信号待ち

今考えるとよくもまぁあんな甘ったるいものを飲んでいたなぁと、ジョギングで走り去る影を車内から見ながら昔を思い出してしまった。
甘ったるいというのは学生時代に陸上部だった自分が飲んでいた特製ドリンクのことだ。サッカー部なんかはレモンの蜂蜜漬けを食べたりしていたみたいだが、オレは市販のヨーグルトに炭酸水をぶち込んだ名前もない飲み物が好きだった。足が速いという価値観だけが取り柄だったし、足が速いのがお守りみたいにイジメの対象にはならなかった。でも、足が速いだけで友達は少なかったし、恐らく俺のことを覚えてるやつなんていないだろう。
ただ、県選抜に選ばれて全国大会まで行ったから記録は残っているし、今でも県のベストタイムは破られていない。十代のガキどもが俺のことを知らずとも、あのトラックの中には今でもあの日の俺がいて、可能性に溢れた青春真っ只中のスプリンターを抜き去っているのだ。
そんなことを考えていたら後続車両にクラクションを鳴らされ、信号が青に変わっているのに気付いた。
今は運送会社で宅配の毎日、最近は通販の荷物が多すぎて赤信号につかまる度に今日も帰りが遅くなるんだろうとボヤいてる。不在票はめんどくさい。字が汚いとクレームがうるさい。週末はずっと寝ていたい。慢性的な疲労で、腰も痛くなってきた。ああ、もう随分と走っていない。
車に乗っているから、お前よりも速く走れるんだぞ? 笑ってくれよ。
#小説

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