【試合評】対ディクソン最強兵器、後藤光尊を先発起用しなかった首脳陣の「愚」~2016年5月17日●楽天イーグルス1-7オリックス

今季最多の借金7。秋田こまちスタジアムに早くも秋風吹き始める

投打も噛み合わなければ、采配も噛み合わない。

年に1度、秋田こまちスタジアムでの主催試合は、そんな表現が相応しい一戦になった。

打線は序盤に3度の併殺。ベンチは好投する相手先発を攻略するための工夫が見られない「座して死を待つ」拙采配。しまいには指揮官が遅延行為で退場処分をくらっていなくなると、それまで粘投で懸命に試合を作ってきた味方先発も耐え切れずプッツン。終盤には今日1軍に上がってきたリリーフ投手が派手に打ち込まれてジ・エンド。地元出身のベテラン選手が四面楚歌の中、孤軍奮闘したのが唯一の見せ場。

「夢と感動」とは裏腹に、チグハグな敗戦続きに早くも吹き始めた秋風を、ファンは敏感に感じ取っているのだろう。かの地に集まった観客は前年比5,684人減。昨年は7月開催で今年は冷え込みが残る5月、気候の事情もあったかもしれないが、それにしても見事な減りっぷりになった。

両軍のスタメン

オリックス=1番・西野(二)、2番・安達(遊)、3番・糸井(右)、4番・モレル(一)、5番・T-岡田(左)、6番・小谷野(三)、7番・ブランコ(指)、8番・伊藤(捕)、9番・武田(中)、先発・ディクソン(右投)

楽天=1番・岡島(右)、2番・藤田(二)、3番・今江(三)、4番・ウィーラー(指)、5番・松井稼(左)、6番・銀次(一)、7番・島内(中)、8番・茂木(遊)、9番・嶋(捕)、先発・塩見(左投)

塩見貴洋の投手成績

6回2/3、打者28人、119球、被安打7、被本塁打0、奪三振5、与四球2、与死球1、失点4、自責点4。

ブランコとの忌まわしき記憶、再び・・・

楽天は塩見。オリックスはディクソン。両先発の投げ合いで始まった8回戦は、3回表、オリックスの2点先制劇で動き出した。テンポの良い投球で序盤2回を三者凡退に退けてきた塩見が、この回に捕まった。先頭は7番・ブランコ。

長いペナントレースは技術と技術の応酬である同時に、記憶とイメージのつばぜり合いである、とは、私がリスペクトする某野球ブロガー(広尾さんじゃないよ!)の言葉だが、塩見には忌まわしき思い出、ブランコには懐かしのメモリーがあった。

それは両者の昨年対戦成績だ。7打数3安打、2三振、1四球、2本塁打。打たれた安打3本は全て打点付きになり、ホームラン2本のうち1本はバットをへし折りながらも左翼席に運ばれていた。

序盤2回までの打者6人には3球目に追い込むか、平行カウントから打たせて取るかだった塩見。そのカウント構築が、ブランコを打席に迎えて、初めてボール先行2-1になる。この辺りが昨年ヤラれたイメージが塩見の中に残っていたのだろうと思わせるシーンになった。

この後、フルカウント勝負にもつれこみ、ファウルで粘られ、そして8球目。外角130kmの変化球を一閃され、快飛球はバックスクリーン左へ。センター島内が懸命な背走でフェンス際で追いついたかに見えたが及ばず、フェンス直撃の二塁打になった。この一撃でその後の対戦は、完全にメンタルで後手にまわってしまった。

この二塁打を起点に2点を奪われた。2死から1番・西野に失投を右前へ弾き返され、2番・安達にはデッドボール。塁上全て埋まって2死満塁、3番・糸井には、銀次がよくやる詰まらせたフライを左前へポテンと落とす巧打を披露され、これが2点タイムリーになった。(楽0-2オ)

