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桑を育てている人以外にはまるで役に立たない、良い桑の実の見分け方と熟し方について

  五月も終わりに近づいてきた。そう、桑の実が本格的に色付くシーズンである。
 毎朝毎夕、黒に近い紫に色付いている実を獲っては綺麗に洗い、ジップロックに入れて冷凍するということを繰り返している。日に二回も桑の木周辺をパトロールし、なんなら早朝、家の前を通る、駄々をこねる子供を保育園に連れて行く母親を横目に、桑の木の下にしゃがんでさわさわとした葉擦れの音を聴きながらぼーっとしていると、私は社会的に無能で無為な存在だというじっとりした罪悪感とともに、こんな暇な贅沢なこと、もう今年しか出来ないと思う。
 私がそんな暇なことをしているのは休憩したいわけではなく、ダメになった実をいち早く確認して取り除きたいからだ。

 この記事にも書いたが、桑にはキツネノワンタケ、キツネノヤリタケというキノコがつきもので、それらのキノコに寄生(?)された桑の実は、白く肥大、もしくは萎縮し、食べられなくなってしまう。しかし、食べられないからといってそれを放置しておくと、地面に落ちた病果が来年の菌床になる。地面に落ちる前に取り除き、来年に備える必要があるのだ。

 前回の記事を書くにあたって、桑を育てている、もしくは近隣の桑の木を採取して暮らしている人達のブログを読み漁った。その中に、「新たな病果は出て来ていない」という表現が散見された。一応知られているメカニズムによれば、早春、桑の花が出る頃を見計らって、にっくき両キノコが地表に現れ、胞子を付着させる(ちなみにこのキノコ、非常に小さいので見付けるのも難しいそうだ)。ということは、花が出た時点で、今後この一房が病果になるかならないかは決まっているはずであるが、実際はかなり熟してこないと病果かそうでないかは分からないのである。だからブログ主は「新たな病果」という言い方をしたのだろう。実際私も、何度もチェックしていたはずの枝で、新たな病果を見付けた時は、見落としてしまった自分にムキ―ッってなるのだけれど、おそらく、その実は前日は普通の実に見えていたのだと思う。

 ちなみに、奇妙にも病果の成熟は他の実よりも早い。病果には、実全体が白くなるものと、一部だけが異常のものとがあるが、どちらも、その枝の日当たりが悪かったとしてもいち早く大きくなるのである。まだ多くの実が青っぽい時期に、赤い実を見付けると嬉しくなるものだが、よくよく見ると一部が白くなっている病果であることが多く、ひどくがっかりさせられる。

 ここで「これから病果になりそうな実」の特徴について箇条書きする。

  1. 実のつぶが他の実よりも肥大している

  2. 全体が赤くなっている中に、ぽつぽつとまだらに濃い赤い実がある

  3. 特に実の根元が、青っぽいというよりも白く濁ったような色をしている

 そして、これらの特徴を持つ実は、地面に近い枝、日当たりの悪い枝、実が密集している内側にあることが多い。

 この病果について、あるブロガーが、「正常に熟した桑の実よりも、病果の方が蟻などの虫がたかりやすい」という指摘をしていた。たしかにうちの桑の木もそうだ。その現象について、その方は「病果は糖分が高く、蟻などの昆虫を惹きつけやすくなっているのではないか。そのように昆虫を媒介者とすることで、ただ病果が地面に落ちるのを待つだけではなく、地面に菌をいきわたらせようとしているのではないか」と考察していた。もしかしたら、蟻は自発的にそうしているのではなく、この菌に半ば支配されているのでは、とも……。

 桑の木は、言わずと知れた蚕の餌として使われ、長く人間と縁の深い植物だが、実をダメにするこの菌への対策は令和の世になっても大変お粗末なものである。こんなに情報を漁ったのに、もう耐性菌(?)が出ている農薬くらいしかヒットせず、その他には病果を地道に取り除くくらいの対策しかない。長年、桑の木は葉だけを利用すればよいものだったから、実についてはあまり利用と研究が進まなかったらしい。じ、人類め……。ホント、その指向性どうにかして……。アントシアニンなどの健康に良い成分を多く含み、ジャムや生食など美味しく頂ける桑の実であるが、痛みやすく市場に流通させにくいことも背景にあるらしい。

 そんなわけで、上記傾向のある実を見付けては 悪・即・斬している日々なのだが、私が冷たい気持ちで思いを馳せてしまうのは、病果が成熟してやっと病果であると分かるという特徴についてである。これは人間ももしかしたらそうなのかなという気がするからだ。小さい頃は集団の中にうまく紛れ込めていて、特に問題がなさそうに見えたのに、その頃から社会不適合性は内側で育ちつつあって、長じるとともにそれが顕在化する、というような。そして、マイノリティ傾向が顕在化するのは必然で、発現すれば、いやすでに幼少時からもう手遅れ、元には戻れないのである。しかし、元の集団にとって害悪であっても、その実が腐れ落ちることで世代を繋ぐ存在もあるのだ。……と、なんだかいいことを言った感じになったが、断じて両キノコには世代を繋いで頂きたくないのである。

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