【Alessandroさん】隼斗さんはいかがですか。レパートリーの話の続きですが、どの作品をステージに持っていくか、どうレパートリーを選びましたか。

【角野さん】みなさんと同様に子供のころからショパンを弾いてきたわけで、最初に長く弾いてきたレパートリーを選択しました。そして純粋に自分が弾きたいと思うものを選ぼうと思いました。

【Rachelさん】いいと思います。ご自身にとって心地が良くて、演奏を愛することができるものを選ぶべきだと思いますし。もちろんそうですよね。

【Alessandroさん】もちろん、もちろん。

【Rachelさん】その他の方はいかがでしょう、レパートリーを変えた方はいらっしゃいますか。

【反田さん】はい、変えました。3次予選のものをラルゴにしようと決めました。

【Rachelさん】拝見しました。珍しいですよね。

【反田さん】はい。これまでコンクールで弾いた人はいなかったと思いますがラルゴを入れました。ラルゴはほんの2分間ほどの作品で、私にとってはコーラスや教会音楽のように思えるものなのですが、とても好きなので選びました。ラルゴの後はポロネーズにして。きっとおもしろいと思うのです。実は私は指揮に興味があって、指揮者にもなりたいのです。いま勉強をしていますし、自分のオーケストラも持っています。そこでショパンの協奏曲をソリスト・ピアニストとして、また指揮者として演奏しているのですが、なぜ指揮者として演奏したいかというと、ショパンがオーケストラの楽器やパートについてどういう考えだったのか知りたいからです。

【Rachelさん】もしかしてクリスチャン・ツィメルマンに刺激を受けたのですか?ご存知の通り彼はそれをしたのですものね。

【反田さん】そうです、大好きです。私の好きなピアニストはミハイル・プレトニョフ、バーンスタイン、カラヤン、バレンボイムなど、彼らもピアニストであり指揮者です。なので私はオーケストラを持っているのです。

【Alessandroさん】確かにそうですね。指揮者はショパンの音楽はそれほど考えないというか、どちらかというとシューマンやブラームスのような交響楽的な編成(structure)を好みますよね。いかがでしょう、Talonさん、ショパンの音楽には交響曲的な影があると思いますか?私たちピアニストはピアノに集中しがちで、歌は少し感じられるくらいですがチェロもトランペットの存在はいまいち感じられないものだったりしますよね。

【Talonさん】それぞれの作品によるところが大きいと思います。幻想曲というとても装飾的でオーケストラ的なものもありますし、Prelude No.7 in A major Op.28-7(前奏曲 第7番 イ長調)はもう少しアンサンブル的。ソロに近いかもしれませんが。まぁ曲によりますね。こうして声であったり他の楽器であったり、作っている音がピアノだけではないと意識することが重要だと思っています。それによりトーンやカラーのバリエーションを作ることができますし、緻密な音楽の表現としてもおもしろいと思っています。

【Rachelさん】おっしゃる通りだと思います。ショパンはピアノが完全で想像を掻き立てる楽器になり得ると知っていたために、こういった点で私たちは彼に感謝ですよね。ショパンは若い頃、交響曲やオペラを書くよう勧められていましたし、

【Alessandroさん】作曲家としては当たり前なことだったのでしょうね

【Rachelさん】はい、それもありますが。それはやはり彼の先生や人々がこのこと、またショパンが天才だということを知っていたからでしょうね。とはいえピアノに全力を傾けたのはショパンの意思だったので、私たちはたくさんの恩恵を受けましたよね。ちなみに私が学生の時、他の楽器の友人たちは羨ましがっていました。ショパンはバイオリンやフルートなどの作品を書かなかったので。

【Alessandroさん】ちなみにチェロの作品はありますね。

【Rachelさん】あ、チェロですか。

【Alessandroさん】フルートもののバリエーションで、言ってしまえば傑作というより小さな作品ですが、チェロソナタです。

【Rachelさん】みなさんショパンで好きな作品は何ですか。例えばコンクールでこれから弾くのを楽しみにしているとか、すでに弾いたレパートリーの中でこの1曲とか。

【Alessandroさん】誰から始めます?実優さん?

【進藤さん】きっとすべてのピアニストは全部好きだと言うべきなのでしょうけど、私のレパートリーの中では特に舟歌ですね。世界で最も美しい作品のひとつだと思います。またこの作品は私は弾かないのですが、マズルカを聴くのも好きです。このマズルカという特定の1曲はないですが、マズルカ全般です。また歌曲もですね。興味深い作品がたくさんあって、ショパンは若い時から晩年まで書き続けましたし、好んで聴きます。

【Zuzannaさん】マズルカを弾くのが待ち遠しいです。2次予選に1曲追加したので、今回の私のレパートリーには7曲あります。マズルカは私にとってとても特別なものなので楽しみですし、次のステージでは特に楽しんで弾けるといいなと思っています。

【Alessandroさん】Yutongさん、ソロのことばかりお伺いしてきたので協奏曲ではいかがでしょう。これまでオーケストラと一緒に演奏する機会はあったのですか、それとももしファイナルまで進んだらそれが初めてになりますか?

