にがいごはん

帰宅ラッシュの雑踏の中でマイクを握りしめた政治家が熱弁をふるっていた。
「既得権益は悪なのです!この国は開かれなければなりません!それがグローバリズムです!」
政治家のその声は家に帰る人々にとっては馬耳東風だった。
「政治は国民のためにあるのではありません!企業のためにあるのです!国民が健康を害しようと添加物の使用を規制する法律は撤廃されなければなりません!」
ひときわ大きなその声も簡単に雑踏にかき消されてしまったが、その声に気づいた一人の子どもがいた。子どもは目を丸くしながら傍に立つ母親に質問をした。
「ねぇ、ママ。あの人なんて言ってるの?」
「ああ、選挙の演説ね」
「選挙ってなぁに?」
「みんなの中から代表を選ぶことよ」
「ふぅーん。ママは選挙に行かないの?」
「ママには難しくてわからないな。それより、早く帰ってご飯を食べましょう」
「うん!」
子どもの中で何か重要なことに思えた疑問は、大好きな夕飯の話題にかき消され、二人の影は夜に消えていった。
数日後、企業の組織票を積み上げたその政治家は当選した。
「ねぇママ、最近ご飯が苦いよ」
「あら、そうかしら。ママには分からないな」

*「政治家」をキーワードにした #ショートショート に応募して不採用だった作品。
政治家個人をイジる作品が多いと思ったし、そうした政治家が選ばれる過程に注目して書きました。 #小説

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