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短編集「残像」

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消えていく感情や不思議をコンセプトの短編集
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あとがき

本を読んでいると「この話、前に読んだ作品と似てるなぁ」と思う事がたまにあります。でも、自分で作ってみると分かるのですが、それが『個性』というやつなんですよね。
例えばASIAN KUNG-FU GENERATIONの新譜が出たら、イントロを聴いた瞬間にアジカンだと分かったり、それがDragon Ashだったり、サザンだったりするわけです。
『個性』という言葉を別の言葉で表現するなら『好きな世界観』

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どこにでも、いつまでも

もともと口が達者だったわけじゃない。
よく、外国語を覚えるには外国人の異性を好きになれと言うけど、きっと俺もそれとおんなじ。
どこにでもいるような地味な女。
化粧もしない、ジャラジャラとアクセサリーを付けることもしない。黒髪のショート、匂いは牛乳石けん、白いハンカチ、誰にでも優しく、当たり障りの無い会話をする人。でも、心から笑ってるところは見たことがなかった。
俺はそんな彼女を笑わせたくなった。

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些細な実存

また今日も靴を隠されるのか。
憂鬱だった。学校には行きたくなかった。自分と同じ年代の、別の学校の生徒が笑いながら歩いているのを見かけると胸が苦しくなった。
その日の朝もフラフラとした足取りで僕は歩いていた。二、三分後には電車がキリリ、キリリと音を立てながらホームに滑り込んでくる。でも、いつもと違ったのは自分よりもヨロヨロしながら歩くお婆さんがいて、線路に落ちそうになった事だ。咄嗟に僕はお婆さんの身

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黒い塊

「どうしてこんな醜い顔をしているんだ。一体、俺が何か悪い事でもしたのかよ。ノルマもこなすし、残業だって断らない。それなのにどうして俺を避けるんだよ。この顔さえなければ、今頃は結婚して慎ましやかな暮らしを送っていたんだろう。くそッ!」
そんな人間を乗っ取る男がいた。そいつは生きているのか、死んでいるのかで言えば死んでいるほうに近い。鏡の世界から醜い顔の人間を選んで身体を乗っ取り、現実世界を生きていた

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未来文通

Bちゃんへ お元気ですか?
私は元気です。うちの周りに綺麗なお花が咲いてます。風が吹くといい匂いがするから、きっと山の向こうにも同じような綺麗な花が咲いているのだと思います。

Aちゃんへ お元気ですか?
私も元気です。Aちゃんが言うのだからきっととても綺麗な花に違いないんでしょうね。私も窓の外に見える桜の花につい見とれてしまいます。夜になるとぼわんと青く光るのがとても綺麗です。

Bちゃ

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多分、かぜ

「今日こそ告白しよう。今日こそ…」
A君はBちゃんに好意を寄せていた。ラブレターを書いてはみたものの、渡すタイミングを逃す日々が続き、ようやく帰り道に渡す決心をしたのだった。
「よし… 落ち着け。落ち着け。自分!」
Bちゃんは学校でも一人でいることが多く、帰り道も一人で帰っていた。A君にとってはそのクールな感じが魅力的に見えたし、寂しげな彼女を笑顔にしたいという衝動が彼を恋へと駆り立てたのだ。

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君の手

俺には生まれつき左手の指が一本多いという悩みというか、呪いがあった。母親はそれでいいと俺を生かしたが、父親は俺を気味悪がったし、父方の祖母がどうせすぐにダメになるから養子にでも出したほうがいいと言っていたのを聞いたことがある。この「ダメになる」というのは死ぬという意味だ。両親のことを思っての助言だったのだろうが「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ」と思い始めてからはこの世界のどこに居てもうまく息が吸

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