ミミズ

俺はミミズだ。俺の身体を空気が通る。俺の身体を栄養分が通る。俺の身体を血潮が通る。そうやって俺は毎日を生きてきた。
しかし、いつの頃からか汚れた空気と汚れた食物が俺の身体を通り抜けるようになった。必然的に血も濁ってきたようだ。もしかしたら人間どもは、俺たちをジワジワと殺そうとしているのかもしれない。なかには気にかける人間もいるようだが、聞く耳を持たない人間のほうが多いのが現状だ。
さすがにもう疲れてきた。人間には手も足も出ない。まぁ、最初から手も…足も…無いのだけ…ど…
「ピーーー」
先ほどまで欲動を繰り返していた緑色の山々は、次第に丘になりとうとう一本の線になって動かなくなった。
「ご臨終です」
「あなたっ!嘘でしょう⁉︎ ねぇ、目を開けて!」
「ご主人が脳出血で運ばれてから、我々医師はできる限りの手を尽くしましたが、発見が遅れたために壊死は始まっていました。救急搬送をした救命士の話では、苦痛で顔を歪めながらこれを書いていたようです」
そう言って医師は一枚の紙を男の妻へ渡した。妻が手渡された紙に視線を落とすとミミズが這ったような字で感謝の言葉が綴られていた。
#ショートショート #小説

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