見出し画像

とある日本エレキテル連合ファンの感想文

はじめに

※ネタバレを含みます。

2014年の秋、しばらくぶりにテレビを点けたら「白塗りの女とおじいちゃんのコントキャラクター」が一世を風靡していることを知った。そのころ勤めていたブラックな会社の社長がときどき口にする「ダメよダメダメ」とはこれのことかと理解した。と同時に雷に打たれたような気持ちになった。

ゴールデンタイムのテレビで「ダッチワイフに話しかける悲しい老人」という観てはいけないものを観てしまったような背徳感。そしてコントメイクを落として現れた女性二人の、演じていたキャラクターと正反対の「普通さ」のギャップに、一瞬にして心奪われた。

あの日から8年半が経ち、日本エレキテル連合はしばしの休養期間に入ることになった。20代のほとんどを二人の笑いに支えてもらっていた私は、突然の休養の知らせに驚きを隠せなかった。そして心配しないでと言われても、一ファンにもなにかできることがないかと考えてしまう。

「中野さん本格治療直前ナイト」には都合で参加できなかったが、最後のお手紙についての一文を見て、不参加の私もどうにか「好きになったきっかけのコント」を伝える方法がないか考え始めた。しかし現在はタイタンを退社して窓口がない状態とのことで、気軽にお手紙を送ることはできないようだ。

今までTwitterなどではネタバレに配慮してしまい、どの公演を観ても、どの動画を観ても「面白かった〜」くらいにしかつぶやいてこなかった。しかし本当は山程伝えたい称賛がある。

なので今回は日本エレキテル連合を好きになったきっかけの動画と、好きになってからさらに愛を深めていったネタについてをnoteに書こうと思う。ネタをおすすめするための文章ではなく、あくまでネタバレを含んだ感想である。


感電パラレル

貫一と宮子

未亡人朱美ちゃん3号で日本エレキテル連合に興味を持ち、YouTubeチャンネル「感電パラレル」を知って一番最初にハマった動画。ノスタルジックで妖しい男女の世界観とストレートな下ネタが癖になる。中野さんはどこか影のある、色っぽい女を演じるのが上手い。橋本さんもまた、そんな女に翻弄される男の演技が上手い。二人の「精・米」のその先が見たくて、思わず次の動画をクリックしていた。

人形以外劇

人形遊びの延長線にありながら、独特な着眼点とやり取りが面白い。特に「しばって...捨てて... 」では中野さんの謎の特技が生かされていて爆笑した。どの劇も気軽に観られるのに、会話中のふとした一言が刺さる不思議なシリーズだ。

二人は奇妙な癖が生じて、冗談につけ真面目につけ、稍ともすれば、どぎつい調子の声色で芝居の科白をつかつて言葉を交へるのが常習であるかの如きであつた。
「武者窓日記」‥‥牧野信一

タイタンライブエピグラフ まとめ(最終更新20221209)

上記は事務所の定期ライブであるタイタンライブで都度流れる日本エレキテル連合のエピグラフである。人形以外劇はまさにこのエピグラフのような常習の遊びに見えて、そういう意味でも面白い。


DVD

シリアル電気「田所先生 ~愛人vs本妻編~」

愛人と本妻のディテールが細かいのに対して、全身タイツに詰め物をしただけの田所先生がなんともシュール。「政治家の愛人やるんだったら本妻が訪ねてきたときにお茶出すくらいの器量ってものを持ちなさいよ」という、一度は言ってみたい名台詞が飛び出す。手作り感溢れる田所先生の首がかくんと落ちる瞬間は、人が死んでいるはずなのに、何度見ても思わず笑ってしまう。

腹腹電気「犬」

謎の金持ちの女に犬として飼われる三好。女から「舌先2つに割ってきなさい! 心肺機能も高めといて!」と、とんでもないことを命じられても「ハイ!」と即答する三好の狂気。そして犬の演技のリアルさが、より気持ち悪さを引き立てていて素晴らしい。一方、同DVDに収められている「ちづる」では表情豊かで口数も多く、アニキの彼女に手を出してしまうという短慮な一面も見られる。こちらのほうが収録話としては先なのでこの責任を取るべく、見世物小屋に売られ、金持ちの女の玩具になってしまったのだろうか? それともアニキの恋人を寝取る男という設定でレンタルされた三好なのか……いずれにせよ謎が膨らむばかり。三好とは何者なのかを考えるだけで面白い。あと個人的な趣味として天然痘次郎の詰め襟に羽織の衣装と拡声器を持つ姿には中二心をくすぐられる。

