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『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』(9月5日発売) 松波龍源:著・野村高文:編 特別先行公開

現代人の悩みに必要なのは、「超論理的」仏教思考かもしれない。

私たちが知っているようで知らない仏教のロジカルな思想と知識=仏教思考を、
現代の事象に照らし合わせながら解説、
まったく新しい仏教への扉が開く!
Audible original podcastの人気番組「ゆかいな知性」仏教編が
ついに書籍化します。

『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』(9月5日)発売に先駆け、
今回は「はじめに」の部分を特別先行公開。

『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』
著=松波龍源
編集=野村高文
定価=本体1,600円+税10%
ISBN=9784781621906
判型=四六判
ページ数=280ページ

はじめに


出会い──ロジカルで現代的な仏教思想に驚嘆

こんにちは。『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』を手にとっていただき、誠にありがとうございます。音声プロデューサーの野村高文と申します。
 
本書は音声プラットフォーム「Audible」で配信されたポッドキャスト(音声番組)「ゆかいな知性 仏教編」をもとに、大幅な改稿をおこなったものです。
 
「ゆかいな知性」は人文科学を中心に、専門家の方との1対1のトークで、その分野の知見を雑談も交えて語っていく番組です。リスナーのみなさんに、聴いたあとに「ちょっと世界が違って見える」体験を提供することをめざしています。
 
なぜこの番組を作ったかというと、「先人が残してくれたものには、必ず意味がある」と考えているからです。日々、ニュースや新しいサービス、テクノロジーの情報が更新され続ける昨今ですが、最新の話題はいっとき話題を集めたとしても、すぐに消えていく運命にあります。
一方で、時の試練を耐え抜いた先人の知恵は普遍性を持っており、今後も簡単に消えることはありません。環境変化の激しい時代だからこそ、先人たちが残したものに真摯に耳を傾け、現代を生きるうえでの指標とすべきなのではないか。私はそう考えています。
 
その番組のスピーカーとして、本書の著者である僧侶の松波龍源さんの顔が思い浮かびました。龍源さんに「仏教」を語ってもらったら、きっと世の中にない音声番組ができるに違いない。そう思った私は、すぐに企画書をしたためました。
 
仏教と聞くと、多くの日本人にとっては、法要やお葬式のイメージが強いかもしれません。もしくは何かをお願いしたいとき、お寺にお参りにいく程度でしょうか。お坊さんについても、こうした儀式でお経を唱えたり、参列者の前でありがたい話をしたりする姿を想像する人が多いと思います。
 
しかし龍源さんは、日本人が仏教に抱くこれらのイメージは、本来の仏教の姿からはかけ離れていると言います。その理由は本書で触れていきますが、龍源さんはそうした点に問題意識を抱き、開祖であるゴータマ・シッダールタ(釈迦牟尼)が志した仏教本来の役割を現代に蘇らせようと、京都で「実験寺院・寳幢寺」というお寺を運営しています。
 
龍源さんと出会ったのは、2021年にポッドキャスト「a scope 〜リベラルアーツで世界を視る目が変わる〜」を制作したときのことです。この番組は株式会社COTEN代表取締役の深井龍之介さんと私がホストを務め、各学問に精通したゲストとともに「現代人にとっての教養」を考える内容でした。その中の1回に、深井さんのご縁から龍源さんにご出演いただいたのです。
 
その収録で味わった知的興奮は、言葉に尽くしがたいものがありました。龍源さんのお話を聴いていると、仏教の思想体系が本当に論理的で、細部まで穴がないことを実感します。しかもそれは埃をかぶった昔の話ではなく、現代人の悩みを解決する最先端の知恵であるとわかる。ただただ、驚嘆しながらお話を伺ったことを覚えています。
 
仏教をもっと深く知りたいと思った私は、龍源さんに新番組への出演をオファーしました。全24回にわたるポッドキャスト収録は、私自身、何度も目を見開くような、本当に贅沢な時間でした。本書では、そのエッセンスを凝縮してお届けします。

今の自分に、社会に、世界に不安を抱くすべての人へ

さてみなさんは、私たちが生きるこの世界を、どのように認識しているでしょうか。
 
私の答えを述べるならば「とてつもない勢いで、にわかには信じられないことが連日の
ように起きる時代」です。
 
原因不明のウイルスにより世界で何百万人という人々が亡くなり、経済活動もストップ。核兵器を持った国が他国に戦争を仕掛け、その出口は見えないままです。平和を謳歌していたわが国では、元首相が銃弾に倒れ、現職の首相が襲撃されました。
 
これらはすべて、わずか数年の間に起きたことです。
 
思わず「こんなことが起きるのか」と呟きたくなる変化を目の当たりにし、驚き、疲れ、立ち往生してしまっている人も多いことと思います。
 
しかし歴史を振り返れば、感染症も、戦争も、テロも、すべて繰り返されてきたことです。とくに古代社会では、現代よりも人命は簡単に失われてきましたし、経済格差も比べ物にならないほど甚大でした。
 
