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エビデンスのある療育ーFCT実践編

はじめに

FCT準備編の続きです。まだ読まれていない方はそちらを先に読んでいただくことをお勧めいたします。
前回の準備編では代替行動としてどんなコミュニケーション方法であれば、児童にとって学習しやすいか仮説を立て、またそれに必要な絵カード等も準備しました。本編では実際に代替行動として新しいコミュニケーションを教えていく上でどのようなステップやテクニックが必要になるか紹介していきます。

実践その1ープロンプトの使用

実際に代替行動を教えていく上で、プロンプトの使用は欠かせません。プロンプトをどのようなレベルで用いていくか、ということは実際の児童のスキルレベルと標的となる代替行動の難易度に依存します。
FCTで代替行動を教えていくときには、一番程度の強いプロンプトから使用し始めて、だんだんとプロンプトのレベルを下げるMost-to-least prompting hierarchyという考え方で使用するプロンプトを決めていきます。

Most-to-least prompting hierarchy

レベル4から始めたからと言って必ず、レベル3、2、1と下げていかなければいけないということは無く、児童によってはスキップすることもあります。また同時に注意する必要があるのは、代替行動として例えば、音声で「休憩したい」という行動を教えようとするときに、児童によっては音声のモデリングでは不十分な場合もあります。このような場合には、最初はコミュニケーションカードを使用するところから始めるというように、代替行動の形態を柔軟に変更することも必要です。

実践その2ー代替行動を強化する

問題行動に変わって代替行動を定着させていくためには強化することが重要です。FCTの場合には、要求そのものに対応する反応を即時に提供することが強化になります。


プリントに取り組む時間に、休憩したくなった時暴れるという問題行動を、休憩カードを支援者に提示するという行動に置き換えたいときに、休憩カードを児童が使用した時にはすぐに休憩時間にする。

特に、代替行動を教える初回においてはセッション中に何度も定期的に強化することが大切です。より多く代替行動を使う機会が増え学習機会をたくさん提供することができます。


10分間のセッションの場合
・支援者が児童に課題を提供する
・児童が課題に取り組む
・児童が代替行動を用いて休憩したいと伝える
・休憩する(30−60秒)
・支援者が児童に再度、課題を提供する
・児童が課題に取り組む
・児童が代替行動を用いて休憩したいと伝える
・休憩する(30−60秒)
・支援者が児童に再度、課題を提供する

実践その3ー問題行動は強化しない

代替行動を増加させることと同じくらい重要なのは、問題行動によって目的が達成されてしまうことを防ぐことです。問題行動も代替行動も機能は一致していますが、より適切な行動の方を使えるように、問題行動ではもう機能しないということを学習してもらう必要があります。しかしながら注意して欲しいのはこれは罰を与えることではないということです。多くの場合は問題行動が起きても無反応でいることで対応されます。
また問題行動を強化しない状況をわざわざ設定して学習機会を設ける必要は必ずしもありません。代替行動の使用頻度が順調に増加している場合には、代替行動の強化に集中しまた万が一発生した時には、その問題行動で目的を達成させないように注意するだけで十分です。

実践その4ー代替行動の般化

代替行動を用いることができるようになってきたら、次に重要なのは、その行動を場面や状況が異なっても同じように使えるようにしていくことです。
いつもの場所、いつもの先生という条件で代替行動の練習をしてきたのであれば、場所を変える、先生を変えるなどとして、状況が変化してもスキルを使うことができるようにしていく必要があります。

実践その5ーシェイピング

シェイピングとは、例えば休憩が欲しい児童が、「休憩」ということができるようになった後で、「休憩」→「休憩したい」→「先生、休憩したいです」などと段階的に完全な表現に近づけていくことです。大人が使うようなより自然な表現が使うことができれば、児童にとってそれほど親しくない人であっても理解することができますし、それによってこの代替行動の汎用性も広がります。ただし、シェイピングは必ず完璧を求めるものではありません。それぞれの児童のスキルレベルに合わせて、現段階でどこまで近づけることができるのか考え程度を決めることが重要です。

実践その5ー強化の遅延

代替行動を強化し学習していく中で時には、そもそも要求に応えることが不可能な場合や要求に応えることが適切ではない場合があります。強化のセクションで何度も繰り返し学習機会を設け即時に強化することが重要であると言いましたが、最終的に目指すところは、適切なコミュニケーション方法で要求をし、要求がすぐに叶う場合にも、要求がすぐには叶わない場合にも対応できることです。
そのためこのステップでは、要求が発生してから要求が叶うまでの時間を少しづつ伸ばしていきます。これまで即時的に強化してきたところから、どの程度遅延させるかは児童の状態を考えて慎重に決める必要があります。が、どれだけ短くしても5−10秒の遅延から始めることがおすすめです。

実践その5ーモニタリング

代替行動の学習が始まり児童が順調に学習しているかどうか確かめるためにデータの収集が重要です。学習中に発生した問題行動に関しては以前のFBAで集めたように、どんな状況で、どんな刺激に対して、どんな行動が、いつおきて、結果どうなったのかという形で収集することができます。
また代替行動とそれに必要だったプロンプトの種類、問題行動をまとめて収集したい場合には以下のような形で収集すると便利です。

低頻度版

高頻度版

これらの形で、データを収集し進捗を見ながら、あまりうまく行っていないと感じられる場合には、FBAまで遡り、そもそもの行動の定義が誤っていないか、機能を正確に捉えられているか、代替行動は問題行動によって達成されていた機能を満たしているか、代替行動に関してきちんと強化されているかなどを振り返り、計画を修正することが必要です。
また介入方法はFCTだけではありません。この方法でどう頑張ってもうまくいかないと考えられる場合には、異なる介入方法を試すということもできます。

まとめ

FCTは、問題行動を適切なコミュニケーション方法で代替するための方法です。適切な方法で意思表示ができるようになることは、児童にとっても支援者にとってもメリットが大きいと思います。代替行動でも目的が達成することができるという学習機会をふんだんに設けて、強化し、また般化させていくということが特に重要です。問題行動で困ったなあ、ということがある際にはぜひFBA、FCTの活用を検討してみてください。

リファレンス
https://afirm.fpg.unc.edu/functional-communication-training

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