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「もうこの世界にいないあなたへ」

Paulさんへ

あまりに突然のことで、それも愛知で小学生への講演をまえに一瞬チェックしたメールの表題で、Paulさんが旅立ってしまわれたことを知りました。ごめんなさい、あなたのことが頭に浮かんで自分の世界に入りきることができないまま終わってしまいました。ぼくはまだまだオトナにはなれないようです。

夜の講演会場に向けて、あなたを思いながら走りました。これまでの数々の思い出を振り返りながら、そしてつい先週お会いしたときに話したことを思い出しながら。思いっきり縁石にぶつけてタイヤをパンクさせてしまったのは、イタズラ好きだったあなたの仕業でしょうか、それとも僕を守ってくださったのでしょうか。

夜の講演をあらためてあなたに捧げることにしました。知り合ったばかりだけれど、大好きなアニキがつくった岐阜の居酒屋さんです。少しソワソワしていました。会場の具合や、機材のことで。けれども気にしないことにしました。僕は僕のできることを、と気をあらためました。

少しずつ話で空気を慣らしながらね、自分の幼なじみの死を語ったときに、あなたの顔が浮かびました。あなたの旅立ちを知ってから、そのときまで向き合おうとできなかった、そんなやるせなさとともに。そこからはね、あなたがいつもいつも語りかけてくださった言葉に、僕の言葉が重なりました。

いつの間にかね、会場のみんなが見つめていました。
なにかひとつのものを。
僕はね自分が話していたことも覚えていたり、いなかったりしています。けれども昨日のあの空間は自分にとってかけがえのないものになりました。たくさんの人がね、声をかけてくださいました。
今日ここに来ることができてよかったと。
Paulさんありがとう。

あなたにはじめて出会ったとき。ぼくはこうありたい自分と、こうしないといけない自分のあいだで揺れ動いていました。けれども自分の服装があんまり情けなくて、六本木ヒルズのちかくのカフェでご挨拶の準備をしながら、最後の最後であきらめました。いまからあがけるものでもなんでもないと。オフィスでヒリヒリしながら自分の思いを語らせてもらいながら、あなたは穏やかな笑顔で僕の話を聴いてくださいました。西川さんの活動を応援しますね、と言ってくださったあと、帰りのエレベーターに向かいながらあなたはこうも話してくださいました。

「西川さんよかったよ。あなたはあなたのままでいてくれた。純粋に自分がやりたいことを話してくれた。ここにはいろんな方が営業に来ます。けれども僕たちが応援したいのはね、世界に向けて何かを表現している人なの。だから素直な気持ちを語ってくれてほんとによかった。」
あの言葉をかけてくださったとき、僕は僕であろうと思えた。帰りの景色はね、まるで世界が大きく広がっていくようなそんなふうに見えたんです。

それからはね、いつもあなたに会うのが楽しみで仕方がありませんでした。旅に出る前、そして帰って来た後、あなたはいつでも僕の話にうなずいてくださいました。時には涙を流しながら。そうして僕が話したあとにね、ぼくに大きな視点を示してくださいました。

報告を切り上げてカレーを食べにいったこともありましたね。Rieさんと一緒に。あなたがオフィスから「いつもの裏メニューね、5分後に行きます」とだけカレー屋さんに電話をかけているの見ながら、どんだけやねんと吹き出しました。あのカレーは、あまりに美味しくて、あのとき好きだった女の子を夜にまた連れていくために、僕が裏メニュー頼めるようにオーナーさんまで紹介してくださいました。あーあ、さっきまで涙浮かべながら書いていたのに、ニヤけてきちゃったじゃないですか。

お誕生パーティに呼んでいただいたときのこと。なんだか自分もオトナになったようで、業界で大活躍されておられる皆さんと楽しい時間を過ごしながら、やはりあなたはわがままで、イタズラ好きで、そしてそれ以上に愛にあふれてて、みんながあなたを大好きなことが伝わってきました。AirDropで誰かに新幹線で食べてるお弁当の写真を送ってニヤニヤするなんてこと!ええオトナがなんてことしてんですか!おもろすぎるやないですか!あのときのこといまでも忘れません。

最近はなかなかタイミングが合わないことも多くて、けど先週やっとこさバシッとタイミングが合って会いにいきました。駐輪場から出るときに思い立ってコーヒーセットをカバンに詰めて。いつものようにあったかい眼差しと声で僕の旅の報告を受け止めてくださって、僕が思いつきでコーヒーセットありますよ、と言ったらコーヒーを淹れることになりました。

僕ずっとしてもらってばっかりだったから、何かさせてもらえることがほんとに嬉しかった。おいしいねーとRieさんとコーヒーを飲んでくださって、僕の旅のアーカイブについてアイデアを練ってくださり、最後にはちょこっと恋の愚痴も聞いてもらいながら今度一緒に行くカレー屋の話をしてたじゃないですか。僕早く東京に帰って来たくて、ない予定を作りたいぐらいに思っていましたよ。

あなたは最後のときもね、僕のことが大好きだからいつも会うのが楽しみなのと言ってくださいました。

そうそう、応援している映画がベルリン映画祭に出品されることになって、ドイツに行かれることを楽しそうに話してくださってたじゃないですか。あなたはいつでも、企業人であるまえに、ひとりのひととしていてくださいました。

ぼくは歳も立場もまったく離れたあなたのことをね、勝手に親友だと思ってました。親友ってどっちもが思わないとダメなんでしたっけ?じゃあ心友だったらいいのかな。

あなたが何かを示してくれるとき、ぼくの前には大きく世界が広がるようでした。できることなら、もっと見ててほしかった。もっとあなたから勇気をいただきたかった。けれどこの世界ではもう会えなくなっちゃった。カレーも食べられなくなっちゃった。

ぼくはね誰かのようになりたいって思わないの。
けれどね、あなたのように大きな眼差しで誰かを受け入れられる人になりたい。あなたのように、言葉ひとつで誰かの心にそっと手をそえられるような人になりたい。あなたのように、だれかに大きな世界を、可能性を見せられるような人になりたい。

もうあなたに会うことはできないけれど。
ぼくはあなたに出会えてほんとによかった。
あなたがいないこの世界だけれど、ぼくはまたあなたに胸を張って報告にいけるようこれからも不器用に生きていきます。まっすぐな心と眼差しで。

Paulさんありがとう。またお会いできる日まで。

2019年1月31日 西川昌徳


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