見出し画像

【戦評】「驚きの」平石采配と、鉄腕落日を暗示させる「衝撃光景」~4/14●楽天1-6ソフトバンク

完敗のソフトバンク3回戦

本拠地最多観客動員記録を塗り替えた日曜日の3回戦。
場内がTOHOKU BLUE一色に染まり、カラスコJr.(?)も出現したデーゲームで、楽天は前日に続き打線がふるわず散発の3安打に終わった。

相手先発・高橋礼は7回2安打1失点の今季3勝目をあげた。

楽天先発は今季初登板の近藤。
若鷹軍団との初顔合わせは、2回に2死走者なしから3失点。
伏兵・甲斐の3ランで主導権を手放した。

6回には1死2,1塁のピンチを作り降板。
救援に入った二番手・福山も、押し出し、9番・上林の2点打で火消しに失敗、致命的な3点を失った。

首位攻防3連戦は1勝2敗の結果に。
カード一巡したチーム成績は14試合8勝5敗1分の2位。
今後の戦いへ手応えを感じながらも、一方で課題も見えてきた14試合になった。

ゲーム差は1位・ソフトバンクと1.0、3位・日本ハムと1.0、4位・西武と1.5、5位・オリックスと3.0、6位・ロッテと4.5になっている。

軍のスタメン

ソフトバンク=1番・牧原(二)、2番・今宮(遊)、3番・内川(一)、4番・デスパイネ(指)、5番・福田(左)、6番・松本(三)、7番・釜元(中)、8番・甲斐(捕)、9番・上林(右)、先発・高橋礼(右)

楽天=1番・田中(中)、2番・茂木(三)、3番・浅村(二)、4番・島内(左)、5番・ウィーラー(指)、6番・銀次(一)、7番・藤田(遊)、8番・足立(捕手)、9番・辰己(右)、先発・近藤(右投)


見たくもない「信じられない光景」 

この試合、僕らは信じられない光景を目撃した。

近藤がピンチを招いて降板した6回1死2,1塁のこと。
火消しに急行した二番手・福山と7番・釜元の対戦。
初球打ちで中安を浴び、事態は1死満塁に拡大した場面だった。

釜元と言えば、今季開幕時で1軍通算わずか7打席の発展途上の若手である。
一方、福山は昨年不調とは言え、それまで4年連続の65試合登板以上。
両者の格の差は、決定的のはずだった。

ところが。

低めの初球139キロを芯で打ち抜かれ、痛烈なゴロ打球が福山の足元を襲う。
福山の反応も及ばず股間を射抜かれ、中前へ到達したのだった。

楽天投手陣の中で1、2を争う好フィールディングの持ち主が、まさかの股間突破。

こんな光景は、楽天に移籍してから2度目のはず。
ぼくの記録では2017年5/11ロッテ戦でダフィーの中安以来の衝撃シーンになっている。

この後、3ランの甲斐を過度に警戒したのか、ボール先行3-1から押し出し四球。
さらに9番・上林には内野前進守備のセカンド浅村の右を抜く右安を弾き返され、これが2点打になった。

この後もヒット1本を許した福山は、本戦0.2回で3安打1四球。
3安打は全てクリーンヒット、2死満塁で3番・内川の二直もヒヤリとする鋭い当たり。
全4打球いずれも打者がしっかり捉えた打球になっていた。

これが本戦だけの局地的な「たまたまの話」なのか。
それとも昨年の不調を継続するものなのか。

いずれにせよ、福山は2試合連続失点。
少し心配になる事案になってしまった。

好調救援陣の隠れた課題

福山の失点に顕著なように、今季の楽天投手陣は火消し成績が、イマイチかんばしくない。

ここで言う火消しとは、走者有で登板し回途中に降板したところまで、もしくは3アウトでイニングを完了したところまでの対戦成績を指す。

3/29ロッテ戦(●E4-5M)で火消しに入った石橋が2死3,1塁でレアードに一発くらい、2死走者なしでバルガスを左飛に仕留めたが、このバルガスとの対戦も対象としている。

という前提条件で今季の火消し成績を確認すると、下記表を見てほしい。

◎楽天投手陣の火消し成績

前日終了時ですでに被打率.313、被OPS.950。
前の投手が塁上に残した走者を生還させたIR%は37.5%と高めの数字になっていた。

福山失敗の本戦終了時には、被打率.381、被OPS1.024、IR%44.4%へ。

火消し成績がイマイチでも、それが大きくクローズアップされていないのは、ゲーム展開の巡り合わせにも救われている部分が大きい。

たとえば、2点差以内の被打率.250、3点差以上だと.556。
接戦時はそれなりに成績が良いため(開幕戦を除くと)大事には至っていない。

しかし、走者有での起用が必然と多くなる左の高梨が、今年はまだ本調子ではない。
そろそろ状態を上げてきてほしいところだし、今後は走者を溜める前の継投を積極的に検討すべきだ。