皆中「マザーズデー」

あらゆる殺意をコントにしたらこうなるのか、というスプラッタコント。崖から落としても、ロープで絞めても、百回刺しても、百発撃っても、決して死なないゾンビ義母と嫁の戦いは、凄惨なのになぜか笑える。

皆中「抱いてけババア」

面接会場に向かう就活生が、片腕しかないババアに自分を抱くまでここを通さないと言われ、立ち往生する。スマホを奪われ、手錠を繋がれその鍵を隠され、どんどん追い詰められていく就活生。次第にババアの言葉に耳を傾けはじめ……まさに地獄のコント。当時いろんなライブでやっていて、その時々で話のエグみは調節していたようだったけれど、東洋館の年末スペシャル寄席で観たときは正直悲鳴のほうが多かった記憶がある。エレキテルのネタの中でも1、2を争うエグいネタだが、そんなエグさも笑いに変えてしまうのはエレキテルならでは。

2016年 東洋館年末スペシャル寄席

ライブ

死電区間「通夜」

公演の一本目のネタ。まずベトナムランタンで彩られた舞台装飾の妖しさに目を奪われる。夜道で通夜に向かう途中の女二人が出会い、故人との関係に共通点を見つけて話が展開していく。そのやり取りのなんとも不謹慎で不道徳な姦しさが、通夜というシチュエーションとミスマッチで可笑しい。

死電区間「イギリス」

「修学旅行でイギリスに来た女子高生が拉致監禁され、犯人と対話するストーリー」かと思いきや、この壮大なストーリーは英会話教育番組の例文ドラマでした…という、伏線回収でさらにゾクっとした。

サンニスキーの夜

エレキテル屈指の人気キャラクター「三好サンニスキー」をテーマにしたイベント。
“娯楽のない街、新宿”の会場に着くと、そこには三好の遺影と献花台。ファンたちは事前に一輪の花を持ち寄るよう指示されていたが、まさかキャラクターの遺影に対面するとは思わず狼狽える人もいた。最後に棺から死んだはずの三好が蘇る瞬間、本当に見世物小屋にいるみたいな異常な熱狂に鳥肌が立った。観客を巻き込んでカルト的な笑いが完成した瞬間に立ち会えたと思う。今思い出してもすごいイベントだった。

なお第二回イベントの「サンニスキーの宴」では三好は宙を舞っていて、それもまたとても美しくてカルト的だった。その時のレポートはイラストにしたためていたのでTweetを引用する。

地獄コンデンサ「老々心中」

それまでは三好のようなノスタルジックで耽美なコントを好んでたいたのだが、こんな哀愁のこもったコントも書けるのか……と幅の広さに感動した。エレキテルのコントに老人はよく出てくるが、リアリティの点でピカイチかもしれない。改めて日本エレキテル連合が好きだなと思ったネタ。

地獄コンデンサ「声優の二人」

女同士のいがみ合いと、アニメの中の少女たちの熱き共闘の対比が面白い。そして中野さんの声優演技がめちゃくちゃ上手い。アニメ的な抑揚のきつい喋りが秀逸。どこかでみたことある声優像なのに決してテンプレートではない、こういうのどこから仕入れてくるんだろう……。

何ダコレハ!「さっちゃんの何ダコレハ!」

AVの定番フォーマットをいじるネタは以前もあったけど(参照:感電パラレル「出会って3秒の人材不足」)、素人もののインタビューのシチュエーションがこんなに面白くなるのかと衝撃を受けた。やっていることはカスタネットを叩き、キーボード入力を見せつけられ、魚介類を叫んでいるだけなのに、当事者にだけ成立している特殊なセックスを観ているような気持ちになった。何ダコレハ!


最後に

ざっくりと感電パラレル、DVD、ライブと3つに分けて特に好きなものを絞って書いてみたが、正直きりがない。まだまだ他にも書きたいネタがたくさんあるし、新しいネタを観るたびに好きなコントが増えていく。そして今日のように振り返れば、また考察したくなるようなネタや台詞が見つかる。

また二人の奇妙で愉快で予想外なコントを見られる日を楽しみにしている。まずは中野さんが十分に静養して一日も早く元気になってほしい。この感想文が処方薬になるかはわからないが、まだまだこれからも二人を待っている人間がいることが伝われば嬉しい。

2017年元旦番組に出演したエレキテルのイラスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?