【Yutongさん】協奏曲を初めて弾いたのは13歳の時でした。もちろんこの2次予選では弾きませんが。両方弾いたことがありますが、第2番の方が好きですね。

【反田さん】第1番はおそらく20回くらいオーケストラと一緒に演奏したことがあります。

【Alessandroさん】なんと、それは多いですね。

【反田さん】アンドレイ・ボレイコさん指揮のワルシャワ・フィルハーモック・オーケストラでも弾いたことがあります。

【Alessandroさん】いろんな経験があるのですね

【反田さん】はい。とはいえ演奏はいつも、いつも、難しいものです。特に第1楽章のコーダは難しいですね。

【Alessandroさん】技術的にも難しいものなのでしょうか?

【反田さん】もちろんです。

【Alessandroさん】というのも、オーケストラにとってショパンの協奏曲はやりづらかったりしますよね、退屈だからとそんなに好きじゃないとかもあったり。たしかに彼らにとってルバートやカンタービレに続くのは難しいことですし。そういうこともまた難しいと思うものの中にあるのでしょうか。

【反田さん】私たちもそれぞれのパートがいつ弾くか知らないといけないことも難しいものです。でも私が最も好きな作品はショパンの協奏曲です。とても美しいです。

【Rachelさん】どちらのですか。

【反田さん】第1番です。

【Rachelさん】なるほど。

【Alessandroさん】Talonさんいかがですか。

【Talonさん】好きな作品ですか。

【Alessandroさん】はい。好きな作品と、協奏曲について。これまでオーケストラと演奏したことはありますか。パンデミックによってたくさんの公演が中止になって大問題になりましたけど、このワルシャワに来てコンクールで弾く前に演奏する予定があったのに、突然2年間中止になったことなどありますか。コンクールの準備への影響はありましたか。コンクールの練習になるような機会はありましたか。

【Talonさん】はい、地元で小さなホームコンサートで演奏する機会がありました。

【Alessandroさん】オーケストラと?

【Talonさん】いや、オーケストラなしで。セカンドピアノとでしたが、いろいろな点でそれに匹敵する良さはありました。というのはセカンドピアノと合わせるのはオーケストラより難しいですし。

【Alessandroさん】なぜですか。

【Talonさん】メリットとデメリットと両方あります。音を鳴らすときピアノは直接届きますが、オーケストラとでは音の回り?丸さ?(round to the sound?)があるのでぴったり合わなくても良いからです。なので要求される正確さで言うとピアノと練習する方がオーケストラより準備に役立つと思います。もちろんオーケストラと練習することは良いことですが、両方価値があると思います。ありがたいことにある程度、他のレパートリーで一緒に演奏する機会はたくさんありますし。同僚が言うにもパンデミックでの中止は良い機会でもあったといいます。後ろのオーケストラにプレッシャーを感じずに、アートに集中できる。自分が本当にやりたいこと考える時間があったからです。そして他のレパートリーのことを考えることができる時間でもありました。というのもいつも1人の作曲家の作品群を考えてばかりいるのではなく、他の作曲家から学べるものを考えるのは重要なことだと思うからです。

【Alessandroさん】バッハやその他の作曲家、またはその時代やその後の時代の作曲家たちについて学ぶことで、何かショパンの音楽について学べるものがあると思いますか。

【Talonさん】そう思います。違いがわかってショパンの個性、何がショパンらしさなのかが引き立ちますし。

【Rachelさん】隼斗さんいかがですか。ショパンの協奏曲を演奏する機会はありましたか。

【角野さん】第2番は演奏したことがないのですが、第1番は5~6回あったと思います。私は第1番がとても好きですね。

【Rachelさん】両方素晴らしい曲ですよね。

【Alessandroさん】両方素晴らしいので選ぶのは難しいですよね。それぞれが似ていながらもとても違いますし。若い作曲家がこんな傑作を書くなんて凄いことだとわかりますよね。それぞれ違う特徴がありますね。隼斗さんもTalonさんがおっしゃったように、オーケストラだけでなくセカンドピアノと協奏曲を練習する機会はありましたか。それは違いがありましたか。より正確な音が必要だとか学ぶことがあったり、難しいことや役に立つことはありましたか。

【角野さん】もちろんセカンドピアノでとフルオーケストラでとは違いがありますよね。セカンドピアノとではテンポなどを変えるのは簡単ですが、オーケストラではできないので、その違いを知らないとなりません。ショパンのピアノ協奏曲ではオーケストラの音(notes)が多くありませんし、セカンドピアノとでは美しく弾くことは難しいです。