左打者に強い希代のアンダースロー

試合前、中田浩光アナが金森1軍打撃コーチに取材したところ、初戦の右投の千賀、2戦目左投のミランダ、3戦目下手投げの高橋礼と、出どころが違う先発投手が3人続くローテ順は、ソフトバンクの戦略では?という話になったという。

その指摘は的を得ていて、試合後、高橋礼は「千賀さん、ミランダと左右の本格派のあとなので投げやすい。ラッキー」という談話を残している。

1週間前のオリックス3連戦では、初戦は本格派の山岡、2戦目は技巧派の東明、3戦目は荒れ球の榊原とタイプの異なる先発を並べられ、そこで調子をつかめなかったことがあった。

どうやら今季の楽天打線は、このようにタイプが異なる先発が並ぶと苦戦する傾向があるようだ。

さらにその下手投げが単なる下手投げではない。
高橋礼は、他のサブマリンとは一線を画す速球の平均球速が135.7キロを計測する、下手投げの中では異例のスピードボールの持ち主なのだ。

この特性が下手投げの弱点を覆い隠す。

一般にアンダースローは右打者には強い一方、左打者の対戦成績が悪化する。
球の軌道が左打者には見えやすく、左打者被打率が悪くなる傾向が高い。

この日、楽天もそれを考慮し、スタメンに左打者を6人並べた。
JBやオコエを外し、茂木と藤田がスタメンに名を連ねる今季2度目の布陣を敷いた。

しかし、高橋礼は左右どちらも苦にしないのだ。

昨年は左打者.224、右打者.213。
今年も本戦試合前で左打者.111、右打者.167。

なぜ高橋礼だけ例外なのか。
解説・岩崎達郎さんも指摘していたように、他の下手投げ以上にストレートの球速があるのが大きいらしい。

通常、下手投げはフライボール投手になるケースが多い。
打者が球の下っ面を叩くため、打球が舞い上がるのだ。

しかし、岩崎さんの解説によれば、高橋礼の浮きあがってくる球は想像以上のため、打者が上っ面を叩きゴロになるのだという。

実際、昨年の高橋礼のゴロ率は60.4%(リーグ平均46.1%)を記録。
本戦も好調イヌワシ打線を相手に70%超のゴロ率をマーク。
楽天は3点を追う4回2死1塁で銀次が中飛を打ち上げるまで、10打球連続ゴロアウトを喫するハメになった。

さらにさらに、高橋礼のテンポ良すぎるピッチングも影響した。

平石監督が「タイミングが遅れて直球に差し込まれた。相手のペースにならないようにしなければいけない」と敗戦の弁を述べたように、西武に在籍した牧田級の投球間隔は、観戦しながらプレーデータを逐次集計するぼくの作業もしばしば追いつかないほどだった。

楽天打者の構え遅れ多発の光景をみると、野球って、やっぱり『間のスポーツ』なんだなと思う。
間髪入れずストライク先行で投げ込まれるため、打席内で状況整理ができず、打たされゴロを量産した。

驚きの平石采配

そのなか、楽天の「少し驚かされる」作戦があった。

3点を追う5回、先頭・藤田が9球勝負に及ぶ粘りの対決を制し、右翼線へツーベース。
無死2塁で8番・足立を迎えたシーンだった。

ここで平石監督は足立にバント作戦を指示。
代打を送らなかった点は理解できる。

得点圏打率.444と高いJBを送る策もあったと思う。
しかし、ここでJBを起用するなら、最初からスタメンで使ったはず。
アンダースローを考慮してJBの代わりに左打者を起用したと思うし、また、NPB投手のアジャストも徐々に出来始め、まとまった当たりが出始めたJBに、見慣れない軌道の投手と対戦で調子を落としてほしくないという判断もあったかもしれない。

足立はしっかり犠打を決め、1死3塁を演出。
しかし、このバント作戦、珍しい采配になった。

◎2013年以降 3点以上ビハインドでの犠打記録

極端な投高打低が解消された2013年以降(本戦試合前まで)、3点差以上ビハインドで記録された楽天のバント作戦は合計13回あった。(打席結果ベース。スクイズは除く)

そのうち、本戦と同じく5回以降のバント作戦は6回。
その6回中4回は2,1塁と複数走者時に実施されており、本戦と同じく塁上の走者が1人しかいない状況でのバントは、わずか2回だけだった。

