みんなが編んだ物語。

ネパールから戻ってきた。あるモノを大切にくるんでバッグに入れて。

3年前から、またネパールに通っている。帰国していた仲間の育美さんから、共通の友人のいる小豆島を訪ねる船のなかで受けた相談がきっかけだ。

2015年ネパールの震災をきっかけに彼女は支援活動をはじめたが、山間部の村ではもともと自給自足に近い暮らしをしていた状況で家が倒壊してしまった。新たな家を建てることもできず、村人の多くは、いまも自分の倒壊した家から持ち出した木材やトタンを再利用し建てた、掘っ立て小屋で暮らし、暮らしを立て直すため現金が必要となった家族の若者は首都カトマンズや海外に出稼ぎに出ていくようになってしまった。

もともとそういう状況はネパールで起こっていたのだが、それに震災が輪をかけて加速させたことに育美さんは危機感を持ち、僕に相談してくれた。何か村で仕事を作れないかと。

当時、僕が自分で盛り上がっていた藍染めを育美さんに話したところから物語は始まる。

藍色や藍染めが好きなだけだった僕が、藍染めをやっている仲間のいる徳島県海陽町のトータスを訪ね、そこで分けていただいた種とともにネパールを訪れた。育美さん、数人の支援者とともに村を訪れ、家族に野菜を育てていた畑を間借りして、藍の種蒔きをした。水牛の糞を肥料として手でちぎって蒔いて、ニワトリに芽を食べられないようにワラを敷いて、家のお母さんにヒンドゥー教のプジャ(お祈り)をしてもらって、みんな笑顔で村をあとにした。

しばらくして「芽が出た!」と報告とともに小さな芽の写真が届いた。夢が現実になる。みんな不安なんてちっぽけで見えないくらいだったと思う。けどそこからしばらくして枯れてしまった。その翌年も同じだった。

日本と気候も標高も水質も違うネパールの村。けれど育美さんも家族もあきらめずにまた種を蒔いてくれて、その藍が去年大きく育ち葉を茂らせたのだ。その時も僕は種蒔きをさせてもらった。

僕が1年の半分は自転車で世界を旅しているので、去年はJOくんという徳島の仲間がネパールに飛んで、育美さん、家族とともに藍の葉の収穫、乾燥作業をしてくれた。すっかり藍に目覚めた彼は、帰国した育美さんとともに今度は製藍所と呼ばれる、藍の葉を発酵させてスクモと呼ばれる藍染めの原料にする工房で修行をするようになった。そうしてこの春またネパールに渡っていった。そしてついに育美さんと家族とともに、その間に出会った藍の仲間たくさんに支えられながら藍染めの原料スクモをネパールで作り上げたのだ。

それに合わせて僕と藍仲間のマサキもネパールへ。今度は僕らを見ていてネパールに興味を持った仲間たちも一緒になって村に来てくれた。

もともとの葉っぱより小さくまるまったそれは、青黒く少しねっとりとしていて、ヤギの糞みたいなスクモを手にとって、かいでみた。雨のあとの地面のような、家の縁側の下の湿った土のような匂いがした。

言い出しっぺなだけの僕には説明を聞いても作業が具体的にイメージできるほどの知識も経験もない。けど、まるでともに過酷な山を歩き続け町に降りてきた人の疲れているけど充実感に溢れた人のような顔でここまでの道のりを語る育美さんJOくんたちの話を聞いているとじんわりと胸が熱くなった。

これから課題はいくつだってある。こんなに手間と時間のかかるものを、村人は生業(なりわい)として興味を持って見てくれるのだろうか、単純にここで染めたものを売ってコストが埋められるのか、そしてみんな本業があるなかで、僕らがはじめたこのプロジェクトにどの程度関わっていけるのか。

歩みも遅く、不安も心配もあるけれど、けど小さくとも、例え数cmずつでもきっと前に進んでる。

そして昨日、ネパールで生まれた藍染めの原料スクモを持って、JOくんがもともと種を分けてくださった海陽町のトータスに報告に行った。種を分けてくださり、最初からずっと見守ってくれた藍染めばあちゃんの亀ちゃんは、その藍を抱きしめながら涙を流してくださったそうだ。

結果はまだ何も出ていない。この3年間のみんなの努力が報われるなんて保証はどこにもない。けれど確実に言えるのは、これに関わり、そして見守ってくださるみんなが編んだ物語が確かに生まれているということだ。

効率を求める社会のなかで、僕らみたいなちょっと社会の端くれにしがみついている人たちが(もちろんまっとうな人もたくさんいる)はじめた、とろくさいプロジェクト。

けれど、それは確かにある。凸凹してるじゃがいもみたいに、皮は剥きにくいんだけど、なんだか手に持ったときにすっと馴染んで愛着が湧くような。土に少しずつ雨水が染み込んでいって、そこから芽が出るみたいな。みんなが見つけるものじゃないけれど、たしかにそこに芽があることを見つけてくれる人がいてくれるみたいな。そんな少しだけかもしれないけれど、確実に誰かが優しい気持ちになれるものだと思う。


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西川 昌徳

旅するように、生きること。

自転車で地球を走りながら、生き方の冒険をしています。旅のなかでの気づきや、日々生まれる思いを、なるべくありのまま綴ります。