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【戦評】冴えわたる低め制球! 最強右腕に投げ勝った辛島航「本領発揮」の4勝目~5/31○楽天3-1ソフトバンク

※本稿は全文公開中。最後までお楽しみいただけます。

対千賀戦で今季2勝!

週明けに交流戦を控えるなか、福岡で火蓋が切って落とされた首位攻防3連戦。

その初戦、楽天に立ちはだかる相手先発は千賀。

今季の千賀は開幕戦で驚きの161キロを計測。
一段も二段もレベルアップした姿でマウンドを支配し、ここまで防御率1.38、5勝0敗、QS率100%。
圧倒的な戦績を誇っていた。

当代パリーグ先発投手の最高峰。
そう呼べる強敵から、我らがイーグルスが接戦勝利をもぎ取る好ゲームは見ごたえあり!

QS率100%にストップをかけることは叶わなかったが、1-1で迎えた終盤8回に勝ち越した。

18年目のベテランと1年目ルーキーが作った好機を、楽天の20年代を代表する4年目の中核選手が殊勲打を放つと、1年目ルーキーの好判断・好走塁でこの回2得点。

そのまま3-1で逃げ切り、首位攻防3連戦のアタマを取った。

沢村賞有力候補の登板ゲームで、楽天は4/12(○E4-2H)に続く2勝。
これはリーグ単独最多になった。

この対千賀戦2勝と、7点差を逆転した5/8ソフトバンク戦(○E8-7H)、8点差をひっくり返した5/15日本ハム戦(○E9-8F)の合計4勝は、シーズン終盤、優勝戦線の明暗を分ける、とても大きな得難く貴重な4勝になりそうだ。

これでチーム成績は51試合27勝23敗1分の貯金、勝率.540。
順位はソフトバンクと並んで1位タイ。

ゲーム差は3位・西武と0.5、4位・日本ハムと1.0、5位・ロッテと3.5、6位・オリックスと7.0になった。

各種戦績は、直近10試合7勝3敗(得点49/失点36)、5月14勝12敗、ソフトバンク戦5勝4敗、ビジター13勝13敗1分、カードの初戦11勝8敗、両軍先発QSゲーム3勝5敗、先制ゲーム13勝6敗、2点差以内14勝14敗1分としている。

両軍のスタメン

楽天=1番・茂木(遊)、2番・島内(左)、3番・浅村(二)、4番・ウィーラー(指)、5番・銀次(一)、6番・ブラッシュ(右)、7番・今江(三)、8番・辰己(中)、9番・嶋(捕)、先発・辛島(左投)

ソフトバンク=1番・川島(二)、2番・今宮(遊)、3番・グラシアル(左)、4番・デスパイネ(指)、5番・松田(三)、6番・内川(一)、7番・中村(右)、8番・甲斐(捕)、9番・釜元(中)、先発・千賀(右投)

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ラッキーポテムラン

防御率1.38を誇る強敵右腕から点を取るのは至難の業。
そう予想していたが、2回に4番・ウィーラーの一振りであっさり楽天に先制点が入る。

しかし、これはラッキー本塁打だった。

1-1からの外角142キロのカットボール。
打った瞬間は切れてファウルかイージーフライか。
そんな当たりが右翼ポール際に飛び込んだ。

打球角度32度、打球速度149キロ、推定飛距離108m。
本来ならホームランにならない打球なのだ。

というのは、打球速度が149キロだった。

一説によれば、打球速度152キロ以上と未満では以下のとおり天地の差だという。


152キロ以上打球・・・打率.524、本塁打になる確率12.2%
152キロ未満打球・・・打率.233、本塁打になる確率0.2%


ここ3年、ぼくが集計した楽天打者の本塁打86本のトラックマンデータでも同様だ。

打球速度150キロ未満の一発は、

2017年7/21オリックス戦での岡島のEウィング行き左本(149.7キロ)
同年9/9オリックス戦の藤田による右翼ポール際Eウィング行きの右本(146.1キロ)
今年5/15日本ハム戦で嶋が右翼ポール際に放った右本(147.4キロ)

86本中、この3本しか記録されていない。

ウィーラーの一発と上記3本の共通項は『ポール際』であるということ。
バッターボックスからスタンドまで最も距離が短い『ポール際』なら、打球速度150キロ未満でも柵越えするケースがある、ウィーラーの先制弾はそういう運にも恵まれた野球の神様からの贈り物だった。

攻撃の見どころ8回決勝劇!