その2回のうち、2014年9/30オリックス戦、この時期の楽天はAクラス争いがほぼほぼ絶望的。
この試合の敗戦でCS完全消滅するほどの消化試合を戦っていた。

ということを考えれば、本戦のようにペナントレースの行方がまだ分からない段階での3点差以上つけられた5回以降のバント作戦は、直近6年のなかでは、2013年8/22日本ハム戦の4点を追う5回1死2塁、阿部の捕犠だけと言える。

それほどまで、珍しい采配だったのだ。

でも、足立にバントの判断は妥当だと思う。
今季まだノーヒットでバットになかなか期待できないため、アウトになるなら走者を1つ進めておこうという判断は間違っていない。

そこで1点取れなかったのが残念だった。
1死3塁で辰己の叩きつけた打球は高橋礼の頭上を越えていく詰り気味のバウンドに。

しかし、このとき、遊撃・今宮は前進守備を敷いており、マウンド後方で無難処理。
さすがに3塁走者も本塁突入できるはずもなく、1塁送球アウトで2死3塁になってしまった。

もし通常の守備体形なら三走生還で1点入ったと思われるだけに、残念なシーンになった。

イヌワシ打線の危惧すべき兆候

本戦のゴロ量産もあり、楽天打者のゴロ率が上昇している。

辰己涼介 73.3%
田中和基 58.1%
銀次 51.1%
茂木栄五郎 50.0%
島内宏明 48.9%
浅村栄斗 43.6%
ウィーラー 34.1%

とくに自慢の左打者のゴロ率が軒並み50%以上を記録しているのが、気がかりだ。

ゴロの量産は長打の発生確率を大きく下げる。
結果、楽天打線のホームランゼロは4試合連続に伸びた。

開幕14試合で、最初7試合は1試合平均1.14本のホームラン発生頻度が、後の7試合では0.29本に激減しているのだ。

今シーズンは一昨年、昨年以上のハイペースで各球団ホームランが飛び出している。
1軍登録枠が1枠増えて投手の復権なるか?と思いきや、近年の打高投低にますます拍車がかかっている様子だ。

そのなか、ホームランはもはや珍しいイベントではなくなった。
現在のパリーグは1試合平均1本は発生するのが日常光景になっており、一発で得点をブーストさせるのが当たり前の野球に変化している。

今後、楽天が優勝争いをするためには、一発長打への意識をもう1度高めていくべきだと感じる。

5.1回、打者24人、球数92、被安打7、被本塁打1、奪三振2、与四球1、与死球0、失点5、自責点5。

クリアした変化球ストライク率

近藤といえば、変化球の精度が最重要課題だった。
そのストライク率は昨年以下のとおり。

6/6巨人戦 50.8%
6/13中日戦 41.2%
8/18ロッテ戦 59.1%
シーズン全体 54.1%

先発3試合では50%を割り込むゲームもあり、救援を含めたシーズン全体でも54.1%の低さ。
変化球の約2球に1球がボールカウントになり、カウントを悪くする原因を担っていた。

しかし、この日の近藤、試合前の倉林知子さんの取材に対し「変化球が全体的に進化している」と手応え発言。

実際、2軍での最終調整になった4/9ロッテ戦での変化球ストライク率は75.9%の傑出値を叩き出していた。

本戦も良い傾向を継続し、60.4%をマーク。
これは1軍先発試合で投げた中では自身の最高値になっている。

変化球のコマンド力を磨け!

ここまでは上々。
ただ、ここからは、もう1段階上の目標をクリアしてほしい。

それは、変化球をストライクゾーンの枠内に投げることではなく、狙ったコース・ゾーンに思うように変化球を投げ切る技術だ。

2死走者なしから甲斐の一発で3失点した2回は、まさに典型的なイニングになった。

4番・デスパイネ、5番・福田と2者連続三振。
一見、上々に見えるが、その結果球はいずれも変化球が狙ったゾーンやコースを外れたものの、打者が対応できず三振したもの。
楽天戦の解説でもおなじみなギャオスこと内藤尚行さんがよく言う「ラッキー三振」だった。

その後の2連打も変化球の抜け球と速球の逆球をヒットにされたもの。
甲斐の3ランも1-2から外角低めを狙いたかったスライダーがゾーンに甘く入ったところを打ち返された。

ただし、あそこまで打球が伸びてEウィングに入ってしまったのは、風のいたずら。

とはいえ、どこかの場面で狙ったところにしっかり投げ切れていれば防げた3点。
この3失点をぜひ今後への授業料にしてもらいたい。【終】

・・・というような試合評や分析コラムを、今年もここnoteとまぐまぐメルマガで発表しています。
noteはマガジン『Shibakawaの犬鷲観戦記〔2019前半戦〕』がおすすめ。まぐまぐメルマガはこちらからお申込みできます
あなたの野球観、変わります! 読者登録をお待ちしております。


ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 150

読者の皆さんにいただいたサポートで、さらなる良い記事作りができるよう、心がけていきます。