【Alessandroさん】セカンドピアノパートを弾くこともありますか。

【角野さん】はい、友人と練習する時などにあります。

【Alessandroさん】今回まさにオーケストラがどんな気持ちで演奏するかがわかりますね。音が少ないというのは多いより難しいですからね。

1次予選までの感想

【Rachelさん】みなさんコンクールを長いこと待っていて、ようやく今開催されたわけですよね。小さい頃から見ていたり歴史やこのホールについてご存知なわけですが、遂にこのステージに立っていることについて、どう感じていらっしゃいますか。これまでの経験は心地よかったですか、観客と温かいコミュニケーションはできて良いエネルギーを感じられましたか。予想通りでしたか、それとも違いましたか。

【角野さん】楽しめましたね。予備予選ではなぜかとても緊張してしまいましたが、昨日ステージで演奏したときは、この素晴らしいホールで観客の前で演奏できて、とても楽しかったです。最初は少し緊張しましたが1~2分経ったら良くなりました。

【Rachelさん】落ち着いたのですね、自分の演奏ができて。Yutongさんはいかがでしたか。

【Yutongさん】ステージでは心地よくなろうと努めるために、自分ひとりで弾いている想像をしていました。もし審査員や観客の前で弾いていると意識したら、自分の演奏がどう思われているか、気に入られるかどうか考えてしまうので。ひとりで弾いていると思えば、もっと楽になると思って、そうしましたね。

【Rachelさん】それはいいことですね。人目ですよね。ショパンは大きなホールで演奏することを好まなかったわけですが、彼はこの大きなホールにいることはどう感じるかと思うかというコメントがあると聞きました。ショパンは親しい家族や友達のための人目の少ないサロンでの演奏を好んで、ほとんど公の場で演奏しなかったのですよね。Youtongさんがおっしゃった大きなホールで弾いていると思わずに聴いている周りのことを考えないようにするということは、とてもショパンっぽいと思います。そのメンタリティは素晴らしいですね。実優さんは10時からの最初の番でしたが、それは大変でしたか?

【進藤さん】もちろん(笑)

【Rachelさん】眠かったですか。

【Alessandroさん】コーヒーどれだけ飲みましたか(笑)

【進藤さん】いや、コーヒーは飲まないんです。

【Alessandroさん】それはさらに大変になりましたね(笑)

【進藤さん】でもこの経験はとても特別なものになりました、みなさんそうですけどね。私たちはステージの前にピアノ選びがあったわけですが、昨日ステージでその楽器を弾き始めたとき、完全に新しいものに感じたのです。その音響(acoustic)と音が新しくてフレッシュで、予想外の音でした。Youtongさんがおっしゃったことと同じですが、音楽に集中するようにして、これはコンクールなのだと思わないようにしました。ただ自分のベストを出すのみで、審査員がいると思わないように。でもこんな素晴らしいショパニストやポーランド人の前で演奏できるなんてとても光栄なことだと思っています。

【Alessandroさん】とても温かい観客ですよね。わかります。

【進藤さん】そうですね。素晴らしかったです。

【Alessandroさん】さてこれでショパン・トークは終わりになりますが、最後の質問として話題に登ったピアノについてお伺いします。みなさんどの楽器を選んで、その理由は何だったのですか。

【Zuzannaさん】私はスタインウェイ1番を選びました。スタインウェイの1番と2番しか試さなかったのです。というのもハンブルクで勉強しているので、スタインウェイばかりでしか練習していないので。

【Alessandroさん】賭けに出ましたね。

【Zuzannaさん】ご存知かと思いますが、ハンブルクはスタインウェイの街ですし、この楽器に慣れています。その中で1番を選んだのは、可能性として大きな音が出てこのホールに良いと思ったからです。

【Alessandroさん】わかります。いいことだったと思います。

【Zuzannaさん】大きいですし、私たちはその音を正しく作らないと(shape the sound)いけないので、この楽器の方が良いと思いました。ソフトにも美しいフォルテも演奏できますが、大きすぎないよう注意しないといけない。大きい音が出ると予想できるので、ただ叩いてうるさい音を出すのではなく、音を作らなければなりません。ピアノであれフォルテであれ。

【Rachelさん】恭平さん、このホールについてどう思われますか。ワルシャワに住んでいらっしゃいますし、このホールで演奏されたこともありますよね。演奏しやすいステージですか。

【反田さん】ホールについてですか。

【Rachelさん】はい。

【反田さん】実はこのホール大好きなんです、音響も。ここでオーケストラと一緒に演奏したのは1回だけだったと思うのですが、とても幸せな気持ちになりました。おそらくアーティストを幸せにするホールなのだと思います。だから好きです。

【Alessandroさん】ベルが鳴ってしまったので本当に終わりにしなければなりませんね。みなさん素敵なお話を、また見てくださった方々、どうもありがとうございました。次はこの午後のショパン・トークを楽しみにしています。

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