そのような中、「人々の苦しみを取り除く」という思想のもと、登場したのが仏教です。当時の社会状況をみて、釈迦牟尼は「苦しみ」という事象に正面から向き合いました。そして人々に、苦しみに向き合うための知恵を授けました。
 
そんな仏教の知恵は、現代にも大きなヒントを与えてくれます。
 
現代では多くの人が苦しみを抱えています。仕事がしんどい、他人とうまく付き合えない、健康に不安がある、お金がない……。古代よりも物質的には段違いに豊かになったはずなのに、承認欲求が満たされない、必要ないものまで欲しくなってしまう、他人と比較してしまう、といった新たな悩みも浮上しています。
 
私たちはなぜ、苦しみから抜け出せないのでしょうか。本書ではその苦しみの正体に迫りながら、釈迦牟尼の思想をひもとき、向き合う方法を考えていきます。

「脱・宗教」としての仏教思考を実装せよ

本書は3部構成になっています。
第1部では、現代のさまざまな事象に対して、仏教の視点から見えてくることを語っていきます。取り上げるキーワードは「ポスト資本主義」「メタバース」「バズと承認欲求」など。きっと想像以上に、仏教が現代の課題にヒントを与えてくれるものだと感じるでしょう。
 
第2部では仏教の思想体系について、少し専門的に解説していきます。一度は耳にしたことがある、でも意味を知っているようで知らない「因果・縁起」「唯識」「色即是空」「諸行無常」といったキーワードを取り上げます。全体を読んだとき、仏教の首尾一貫性に驚かれる人も多いと思います。
 
ある思想を理解するには、それと異なる思想に触れ、両者を比較することが有効です。そこで第3部では、ギリシャ哲学、キリスト教、ヒンドゥー教など、他の思想体系に触れながら、仏教との違いを読み解いていきます。さらに、釈迦牟尼がインドで開いたオリジナルの仏教が、中国を経て日本に伝わる過程でどのように変質したかにも触れていきます。
 
これを読むと、われわれ日本人がイメージする「お葬式や法要のときだけ登場する」仏教が、相当に特殊なものであることがわかります。そして、本来の仏教はもっとシンプルで、人々に寄り添う、実用的なものであると理解できるはずです。
 
さて私はここまで、仏教を説明する際に「宗教」という言葉を使いませんでした。龍源さんは仏教を「宗教」ではなく「思想」と捉えているからです。
 
というのも仏教は、何か大きなものに救いを求めるのではなく、個人個人が自分なりの視点で世界を認識することを促すものだからです。
 
これが、本書で提示する「仏教思考」の根幹です。そしてこの思考は、無数の選択肢があり、一方で正解も見えない現代だからこそ必要とされると信じています。
 
最初から順番に読んでも、興味のある部分から読んでも楽しめる構成になっています。さあ、前置きはこれくらいにして、ぜひページをめくってください。
 
2023年8月 音声プロデューサー/編集者 野村高文


本書の目次

第1部 現代社会の事象を仏教の視点から読み解くと
VUCAの時代
「VUCAの時代」は、今に始まったことではない/世の中はコントロールできないことのほうが多い

ポスト資本主義
資本主義の「しんどさ」から脱却するための視点/なぜ、現代社会を生きるのがしんどいのか/人を幸せにするのは、社会制度よりも心のあり方/「三方よし」の仏教哲学的ロジック/きわめてロジカルな「輪廻転生」の哲学/仏教がいう善悪とは

メタバース
メタバースと仏教の相性がよい理由/この世界も、仏教から見ればメタバース!?/「さとる」ことで、メタ世界の片鱗を見ることができる?/メタな視点で「死」を考えてみる

Web3.0
密教とWeb3・0の相似する構造/ティール組織や『攻殻機動隊』にみる密教的要素/仏教もインターネットのように進化してきた/分散的な世界で求められる、一人一人の叡智

多拠点生活(マルチハビテーション)
「家」を持たない女子大学生は、何を考えているか/仏教は多拠点生活をスタンダードとして始まった/寺を成立させる「布施」の概念/仏教的な価値観が現代人にフィットする理由

消費社会とマーケティング
欲望は、仏教哲学においても巨大なテーマ/苦しみや喜びは、ただ自分の中にしか存在しない/マイナスな出来事をプラスに変えるには/人間の欲望に合わせて仏教そのものが変化した/「過去は変えられない」と思っていたけれど……

ブルシット・ジョブ
ブルシット・ジョブを「作り出す側」と「させられる側」/無意味としか思えなかった修行時代の掃除/その作業をブルシットでなくすために「閾値」を超える/人は直接体験しなければ納得できない生き物/言語が体験を間接的に後押しする

バズと承認欲求
注目されたいと思うのは、ごく自然なこと/SNSでつい「盛ってしまう」のはなぜか/釈迦牟尼だって文句を言われていた/SNSとうまくつき合うキーワードは「利他」

