流行

「次の方どうぞ」
患者を呼ぶアナウンスが聞こえる。
「失礼します」
それに応じて患者がドアを開けた。
「どうされましたか?」
医師はカルテに文字を書きながら、横目で患者の様子を伺って症状の検討をつけた。
「病院になんて来る必要のないことなんでしょうけども…」
「身体の不調の相談に乗るのが医者の仕事ですから何でも話して下さい」
「そう言って頂けると話しやすいです。実はスマートフォンがどこにあるのか忘れてしまうんですよ。なんてこと無いことなんですけど、今って生活必需品じゃないですか。ボケるという歳でもないのでどこか悪いのかなぁと」
患者は日常生活を阻害するモヤモヤした感情を医師に打ち明けた。
「最近、あなたと同じ症状を訴える患者さんが多いんですよ」
「そうなんですか?」
患者は思考を巡らせたが、忘れっぽくなる病気なんて聞いた事がなかった。
「ええ。それで質問ですが、最近ロボットのご購入はされましたか?」
患者はハッとした表情で答える。
「しました。なぜ分かるのですか?」
「やっぱり。答えは簡単です。スマートフォンのアップデートをしないままロボットと同期すると、ロボットが自分を人間だと思い込んでしまうんです」
「ん? よく分かりませんが…私はどうすればいいのでしょうか?」
「恐らく役目を終えたスマートフォンはすでに回収されているでしょうから、こちらでアップデートを行います。すぐに終わりますから横になって下さい」
「解りました」
ロボットは医師の言葉を了承して、横になり待機状態となった。
『うちのロボットがすいません』
スピーカーから持ち主の声が聞こえた。
「いえいえ、メーカー側がユーザーの声を無視して買い替えを要請してるのがいけないんですよ。古い機種のスマートフォンユーザーがいきなり最先端のロボットを使いこなせるわけないんですから。それに、ロボットの相談に乗るのもエンジニアの仕事ですから」
人間とロボットの距離が縮まった未来の話。
#ショートショート #小説

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