本戦、攻撃での見どころといえば、ゲームを決めた8回に尽きる。

先頭は7番・今江。
千賀のフォークがインハイに抜けた失投をのがさず左前へ運んだ。

同点の8回無死1塁だ。
次に入る点が決勝点になる可能性がきわめて高い終盤の要所。
ほぼほぼ送りバント作戦という場面が整った。

バッターボックスは8番・辰己。
今年の楽天は犠打のとき、セーフティバントから決めるケースが増えており、とくに辰己はその象徴だ。
ほぼほぼ送りバントという鉄板シーンでも、あらかじめバントの構えをみせて実行するケースは本当に少ない。

この場面も初球、2球とセーフティバントの構えだった。
この揺さぶりに千賀も力みが入ったのか、2球連続で高めにはずれるボールに。

カウント2-0になり、第3球だった。
予想どおり、一転ヒッティングに切り替えて、ゾーンに甘く入る149キロストレートを打って応戦。
1塁走者・今江もスタートを切り、動いてきた。
結果はファウルになったが、とても面白い作戦なのだ。

5/24本拠地オリックス戦(○E3-2B)ではこの作戦で勝ち越しをあげた名場面があった。

美馬vs山岡の東京ガス対決は5回表を終えて1-2。
楽天が1点を追う展開だった。

その直後の5回裏、山岡がJBの一発を警戒し、JBがストレートの先頭打者四球で歩く。
無死1塁で辰己にまわった。

前日終了時で打率.209。
経験不足のルーキーだ。
場面は1点がどうしても欲しい中盤の要所。
バントで1死2塁を作れば、4戦連続ヒットと打撃好調の1番・茂木までまわるチャンスを構築できる。

当然、楽天ベンチの作戦も送りバントだった。
でも真っ正直にはしない。
『セーフティバント構えからの送りバント』だった。

はたして山岡の投球は2球連続ボール。
アウトコースに大きくはずれ、これでJBから6球連続ボールに。

カウントは打者有利2-0。
でも、ここはどうみてもバントだろう。
ボールが6球連続続き、ストライクに飢えていた状況もあった。

そのようにオリックスのバッテリー陣が決めつけた裏、楽天ベンチはひそかにサインを変更。
一転の「打て!」の合図。

そうとは知らず、山岡はバントをさせるため置きにいく投球。
そんな甘い速球を一気にしばき、左中間真っ二つのタイムリースリーベースを決めたのが、辰己の鮮やか大仕事、平石監督の名采配だった。

これがあらかじめバントの構えをみせた場合は、こうはならないと思う。
2球目まであらかじめバント構えをみせた打者が、一転3球目その構えをしないのだ。
当然、相手も打ってくるかもと警戒し、それなりの投球をするはず。

送りバントの確率が高い場面にもかかわらず、真っ正直にバントさせず、セーフティバントの構えから実行させることで、こういったボール先行場面に相手の油断を誘うことができるメリットがある。

本戦の8回無死1塁、2-0からの3球目も、まさにその再現を狙ったが、惜しくもファウル。
でも、この作戦は平石采配独特のもので、本当に面白い!と感じている。

結局、この打席は2-0の後、2球連続ファウルで2-2になった。
2-2からの5球目、千賀がフォークをひっかけてインコース低めへ完全ボールのワンバン投球。

これで3-2になったことで、千賀は変化球で四球を出すリスクを嫌い、速球を投げてきた。
辰己はその速球をピッチャー返しで応戦。
千賀が逆シングルで処理して1-6-3の併殺コースかと思われた打球だった。

しかし、千賀が取り切れず、打球はグラブを弾いて遊撃前へ。
打球が弱まったことで、2塁は間一髪のセーフに。

こういった僥倖を生んだのも、辰己の打席でセーフティバントの構えで千賀から2-0を引き出し、ボールカウントに余裕をなくさせ、変化球を使いにくい状況にさせた伏線が大きかった。

無死2,1塁、嶋はスリーバント失敗。
1死後、それをリカバリーする1番・茂木が速球撃ちの決勝打。

直前の打席、茂木は千賀のフォークを弾き返し、18打席ぶりのヒット。
さらにこの打席、0-1からの2球目・低め誘いのフォークを見切りボールにした。

茂木がフォークに上手い対応をみせたことで、千賀は伝家の宝刀を使いにくくなり、速球を投げてきた。
そこをみごと狙い撃ちするショートオーバーのセンター返しになった。

ぼくらの想像を超える辰己涼介の好走塁

さらに見せ場になったのは直後の1死3,2塁、島内の右犠飛シーンだ。

途中出場のライト周東の前方に打ち上げる平凡なフライ。
飛距離も3塁走者がタッチアップを切るには難しい状況で、2死3,2塁かと思われた。

ここで平石監督も絶賛した三走・辰己の好走塁が光った。

ライト周東が緩慢プレーで2塁に緩く返球したその隙を逃さず、一目散で本塁突入。
完全に相手の守備の油断を突くかたちになり、ボールは本塁転送されず。
圧巻の本塁生還になった。