〈コラム〉「寺の子」ではない私がお坊さんになったわけ
ミイラに魅せられた神秘好きの松波少年/仏教に目覚めたのに、志したのは武道/まるで映画のような、中国でのマンツーマン武術修行/武術の指導者になるはずが、流れで出家!?/ミャンマーのように仏教が浸透した社会をつくりたい

第2部 論理(ロジック)でわかる仏教の思考体系
一切皆苦
「一切皆苦」はポジティブな教え/「苦」を認識して初めて、その回避策が取れる/きわめて仏教的な『スター・ウォーズ』ヨーダの教え/最大の苦しみ「死」をどのように考えるか/一切皆苦を日々の生活に生かすには

因果・縁起
仏教の根本となる4つの聖なる教え/とても科学的・現代的な因果の概念/「因」を「果」たらしめるのが「縁」/「善」「悪」の区別も因果で説明できる


「空」は「無」ではない/「空」は西洋哲学における形而上の真理/本当の「真ん中」は、右と左の中間ではない/さとりのゴールは「空」だった/「空」はポジティブに生きるためのライフハック

唯識
絶対的なものはないと言うけれど、目の前にあるじゃないか/世界は、それを認識する人の数だけ存在する/唯識の理論は、量子力学とよく似ている/フロイトの「無意識論」とも近い、唯識論の8段階/いいことも悪いことも、連鎖的に起こるのは理由がある/唯識派は「自分を仏陀と認識する」状態を目指した/ヨーガ・瞑想の仏教哲学的なメリット

上座部仏教・大乗仏教
両者の決定的な違いは、「仏陀」の定義/上座部仏教に流れる「一つの宇宙に一人の仏陀」という世界観/大乗仏教のポイントは、時代や環境にフィットさせること/「さまざまな仏陀」から仏教の最新バージョンが生まれてきた/仏陀は、いわばインストラクター

諸行無常
日本とインド仏教の「諸行無常」は大きく異なる/良いことも悪いことも、永遠には続かない/さとりに近づくための四念処/仏教は、世界の哲学や宗教の中でも「変わり者」

利他
利他のために、まず「私」を考える/自己犠牲は利他ではない/小さな虫を弾き飛ばしてはいけない理由/「空」の思想は争いを回避するヒントになる/欧米の寄付文化を仏教的に見ると

さとり・修行
「修行」という言葉、その仏教的な意味は?/結局、「さとり」とは何か/「私は滝かもしれない」と感じた修行時代のこと/論理を学ばずに修行だけをしてしまうと……/修行のさまざまなバリエーション

〈コラム〉現代社会で「真の仏教」を実践できるか?
盟友との運命的な出会い、実験寺院の萌芽/理想を求め、お坊さんの戒律を全部守ってみた↓大失敗!/自分たちの考えるお寺のあり方を、社会に提示したい/寳幢寺が「お布施だけで運営」にこだわる理由/今こそ思い出せ、革新派としての大乗スピリット

第3部 仏教の視点を比較す
哲学と仏教① 〜ギリシャ哲学〜
ギリシャ哲学と仏教はよく似ていた?/善は「実在する」としたプラトンと仏教の違いとは/似ているけれど決定的に違う二つの論点/キリスト教の登場で、西洋思想は仏教と正反対に/映画から垣間見える、キリスト教の絶大な影響

哲学と仏教② 〜西洋哲学〜
「神は絶対」のキリスト教的価値観を揺るがしたペスト/ペストの恐怖から「さとった」人がいた/神から「自立」し「理性」を大切にした近代哲学/現代に近づくにつれ、認識にフォーカスするように/弁証法的な価値観を卒業しよう

インドの他の宗教と仏教
インドの精神文化の原点とは/バラモン教を軸に、あらゆる信仰を取り入れたヒンドゥー教/仏教が因果説を強調する理由/「優しすぎる」ゆえに「厳しすぎる」ジャイナ教/ヒンドゥー教は農民層に、仏教は商人層に広まった

中国で変容した仏教
インドと中国の考え方の違いが仏教のカスタマイズを生んだ/バラバラの順序で仏教を受け入れ、中国は大混乱/混乱を解消した「救世主」、天台智顗/「山に籠って修行する仙人」のイメージは中国で生まれた/もはや有神論の阿弥陀信仰

日本の文化と仏教①
「国家の統治ツール」として輸入された日本の仏教/神仏習合のパイオニアは聖武天皇?/日本にもダライ・ラマ制度ができていたかもしれない/新たな精神的支柱をつくった最澄と空海/「鎌倉新仏教が日本の仏教を一新」って本当?

日本の文化と仏教②
「仏教の神道化」の象徴、檀家制度/制度として浸透しても、人々の心には浸透しなかった/はからずも日本で、仏教がバラモン教に先祖返り/思考の土台・材料として、本来の仏教を提示したい/ティール組織やDAOにするだけではうまくいかない理由/一人一人が「自分ごと」で考えることが、社会を動かす

おわりに


それでは、本の中でお会いできるのを楽しみにしています。
(後日、電子書籍の販売も予定しています)

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