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短編集「喜怒哀楽」

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喜怒哀楽を描いた4作品
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記事一覧

怖いパンツ

堀内はいたって普通の毎日を生きてきた。
朝起きて食事と身支度を整えて、早めの電車に乗って席を確保して、インターネットのニュースを読み、駅に着いたら近くのコンビニで昼食の弁当を買って出社する。仕事が終わったら今度はコンビニで夜食を買って電車に乗り、電車に揺られて帰宅してーーと朝とは逆から行うのだった。機械的ではあるが生活は成り立っていたので、堀内はそれなりに満足していた。
ある日のことだった。つまら

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泣き声

「やーだぁー、買ってくれないと動かない!」
「いい加減にしなさい!そうやってぐずればお母さんが買ってくれると思ったら大間違いです!」
「やーだぁ!やーだぁ!やーだぁ!」
「お母さん行くからね!」
「ギャーーーー!」
母親はしつけの一環として心を鬼にし、ゲーム売り場の近くで腹ばいになって泣き叫ぶ我が子を放置した。泣けば自分の思い通りになるという考えは間違っている。良いことをすれば報酬が貰えるという、

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犯人の姿

愛する者を殺された気持ちが分かるか。
あいつは私の最愛の存在を奪った。その死を知った直後は目の前が白み、死と対峙した時は目の前が真っ暗になった。
ついさっきまで何事もなく生きていたあの人が、なぜ殺されなければならないのか。こんな根本的なことも分からないまま、あの人の遺体は焼かれて骨だけが残り壺の中に入れられた。
なんだこれは…なんなんだ…
ひたすら悲しみと絶望が押し寄せる。人の目を気にしたところで

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ワンチャンハッピーエンド

宝くじなんてどうせ当たらないと分かっているから、生まれてこのかた一度も買ったことはなかった。そんな俺が宝くじを買ったきっかけは部長の一言だった。
「諸君、有川さんのお母様が大病されていることは知っていると思う。そこで私が部長として宝くじを一人につき十枚奢るから当ててくれ」
小さな会社の小さな部署で、五人の部下を前に部長は突飛なことを言い出した。正直俺は宝くじを買うなら積み立てて寄付したほうがいいの

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