辰己といえば、5/24オリックス戦(○E3-2B)、2-2同点の5回無死3塁、山岡が小郷に投げたフルカウントからの結果球がワンバンになり、右打席・三塁ベース方向にはじいた隙をのがさず、三塁から鮮やか生還する好走塁があったばかり。

あの場面も自らに近いゾーンに転がった暴投に対し、的確な状況判断と勇気ある走塁で難作業を成し遂げ、現役時代は足で鳴らし「青い稲妻」と呼ばれた解説・松本匡史を唸らせたばかり。

本当に素晴らしい走塁になった。

ぼくは楽天選手の好走塁記録も記録集計している。
もちろん、ぼくの主観になるのだが、今季ここまで26回記録されている。

そのなか、辰己はダントツの7回を記録。
以下が、その好走塁の履歴だ。

◎辰己涼介 好走塁記録

7回、打者88人、球数88、被安打3、被本塁打0、奪三振3、与四球3、与死球0、失点1、自責点1。

脚光浴びる辛島航の対千賀戦7回1失点

難攻不落と思われた千賀先発ゲームでの接戦勝利。
勝利の最大功労者は、チーム最多で自身3度目のHQSを記録して4勝目を飾った先発・辛島の好投に尽きる。

「辛島」x「ソフトバンク」と言えば、相性良いイメージがあるかもしれない。

実際、このカード、2017年には防御率3.00を記録。
クライマックスシリーズでの6回途中1失点の好投は今なお記憶に新しい。

しかし、2018年は1勝3敗で防御率8.00。
今年は1勝0敗、防御率6.30、ここ2年は分が悪い状況が続いていた。

さらに辛島は4月防御率3.13と上々のスタートも、5月は5.32。
約2点の悪化で、調子を落としているのかな?という心配の数字になっていた。

一方、今季の若鷹軍団、サウスポーにめっぽう強いのだ。
相手先発左投手のとき、10勝2敗1分の高勝率。

楽天が左投手打率.193と苦しむなか、若鷹軍団は左腕から打率.301。
左投手から放ったホームランもリーグ最多17本を記録していた。
辛島も自己ワーストタイ7失点と炎上した5/8(○E8-7H)では、内川に3ランを被弾した。


「自身のかんばしくない5月防御率」
「若鷹軍団の対左投手好戦績」
「首位攻防3連戦の初戦」
「投げ合う相手は強敵・千賀」

難しいファクターが幾重にも重なるなか、重圧を感じさせない好投が光った。

ゴロの山を築いた高性能コントロール

素晴らしかったのは『低めへのコントロール』だ。
この人の持ち味が、交流戦前の山場でひときわ冴えた。

今季ここまで49.5%の低め到達率は、本戦54.5%までアップ。
とくに変化球の低め到達率が素晴らしく、今季ここまでの62.0%を大きく超過し、本戦70.9%をマークした。

集中して球を低めに集めたことが奏功、ゴロ率も68.4%
この値は自身の今季最高値を記録し、全アウト21個中、低めで13個を獲得している。

本戦のゾーン別の被打率、ゴロ率は、以下のとおりになった。


中段以高・・・被打率.300、ゴロ率37.5%
低め・・・・・・・被打率.000、ゴロ率90.9%


ソフトバンクの打者たちは、辛島が頑張って集めた低めの投球に対し、徹底してゴロを打たされるハメになった。

その象徴的すぎるシーンがある。

立ち上がりの初回。
イヤな1番・川島を3球で一飛に退けた後の場面だ。

2番・今宮の粘りに遭い、フルカウント9球勝負を看破されて四球。
続く3番・グラシアルの当たりは4-6-3の併殺コース。
しかし浅村の2塁送球が悪送球になって、ノーヒットで1死2,1塁のピンチを招くイヤな雰囲気の場面だった。