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ディクソンの投手成績

7回、打者25人、104球、被安打4、被本塁打0、奪三振4、与四球3、失点1、自責点1。

ディクソン制球良く快投。楽天打線、6回まで散発2安打

オリックスの先発ディクソンは、秋田こまちスタジアムが来日初の地方球場マウンドになった。慣れないマウンドにアジャストできず、制球乱すのでは?と期待されたが、前回登板5月17日東京ドームでの日本ハム戦(6回5安打4失点で3敗目)よりもコントロールは安定。

速球とナックルカーブの2本立てで全投球の90%以上を占めるというシンプルな投球ながらも、楽天打線を手玉に取るには十分。なんと、楽天打者は7回無死1塁で4番・ウィーラーが詰まったセカンドへのハーフライナーを打つまで、実に14本連続でゴロ打球を打つハメになった(そのうちヒットは僅かに3本)。茂木やウィーラーなど首をかしげてベンチに帰っていく姿が目立ったのも、この試合だ。

ただでさえ調子が良かったディクソン相手に、数少ない出塁劇をことごとく併殺でフイにする。そんな拙攻で、ディクソンを助けてしまった楽天打線。

1回は2番・藤田が球を良く見きわめ四球で歩いて1死1塁、しかし、3番・今江が6-4-3の併殺ゴロに倒れた。2点先制された直後の3回は先頭の7番・島内がチーム初安打で出塁。ここから反撃開始という矢先、8番・茂木が初球をあっさり凡打して6-4-3のゲッツー劇に。

きわめつけは4回だ。この回は直前に円陣を組んだことが奏功、岡島、藤田の1、2番コンビが連続四球で無死2,1塁のチャンスを作った。

しかし、3番・今江がバント空振り等で送ることができず、2-2から打って出た打撃が、セカンド西野の頭脳プレーを生んでしまった。正面を襲うライナーを直接キャッチせず、故意に手前着弾させて処理、そのまま2塁ベースを踏んで1塁走者を封殺にし、ライナーだと判断して1度帰塁して再び3塁へ走り出した2塁走者・岡島を追いかけてタッチアウト。無死2,1塁が一転、2死1塁になってしまった。

打線が6回まで散発2安打に封じられ、数少ない走者も3度のゲッツーで潰していた。さらに6回裏には2死2塁で2番・藤田の遊ゴの1塁アウト判定を巡って、梨田監督が5分以上にわたる猛抗議。遅延行為と見なされ7年ぶりの退場処分をくらっていた。

▼試合後の指揮官のコメントを聞くと、この後、一塁手モレルの膝が地面についたとき、右足がベースから離れているのでは?という抗議だったようだ。しかし、この時点で捕球は完了している。1塁塁審・佐藤はそうジャッジしたのだろう。

打線の拙攻、指揮官の退場...このことで懸命にゲームメイクしてきた先発・塩見もプツンと緊張の糸が切れてたのか、7回に崩れてしまう。

先頭・小谷野に二塁打を浴びて無死2塁、打席には因縁のブランコ。1打席目に中越え二塁打、2打席目は四球と気を良くしていたブランコに、この場面で進塁打のチーム打撃を許してしまう。この後、いずれもフルカウント勝負になった8番・伊藤、1番・西野に短長のタイムリー2本を打たれて2失点。塩見は3アウトを取る前にマウンドからの退場を余儀なくされた。

楽天は直後、先頭の代打・後藤によるヒットを皮切りに、2死2塁で6番・銀次が中前へタイムリー。ようやく楽天に1点が入ったが、翌8回、本日1軍昇格してきた二番手・西宮、三番手・入野が打ち込まれた。西宮が5番・T-岡田に左翼線二塁打を浴びると、火消しに入った入野が6番・小谷野に適時二塁打、さらに7番・ブランコに失投を一閃され左翼席への2ランショット。この回3失点でトドメを刺されている。(楽1-7オ)

