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通りが違えば出会いも違う。

青森にやってきた。
函館からのフェリーを出るともう日は傾き、建物の片側にだけ赤っぽい日が差している。今日の夜は、ここの大学で教える大先輩のところでお世話になることになってるから、ちょっとコーヒーやってみようかと駅前を目指した。

線路を跨ぐ大きな歩道橋を越えたところで駅前通りに出た。思ったよりも人通りがあるけど、ぼんやり歩いているというよりかは、みんな家路に向かう感じ。
さあどうするかな、と駅前を歩いていたら正面から知ってる顔のふたり。
夫婦で日本を旅するオーストラリアからのサイクリスト。
おー!また会えたねー!と握手をして、彼らのためにコーヒーを淹れることにした。小径車(タイヤの小さな自転車)で旅をする彼らとは、函館の自転車屋さんCHILLNOWAで出会い、お互いの旅について語りながらコーヒーを淹れて飲んでもらった。

「どう?青森は?」

「そうだねぇ、函館から来ると人が少ないからちょっと寂しい感じがするね。きみはここからどこに行くの?」

「うんとね、函館で出会った方が三沢にいて、おうちにおいでと行ってくれているからそっちに向かって走ってみようかなとも思ってるよ。けどその日の流れで決めようと思ってる」

「そっか、またどっかでお互いの旅が交わるといいね。」

彼らと別れた僕は、駅前から続く商店街の広場のようになっているところでコーヒーをはじめることにした。コーヒーを焙煎していると、何人もの方が飲んでいってくださる。

仕事帰りの人。お買い物の帰りの人。外国からの観光客。思いがけず賑やかな場ができ、ニコニコしながら先輩の住む宿舎に向かった。


もう少し青森を知りたいと、もう1日コーヒーをやることにした。
次の朝やってきたのは駅前商店街から一本入ったニコニコ通りというところ。色あせた屋根が商店の上をおおっていて、八百屋さんや肉屋さんが並び、どちらかというと地元の人の台所といった雰囲気だ。

ぐるっと自転車を押しあるきしながらコーヒーができそうなところを探してみる。ふと、3人組のばあちゃんが座る佃煮屋さんの前をとおるときに、ばあちゃんたちと目が合った。いったんは通り過ぎたんだけれど、なんだか彼女たちの表情に惹かれて引き返す。

「こんにちは。ぼくね、コーヒー淹れながら日本を旅してるの。おばちゃんたちにコーヒー飲んでもらいたいんだけど。いいですか?」

「わたしらはいいから。おにいちゃんが飲みんさい!」
(僕が飲むんかい!というツッコミは関西地方だけにしておこう。)

「おっけー!じゃあとりあえずここでコーヒー淹れさせてね!」
と返事をして、ぼくはコーヒーテーブルを開けた。1杯目のコーヒーをまずはおばちゃんたちに届ける。

あらぁ。いいから。じゃあ。のやりとりをして、彼女たちは喜んでくれた。
ゴールドブレンドしか飲まないからねぇ、なんて3人でコーヒーの話題をはじめたりなんかして。買い物に道行くひとたちもたくさん立ち寄って、お向かいの居酒屋さんのおにいちゃんには、サケの漬けとホッケをいただいてしまった!なんてこった!

午後からは昨日のところに移動してコーヒーの続き。
近くの商店の人もいらしてくださって、サンドイッチの差し入れに、片付けたあとにはなんとローストチキン1羽までいただいてしまった。青森の人はあったかい。「東北の人は人見知り」なんて幻想はどこにもなさそうだ。


(その後)
さぁいざ三沢へ!できたばかりのお友だちが待ってるぞー!なんて自転車飛ばして行ったら、迎えに来てくださった彼女はなんと米軍ゲートの中から僕に手を振っているではないか。あれま、基地のなかに住まわれていたんですね・・・。

お家はぜーんぶアメリカ仕様。キッチンもシンクも高いところにあって、彼女が立つとママゴトしているみたいだ。ガソリンスタンドは全部ガロン表記で、自動販売機にはM&MとかSNICKERSとかが売られている。スーパーにいたってはぜーんぶアメリカ製品。映画館にボウリング場まであるそう。あれまここはそのままアメリカなのね。思いがけずびっくり楽しい三沢滞在となった。


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