バッターは4番・デスパイネ。
5月戦績は打率.372、ホームランも11本。
月間MVPの候補選手に選ばれるほど5月は絶好調である。

そんなキューバの強打者をわずか初球で左飛に。
続く5番・松田は10試合連続ヒット中だったが、熱男を初球で遊ゴへ。

2者連続で初球凡退に退けた結果球は、いずれも『低めに制球されたチェンジアップ』だった。

翌2回には2本のツーベースで1点を失う。
ウィーラー11号ソロで味方1点先制直後だったが、先頭の6番・内川、1軍復帰の7番・中村に立て続けに長打を許し、同点にされた。

なおも無死2塁、8番・甲斐は送りバント。
1死3塁と変わり、外野への飛球なら犠飛の確率高まる場面。
9番・釜元に打たせて、打球に地を這わせ、前進守備を敷く浅村の正面を突いた二ゴの結果球も『低めのストレート』だった。

7回まで投げた辛島が最後に迎えたピンチ。
1-1の同点の5回2死3,1塁、3番・グラシアルとの7球勝負。
遊撃・茂木の好守支援を受けながらアウトにした遊ゴも『低めチェンジアップ』。

本戦では伝家の宝刀チェンジアップのコントロールが精緻をきわめ、当方調査では25球じつに22球を低めに集中させ、若鷹軍団から凡打の山を築く原動力になり、積極的にバットを振ってくる松田の初球打ちを2度退けてみせた。

本戦の辛島は、まるで好投の千賀とシンクロするかのようなパフォーマンスだった。
3回を終えて両者の球数は千賀46球に対し、辛島は45球とほぼ一緒。

翌4回は千賀が楽天の中軸をわずか8球で終わらせると、辛島も松田、内川、中村といった2回失点シーンの面々をたったの7球でお片付けしてみせた。

終盤の明暗を分けた危機脱出劇

1-1の投手戦は終盤へ。
カギを握ったのは7回の攻防。
辛島の冷静なマウンドさばきが、ピンチの芽を摘み、直後の味方勝ち越し点を呼び込んだといえるシーンがあった。

表、楽天は1死から銀次が変化球を弾き返してJBの前に出塁。
しかし、そのJbが初球打ちで5-4-3の併殺打に倒れてしまった。

JBの初球打ちゴロ凡退は珍しく、今季これで3度目。
初球打ちの併殺打は来日初。

頼みの強打者が1球で2個のアウトを献上し、あっさり攻撃を終えた直後のこと。
辛島は同点二塁打を浴びた中村との勝負をイヤがるように、先頭打者四球を与えていた。

ここで工藤監督が動いて1塁代走・周東を起用。
今季、育成枠から支配下登録され、はやくも37試合に出場する若鷹軍団の若きスピードスターは、9盗塁、1盗塁刺、盗塁成功率90.0%を誇り、5/3(○E11-12H)には釜田x嶋から2盗塁を決めていた。

改めて嶋の盗塁成績を確認してみよう。
嶋がマスクをかぶるとき、敵軍走者は35企図、32盗塁、盗塁成功率91.4%。

バッターボックスの甲斐が送りバントの構えをみせるなか、辛島はバントと決めつけず、塁上の周東の足をしっかり警戒して牽制すること2回連続。

その2回目だった。
周東が辛島の牽制球に誘い出されるように1,2塁間に飛び出しランダンアウト(記録上は二盗死)。

嶋の壊滅的な盗塁阻止率という弱点を露呈させることなく、自らの走者ケア技術で牽制誘い出しの二盗死に追い込むことができたシーンは、辛島の冷静さを象徴する圧巻場面になった。

俊足の周東も1軍舞台はまだまだ経験不足。
1塁塁上で正対することになる左投手からの盗塁企図は、おそらく場数を踏んでいないはず。

左打者のためファームでも左投手打席はあまり与えられていないと思われ、周東の経験不足を辛島が牽制で上手く誘い出したともいえるシーンになった。

辛島がピンチの芽を摘んだ直後の8回、待望の援護点が入った。

使用どころ間違わない、被打率3割のストレート投球

最後に、被打率3割を超えるストレートの使いどころも間違っていなかった。

ストレート33球中、得点圏での使用は12球のみ。
その12球のうち、打者有利のボール先行時の使用はたったの2球と、良く練られた使い方だった。

デスパイネ、グラシアルといった右の強打者にはインハイ釣り球として効果的に用いていた点も印象に残り、マスクをかぶる嶋の面目躍如の好リードと言えそうだ。

以上のように、千賀との投手戦で7回1失点のパフォーマンスをみせた辛島こそ、本戦勝利の最大の立役者なのだ。【終】

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