犯人の姿

愛する者を殺された気持ちが分かるか。
あいつは私の最愛の存在を奪った。その死を知った直後は目の前が白み、死と対峙した時は目の前が真っ暗になった。
ついさっきまで何事もなく生きていたあの人が、なぜ殺されなければならないのか。こんな根本的なことも分からないまま、あの人の遺体は焼かれて骨だけが残り壺の中に入れられた。
なんだこれは…なんなんだ…
ひたすら悲しみと絶望が押し寄せる。人の目を気にしたところで涙も絶望も絶え間なく押し寄せる。
この繰り返しの中で私の中に憎しみが醸成された。
警察が提示する容疑者の存在が鮮明になればなるほど、それと比例して憎しみは大きくなっていく。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い…
自分を保つことができなくなりそうだった。
テレビの中の知識人は死刑制度の是非を唱える。
「もし冤罪であったら、無実の一般人を殺すばかりか犯人は野放しのままだ。それに国家権力が人命を奪う意味をもっと考えるべきだ。法は人を殺すシステムではなく、人を活かすために罰を与えるシステムであるべきだ。社会は犯罪を犯した人間に対して、罪を償うチャンスを与えるべきです。寛容さを失った社会が犯罪を生むのです」
百点満点の答えじゃないか。
法が人を活かすならどうして無実の私に絶望があるんだよ! 当事者になったことのない人間がふざけるな!
人の神経を逆撫でて金が貰えるなんていいご身分じゃないか。
法は機能しない。今あるのは憎しみを通り越したこの殺意だけだ。
私は明日にでもあなたを殺したい。
#小説

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