恋愛をしていたことが誇らしいという境地があった

風が強い日や雨が降る日は、出前を頼んでも良いというセルフチートルールができつつある。

週に7日働く生活も半年を超えてきて、これはこれで新しい暮らしのリズムができてきた。

とにかく余計なことを考える隙がない。仕事のこと、次の仕事のこと、税金のこと、体調のこと、家事のこと、ゴミ出しを忘れないことなどを絶え間なく考え続ける日々の中で、自然とこれまで性懲りも無くグルグル思考していた「私はどこからきてどこへ向かうのか」「幸せとは何か」みたいな抽象的な議論はとんと首をもたげなくなった。

それと同時に、人間関係への悩み、というか、興味そのものが薄まっていて、クヨクヨ悩んだりすることがなくなった。これは多分、年末に親に対して綺麗に離縁の決心をしたこともデカいと思う。あんなにメンタルが安定してなかったのは、ほぼ親が原因だったんだなとわかり、笑ってしまうようなアホくささを覚える。こんなにシンプルな結論なのに、心の奥ではとっくにわかっていたことだろうに、断ち切るのにここまで時間がかかったことが、人生の難しさだなと思う。人の数だけ、ユニークな地獄がある。


心が安定している、ということでいうと、恋愛というのもまた、多分に心の安寧に影響するんじゃないかと思う。

前職時代に恋愛をしていて、…ということもずっと認められずにいて、恋愛であることを認めたのが転職まぎわで、心が揺らいでいた。自分のことが大好きで、人にはてんで興味のない私が、積極的に他者を心の中に招き、己との違いにうろたえ、同時に惹かれることで、相反するベクトルの感情を自分の中に抱えるという、前代未聞の心の忙しさに解決策を見出せずにいた。

結果、スピリチュアルにやや傾倒し、人の生まれ持った性質や指向性を解き明かすことや、それを知ってある種の諦めを得るという慰めに熱中した。

恋愛も、スピリチュアルも、しれば知るほど面白かった。これまで自分しかいなかった私の世界に、他人という登場人物がやってきた瞬間だった。何を言ってるんだと自分でも思うが、それまで自分事として感じられるのは文字通り自分についてだけであったのが、好きな人、関わりのある人、さらにはまだ見ぬ世界中の人々のことが一瞬、自分事のように感じられるような、他者とのコネクトを得るような喜びがあった。

そんな時期を経て、親からの完全分離と、経済状況のヤバさから、週7勤務というウルトラCの解決策を導き出し、もう現実に集中することしかできない状況に自分を追いやった。結果としては、大成功だと思う。

意味もなく泣き出すことがなくなり、(見る人によってはそんなの当然だと思えるだろうが、長い間私は意味もなく毎日のように泣いていた、今となっては不思議だが)

自分の抱く感情を素直に受け入れることができるようになり、(これまでは、こんなこと思っちゃダメだ!という意識で自我を拒絶する瞬間に満ちていた、おそらくそれが突然泣き出すなどの症状に繋がっていたのだろうが)

とにかくだだっ広いアメリカの荒野の一本道のように、淡々と、変わり映えこそしないが、不安も不満もない日々の中にいる。

そんな、初めて獲得した、真にニュートラルな心持ちの中で、ふと過去の恋愛時代を振り返り、「あ、私、恋愛をできていたことがあったんだな。素晴らしいな。そんな過去がうれしくて、誇らしい。」っていう感想が、真っ先に、心の奥からポコンと出てきた。で、そのことにわりと驚いた。

恋愛をしていた当時は、人を好きになっていくことの強い引力と、そんな身も蓋もない欲望を抱く自分が恥ずかしくて受け入れられないという気持ちが拮抗していて、率直に言えば「なぜ恋愛などに巻き込まれなければいけないのか、全部がウソであってほしい、何かの気の間違いなんだと信じ切りたい、忘れて楽になりたい」とひたすら本気で願っていた。
しかし、恋愛ではない理由を探そうとすればするほど、そのこと自体も含めて紛れもなく恋愛であることを思い知らされるという、セルフ蟻地獄みたいなことになっていた。

必死でこれは恋愛ではないということを証明しようとしていた当時からすれば、恋愛をしていることが誇らしいなどという境地に自分が至りうることなどまるで想像できなかったことだ。

あの日の自分、見てるか。まるで好きじゃないと思い込んでいた人に恋人ができたと知って、なぜか帰り道に号泣していたあの日のお前!…

もう情緒不安定とはまるで無縁な世界に来れたみたいだし、
お金の不安ともしっかり闘ってる。親との縁もちゃんと切れた。

そしたら、あの日のお前がめっっっちゃ、可愛く思えてきた。
あんなに嫌だった、恋愛に引き裂かれてる人間臭いお前が、いま、かわいくて、誇らしくて仕方ない。不思議だよな。

こんな境地があるんだって、そう遠くない未来に知れたんだよ。

悪くないよなぁ。

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