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コーヒー屋の娘と写真

茨城の名店SAZA COFFEEの焙煎士・黒澤さんからうかがっていたカフェが旭川のお隣、東川町にある。YOSHINORI COFFEEを目指して自転車を走らせる。

旭川の市街地を抜けると一気に田畑が広がる風景に。目の前にまっすぐ伸びる道路も頼りがいがなく、これから店があらわれるのであろうかと不安になるようなところ。えんえん続く畑の向こうには、いくつか山が連なっていて、ときおり軽トラが景色の向こうのほうを横切っているのが見える。

東川町の入り口あたり、町工場のようなところを左手に曲がるとYOSHINORI COFFEEの看板が見えた。まわりは田んぼ。そこにポツンといくつかの煙突が出ている黒っぽい四角い建物。

入り口のかわいいソフトクリームとはミスマッチな、重厚感のある重いトビラを開いたらこじんまりとした、けれど明るい店内の風景が目に飛び込んできた。左手にはおっきな焙煎機とコーヒーカウンター。右手にはここでブレンドされた豆やコーヒー器具が並んでいる。

スラっと背の高い、どちらかというとコーヒー職人というよりかは大学の研究室が似合いそうなメガネの方が出迎えてくださった。ヨシノリさんだ。奥さまは子育て世代のママたちとお店兼住居の二階を使って会議中だそう。事前に連絡を入れていたので、さっとこのお店についてお話をうかがい、自家焙煎豆をCORESのメタルフィルターでサッと淹れてくださった。うん、コク、苦味よりもさわやかな風味とフルーティーな酸味が抜ける感じで美味しい。どちらかというと、昔ながらの苦いコーヒーというよりも、お茶のような感覚のライトなコーヒーだ。


僕には勉強してないからわからないんだけれども、最近は焙煎のセオリーのようなものも変わってきたそうだ。それはいうなれば、豆の欠点をなくす焙煎から豆のよさをひきだす焙煎への移行。日本でコーヒー文化がはじまったころには、まだまだ高品質で状態のよいコーヒー豆が日本に入ってこずにどうしても焙煎が深め、つまり豆をしっかり炒ることで欠点をなくす努力をしていたそう。けれども今はスペシャルティコーヒーと呼ばれる、品質の高い豆が流通するようになり、その特徴を活かす、浅めの焙煎が増えてきているそうだ。

コーヒーといってもほんとに産地ひとつ、焙煎ひとつで味が変わる。僕にはまだ想像もつかない聞いていてもイメージよりも文字のほうが頭に多く浮かぶコーヒー談義なのだけれど、彼らがかけている愛情と情熱はたくさん伝わってきた。いつかは僕も少しだけでいいからそこを覗いてみたいと思った。


いただいたコーヒーを味わい、焙煎を見学させてもらっているとかわいい女の子の声がした。ヨシノリさんの娘のユリネちゃんだ。クルッとまんまるな目でこちらを見ている。お父さんが「遠くから自転車で来たんだよ」と話すと、好奇心でキラキラした目でこちらを見つめた。

その様子があんまりかわいくてカメラを向けると、どうやら彼女はカメラに興味を持ったようだ。よーし、じゃあ何かはじめてみようか。コーヒーをごちそうになったお返しに、写真を焼いていたのを見つけた彼女。真っ白いところに絵が浮かんでくるのが珍しいようだ。


「OK。そしたらユリネちゃんが好きなものを写真で撮ってみよう。それをプレゼントしてあげるからね。」一眼レフはまだ難しかったようで、iPhoneを持たせてあげるとあちこち画面をのぞきながら走りはじめた。

スタッフの男の子、僕たちの並んだ写真、彼女の撮ってきた写真を一緒に眺めながら、印刷する写真を選んで彼女が印刷ボタンをポチッとした。浮き出てくる写真を見つめる目は相変わらずのキラキラ具合だ。

茨城在住で、北海道が地元の親友夫婦が、ヨシノリコーヒーに訪ねて来てくれた。すっかり打ち解けたユリネちゃんに彼らを紹介すると、彼女は奥さんの手をとって写真を説明し、一緒にお話をして、それから外へ連れて行った。僕は旦那さんとヨシノリさんたちと話しながら時間を過ごす。外からはキャッキャと楽しそうな声が少し遠くに聞こえてる。

気づけば3時間ちかくも滞在してしまった。すっかりお友だちになったユリネちゃんはお昼ごはんを食べにいく僕らを見送り、芝刈りをしにきたおじいちゃんのもとへ走っていった。


YOSHINORI COFFEE

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