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【これが愛というのなら】はつこい




はつこい


ある冬の朝、望からメールがあった。

大雪で、世界は生まれ変わったように真っ白だ。

空気の入れ換えのために開けていた窓を閉めて、私はメールを読んだ。

「昨日の夜中、ドライブに行ったの」

この大雪に?

隆の持っている、あの高級で頑丈そうな車なら、そんな事は気にならないのか。

「どこまでいったの?」

「●●山を超えて、隣の県まで」

雪が降ってないときですら難所だ。

しかも、隆の家から全く正反対ではないか。

「無事だから良かったけど、無理はしたら駄目だよ」

「うん、怖かったー。もう雪道の運転はしないね」

え?

望が運転をしたの?

わずかな雪道の運転でも怖がって、雪が降る度にバスで通勤するこの子が?

「…誰と、行ったの?」

「藤森さん!」

朗らかな望の声。

昨日の22時頃、藤森から電話があり、

「今からドライブに行きたいから迎えに来て」

その言葉に望は誘われるがまま出かけたそうだ。

そして、街灯もない、除雪車も入らないような山道を走って、県外にまで行き、そのまま朝まで過ごしたと。

隆が知れば、どんな大げんかになるのか。

それよりも、望にそんな危険なことをさせた藤森に対して、怒りがわいた。

しかし、望の声には全く後ろめたさも屈託もない。

『なにも』なかったのだろう。

「藤森くんにも困ったもんだ。私が怒っていたって伝えておいて」

「うん!」

望は何も気がつかず、明るく答えた。

パワーストーン


1ヶ月後、休みの朝、急に電話があった。

「どうしたの?」

「なぎさん、今日時間ある?」

「うん、暇してるよ」

「なぎさん、あのねー、なぎさんが持っているピンク色の石って何かな?」

私は天然石コレクターで、いくつもの天然石の原石、アクセサリーを持っている。

望はそれを見て気に入って、望の大好きな水色のブレスレットやストラップを購入したり自分で作っていた。

いきなりピンク色?

「いくつか持っているから、どれのことかな?」

「見に行ってもいい?」

望は、いつになく控えめにお願いしてきた。

「いいに決まってるよ」

私の言葉に、望はすぐにこちらに向かったようだ。

私が、原石を含めてピンク色の石を、望の前に並べていく。

「やっぱりローズクォーツが多いかな?手に入りやすいし、手入れも楽。これはスターローズクォーツ。透明度が違うでしょ?この縞模様のがインカローズ、こっちの黒っぽいのがロードナイト。この薄い色のはクンツァイト。これがストロベリークォーツだったかな」

「なぎさん」

望は思い詰めた目で私を見つめてきた。

「…恋を叶えるのに、効くのはどの石かな」

予想はしていたが、返事につまった。

私も、望も、今までそういう目で「天然石」を見てこなかった。

美しいアクセサリー、インテリアとして、扱ってきた。

それがまさか、「恋を叶える石」の話になるとは、意外であるはずだったのに、納得できてしまう自分もいて、それに戸惑ったのだ。

「…まあ、一般的には、ローズクォーツ?恋愛全般に効くってよく紹介されている。あとはインカローズも、恋愛に向いているかな…あとは…」

まるで「天然石の教科書」を読んでいるように、型通りの知識を望に話していった。

望は真剣に聞いていた。

「ローズクォーツでいいなら、いくつか分けるよ?」

「ほんと!?」

「さすがにオーダーメイドの作品は分けられないけれど、これとか、こっち…原石よりは、ビーズの方がいいよね?」

ピンク色の石だけでなく、恋愛に効きそうなシーブルーカルドニーや、アクアマリン、グリーンガーネットなど、望が好みそうな石を譲った。

「ありがとう」

望は嬉しそうに石を見つめている。

私は、独り言のようにつぶやいた。

「これは高かったからあげるって言えないけど、インカローズは片思いに効くらしいね」

はっと、望は顔をあげた。

「なぎさん」

「ん?」

「隣の市の石屋さんに行かない?」

「…いいけど」

昼前に曇天の空の下、私たちは出かけた。

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