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エビデンスのある療育ー強化準備編

こちらの記事HPの方でリライトしました。よろしければそちらも合わせてご参照ください!


はじめに

エビデンスのある養育を紹介していくシリーズ4回目は、「強化」です。これまでに紹介してきた記事の中でも強化は何回か出てきましたが、楽しく効果のある療育を実施する上で、非常に重要なものであるため、そもそも強化とは?やどんな種類の強化があるのか?使い方は?といった点をまとめていきます。
今回は、準備編です!

強化とは?

強化は、児童のスキルの定着や、適応行動の増加のために用いられる方法の一つです。主にABAに基づいた自閉症児に対する療育の文脈で強化という言葉は用いられることが多いですが、強化は私たちにとって身近な存在です。バスや電車で席を譲って感謝されたり、落し物を拾い届け、持ち主からお礼をされた時には、またその行動をしようと思ったりします。この時感謝されたり、お礼されたりして何だか嬉しかったという結果は、またその行動が発生する確率を高めます。
このように身近な所にある強化ですが、療育という文脈では、児童がスキル獲得や獲得したスキルを維持するために、より厳密に強化する上での原則が定められています。
強化の原則
・即時性:強化の対象になる行動が発生した時に、続いてすぐに強化を行う
・妥当性:行動と強化が一致しているか、強化(子)は児童にとって意味のあるものか、年齢(発達年齢)に対して適当か
・比例:単一の強化子よりも複数の強化子を用いる方がより効果的

強化の種類

強化には、正の強化(Positive reinforcement)負の強化(Negative reinforcement)、トークンシステムの3種類の強化の方法があります。

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少しややこしいのが、負の強化です。いずれの強化も行動の定着や上昇に寄与しますが、正か負か何が違うかというと、与えているのか取り除いているのかという違いです。正の強化は強化子を与えているのに対して、負の強化は、児童にとって嫌なことものを取り除いています。
好きなものをプラス(正)する強化と、嫌なことをマイナス(ー)する強化があると考えるとわかりやすいです。

強化によって達成できる主なもの

強化を行うことによって、新しいスキルを獲得すること、問題行動から代替行動に変更すること、適切な行動を増やすこと、タスクにより長く取り組めるようになること、などが達成できます。多くの場合は強化単体というよりも複数のEBPsを組み合わせた中の一つとして強化が用いられるというイメージです。また強化は、結果を意図的にコントロールすることで行動に変化を起こす方法だと考えることができます。児童が支援者との間で自身の行動によって結果が変化するということを学んでいくことで、いつもの支援者やいつもの場所以外でも自分の行動によって結果を得るという学習の機会が増えていきます。

エビデンス

強化が有効であると科学的に確認された領域
Evidence-Based Practices for Children Youth and Young Adults with
Autism Spectrum Disorder 2014report

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準備その1ーデータ収集

毎度おなじみデータ収集です。そもそも強化が必要かどうか、何に対してどんな強化を行うか考える上でデータ収集が必ず必要です。
データの集め方に関してはタイムサンプリングやイベントサンプリング等の方法を用いることが出来ます。

準備その2ートレンドの分析

実際に強化を用いるかどうか判断する上で重要なのは、今現在対象としている行動は増加しているのか、減少しているのか、またはいずれの傾向も見られないのどれに該当するのかということです。先ほどのセクションで収集したデータ別に以下のようなグラフを作成して、トレンドを確認することが出来ます。

増加してないパターン

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増加しているパターン

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これらのトレンドを確認する上で必要なデータ量としては最低限4日分の記録が必要です。

準備その3ー基準とゴールの作成

トレンドを確認して確かに強化が必要そうだとわかった後で、行うことはゴールと達成の基準を明確に定めることです。伸ばしたい行動の定義と、現在から比較してどのような状態にするのか、観測できる形で目標と基準を作成します。

ゴール定義の例
問題行動:授業中に勝手に話し始める
・シチュエーション:先生が講義中に、児童に質問する
・行動:たかしは手を挙げて、呼ばれるまで喋らずに待つ
・基準:講義時間30分間に対して3回上記の行動ができる

さらに児童の学習進捗を測るために段階的にどのようなステップを踏んで、最終的な基準に到達するか計画表を用いると便利です。計画表に含まれるのは現在の状態と、行動のステップ、到達目標です。