これでチームは3連敗、5位転落。39試合15勝22敗2分で借金は今季最多の7になった。

ゲーム差は、1位・ソフトバンクと9.5、2位・ロッテと7.5、3位・日本ハムと4.5、4位・オリックスと0.5、6位・西武と1.0としている。

各種戦績は、5月4勝8敗、オリックス戦4勝4敗、ホーム10勝9敗1分、外国人先発投手1勝4敗2分になった。

◎2016年5月16日現在、1打席内にカーブを混ぜられたときの打撃成績

後藤光尊をスタメンから使わなかった首脳陣の愚

このブログ(やメルマガ、note)を熱心に読んでくださっている読者の皆さんならご存じでしょうが、私は普段「この選手を使え!」と強硬に主張することはまずないのである。

しかし、そんな私であっても、今夜のスタメンには正直、ガッカリさせられた。

ラインアップに後藤の名前がないからだ。

後藤が秋田八郎潟出身で地元選手のためスタメンで使って欲しい。そういう親心や興行面に配慮した主張をしているわけではない。

今夜の相手ディクソンを打ち崩すには後藤は欠かせない戦力だったからだ。このことは以前のメルマガにも書いたとおり。後藤は昨年チーム最多15本のカーブ撃ち安打を作り出し、カーブ打率は.341。変化球打率も.284と素晴らしかった。今シーズンも1打席内にカーブを混ぜられたときの打率が.357と素晴らしかった。ディクソンとの対戦成績を振り返っても、昨年4月10日の対戦ではナックルカーブを打ち返してタイムリー、今年も3打数1安打と結果を残していた。

前述したようにディクソンは動かしてくる速球とナックルカーブの2本立てというシンプルな組み立てだ。楽天打者は好むと好まざるとに関わらず、カーブを打っていく作業に直面させられていた。その中でチーム随一のカーブへの適応力を持つ後藤をベンチに置くとは、この首脳陣は、秋田のファンの前でマジ勝ちにいくつもりがあるのか?と、その気を疑ってしまった。

結局、後藤が代打で出てきたのは0-4と4点を追った7回のことである。その代打打席でディクソンの128kmカーブを右前に弾き返すと、9回海田との対決でも2-2から127km変化球を同様に右前へ打ち返し、2打数2安打。故郷の夜、四面楚歌の中、カーブ撃ち、変化球撃ちの孤軍奮闘の槍働きを見せたのだった。

一方、3番・サードで出塁した今江は2打席連続で併殺打に倒れた。直近17打席でヒットわずかに2本だったので、今江をベンチに置き、後藤を3番・サードで先発出場させるべきだった。後藤をスタメンで使わなかったことが、敗因の1つだと確信している。

さらに言えば、1回1死1塁で1塁走者・藤田、4回無死1塁で1塁走者・岡島、同無死2,1塁で2塁走者・岡島、1塁走者・藤田、4回2死1塁で1塁走者・今江、こういったシーンでもっと足で揺さぶりをかけて欲しかった。

走る走ると見せかけて走らない。そういうプレッシャーも少なかったように感じる。前回登板5月10日の日本ハム戦でディクソンは合計6球の牽制球を投じたが、本戦では僅かに1球だけ。それだけ楽天の走者に怖さを感じず、18.44m先の対決に集中できていた証だと言える。

本戦におけるナックルカーブ割合は走者無し42.0%だったが、走者有では実に60.0%に大幅上昇していた。走者が足で悠々仕掛けやすい絶好の状況がそこにあったのに、ベンチは座して死を待つを選んだ。私にはそう見えてしまった。

いくつか表を挙げて、本稿を終わりにする。【終】

◎塩見貴洋 地方球場 投手成績

これをもって、塩見は地方球場のマウンドに合わないとは言いたくないのだが・・・。

◎2013年以降 楽天イーグルスの地方球場成績

これで地方球場11連敗になった。

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