スキル獲得計画表の例
・現在のレベル:先生が質問を投げかけると、たかしは手を挙げずに、また先生から頼まれることなしに、勝手に喋り出す。(2019/11/21)

・ステップ1:講義中、先生が質問を投げかけると、たかしは手を挙げて待つことができる。ただしこの行動は講義時間内の10分間毎に1回の頻度でかつ5日中4日は発生していることが観察される。

・ステップ2:講義中、先生が質問を投げかけると、たかしは手を挙げて待つことができる。ただしこの行動は講義時間内の20分間毎に2回の頻度でかつ5日中4日は発生していることが観察される。

・達成目標:講義中、先生が質問を投げかけると、たかしは手を挙げて待つことができる。ただしこの行動は講義時間内の30分間毎に3回の頻度でかつ5日中4日は発生していることが観察される。(予定日:2020/5/21)

・超過目標:講義中、先生が質問を投げかけると、たかしは手を挙げて待つことができる。ただしこの行動は講義時間内の30分間毎に3回の頻度でかつ5日中5日発生していることが観察される。

準備その4ー強化子の選択

強化が児童にとって意味のあるものであるためには、強化に使用する強化子が児童にとって好ましいものである必要があります。そのため有効な強化子の種類とそのものを選定します。


強化子の種類
・社会的強化子(例:やったねと褒められる、笑顔)
・物や活動(例:Ipadで遊ぶ、外に出る)
・食べ物や獲得できる物(例:飴、フィギア)
・感覚刺激(例:粘土をこねる)
*どうしても他の強化子が有効でない場合、大人が感覚刺激へのアクセスをコントロールできる、シチュエーションに対して不適切でない、いずれかの場合だけ用いることが出来る強化子
・行動の結果そのもの(例:テストで良い点を取るという結果そのもの)
強化子の探し方
・保護者の方や児童をよく知る人に聞く
・児童本人が回答できる場合には本人に聞く
・自由な環境の時に児童がよく遊ぶものや選択するものが何か観察する
・以下の手順でサンプリングする
 1.児童の前に座り2つのアイテムを見せて、「1つとって」と言う
 2.10秒間選ぶまで待つ
 3.選ばれたものと選ばれなかったものを、それぞれ区分けして箱にしまう
 4.上記を繰り返す

準備その5ー負の強化子の特定

負の強化子は、児童があまり好きでない望ましくない強化子です。負の強化子があることによってその行動を取り除こうとという行動へのモチベーションが高まるため、学習機会を確保していくためにあらかじめ特定しておくと便利です。

好きな活動とそうではない活動を判定する方法の例
・日常生活の中にある活動(手洗い、着替え、着席etc)を選択し、「〇〇ちゃん□□の時間だよ」と声をかける
・15秒間まつ
・もし活動を始めない場合には再度声かけを行い15秒間まつ
・やだ、やりたくない、などど言ったり問題行動が起き始めたら活動から離脱していいようにする
好きなものとそうでないものを判定する方法の例
・教科書やプリント、コンピューター、タブレットなど普段使用するものの中から選択し、「〇〇ちゃんこっち来て」と声かけし、選択したものを手渡す。
・選択したものを触るまで15秒間まつ
・選択したものに触れない場合には再度手渡し、15秒間待つ
・いや、などと言ったり問題行動が起き始めたら、すぐにその選択した物を取り除く
・選択したものが取り除かれた時に、問題行動が治ったり減ったりするか観察する。

準備その6ー必要なものを準備する

どんな強化子を、どのような強化の方法で用いるか決まったら、それぞれで必要なものを準備します。正の強化の場合には与えるものや活動を選ばせるための絵カード等が必要かもしれません。またトークンを用いる場合には、児童に渡すトークンカードや、集めたトークンを保存するものが必要です。負の強化の場合には、嫌な刺激を取り除くための方法を児童が理解できるようにイラストや、テキストでわかるカード等が必要かもしれません。
それぞれの方法に合わせて、工作が必要な場合には事前に準備します。

まとめ

強化の種類には、強化子を与えることによって行動に変化を加えるものや、逆に嫌なことを取り除くことによって行動に変化を加える方法があります。それぞれのシチュエーションに合わせて、どんな強化子をどのような方法で提供するのかということが大切です。

リファレンス
https://afirm.fpg.unc.edu/node/296

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