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新年も解体屋ゲン!元旦発売の88巻は実在企業&ゲンvsサイバーテロの大活劇


・はじめに


みなさま明けましておめでとうございます。本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。2022年はマンガ以外の記事にも手と足を延ばす所存ですので引き続きご愛読申し上げます。

さて、2022年1月1日の0時、年が明けるともに空から配信されたマンガがある(電子書籍スゲー!)。ご存じ解体屋ゲン(こわしやげん)の88巻である。この88巻は長い解体屋ゲンの中でも色々と凄い一冊であり、是非読んで欲しいため感想を並べたいと思う。


注意!

『なお、今回は88巻内の絵を使わせていただいているが、過度なネタバレ防止のために絵につけるキャプションについては88巻の物語とはキャプションの内容も順番も変えているものがあるので、ご了承いただきたい。

また、ネタバレ回避のために巻の中盤から始まる大活劇の舞台や内容などについては記載していない。素晴らしい展開なので是非にご自身の目で確認して、作品を堪能していただきたい。』


今までの解体屋ゲンの記事は以下のとおり。

おまけ


・あらすじ


「ひとりの男のちょっとしたスキを狙われたのか、大手ゼネコン住菱建設のホストコンピューターにハッカーが侵入した形跡があった。住菱研究所に勤めるゲンの仲間、谷は不安を晴らすためにサイバーディフェンス研究所(以下CDI)に助けを求める。

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侵入?


​しかし住菱研究所も住菱建設自体も、谷の不安になかなか対応しない。大企業病にともいえる状態で、確証も無く、いつ発生するかわからない事案には対応出来ないのだ。

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これぞ日本の管理職


そんな中で谷とCDIが強引に調査を進めると、住菱建設の手掛ける三大案件のうちのひとつが狙われているコトが解って来た。どの案件も日本の将来を担うものである。

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まさか静岡……。


谷とゲンはCDIの所員たちと共に地道な努力で狙われた案件を絞り、姿の見えないハッカーを追うが、ハッカーの狙いは谷やゲンの想像を遥かに超えた、日本に大危機をもたらす恐るべき爆破テロであった。谷とゲン、そしてCDIは日本を救うために奔走するのだが……。」


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ゲンは機動戦士的な何かに?


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やはり最後はコレなのか?


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自分の身を捨ててテロと戦う谷の将来は?


・実在の企業と社員がテロリストと!


解体屋ゲンには実在する企業、人、物が作内に登場する回がたびたびある。新規格の足場を製造する企業だったり、薬品ボトル製造会社だった企業だったり、有名ゲームプログラマーだったり、日本ワードプロセッサ開発のレジェンドだったり……。

高知県を中心に全国を駆け回る曳家岡本の親方、曳き家職人の岡本さんなどはセミレギュラーとして解体屋ゲンの世界に住んでいる……棲んでいる?仕事の状況から趣味から全部作内で公開され、作内に生きている。ドキュメンタリーでないマンガでは稀有な人物かもしれない。

※ 曳き家とは解体屋ゲンによく出て来る建物をそのまま移動させたり、沈下での傾きを修正する歴史ある仕事・技術である。

今回、88巻の全編に渡って展開される「時間との戦い」というシリーズに登場する、サイバーディフェンス研究所(CDI)は実在の会社である。ちょっと調べてみるとわかるが、とてもしっかりした企業である。そんな会社の社員たちが社長も含めて実名でゲンや谷と共にテロリストと戦う。

サイバーテロだからと言ってPCだけで戦うワケではない。PCからネットワーク上のテロリストの影を追い、時には自転車でテロリストそのものを追い、紙のマニュアルから泥臭くシステムの急所を探し、アセンブリ言語で対策プログラムを作る。さらには生身でテロリストと対峙する場面も……。


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自転車でテロリストを


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だが、怪しい車が?


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日本の未来のために開発されたマシーン


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どんな言語にでも対応する


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テロリストは何処にいるか分からない


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戦いとは……。


映画のようにノートPCで敵ネットワークに侵入して終わりなんてカッコイイ演出での登場ではないが、でも、もちろんカッコイイ描写もされる。ただしカッコいいだけの人はいない……解体屋ゲンはちゃんと人間を描くマンガなのだ。ちょっと変なトコもある普通の人、でも必要な個性の集まった凄腕のプロ集団としてCDIは描かれているのである。

そしてこの人たちも解体屋ゲンの世界に住む?棲むコトになったのかもしれない。サイバーテロを描くのはこれで最後ではないかもしれないのだ。


・タキジロウ


解体屋ゲンは現実に実直な社会派マンガであるが、特に谷と谷の勤める住菱研究所については実際よりも進んだ技術を持っている。そんな中で今回のハッキングに絡んで登場しているのが二足歩行重機のタキジロウである。「機動警察パトレイバー」に出て来る作業用のレイバーとか「戦闘メカ ザブングル」のウォーカーマシンのような準人型ロボットだ。

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タキジロウ


タキジロウは谷がスパコンで育てているボテというAIを使った自律制御重機であるが、最初にハッキングの影響が表れており、後のシーンでもテロリストに乗っ取られてしまった。

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かゆうま案件


解体屋ゲンは建設業のみならず日本社会の暗い将来、いや現実問題である人材不足、高齢者問題を描くマンガでもある。その対策を表現するために登場しているタキジロウと他の無人重機だったのだが、今回はその弱さを描いている。未来はどちらに傾くかわからない。


・企業と国のサイバーテロ意識


今回ターゲットになったのは大手ゼネコンの住菱建設。これは架空の会社であるが、サイバーテロに対する国内企業の対策はどうなのか、というのがある種、今回の活劇に内包された主題である。

大手だからと言って、皆がPCの、セキュリティの知識とスキルを持っているかといえばそんなコトはない。むしろ自分で対策を意識しなければならない中小よりも専門部署に投げっぱなしの大手の方が危ないかもしれない。

そんな専門部署に努める部署の友人もいるが、お粗末すぎる行為で時間をつぶされるコトもあるようだ。PCをそれなりに使える、OSやネットワークの基本知識がある人はそれほどいないのだ。

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投げっぱなしにされる部署


住菱建設のネットワークはテストでCDIにあっさりと侵入される。テロリストの侵入も個人のやりがちな行為から発生している。大企業のものだからといって脆弱性のないシステムなんて現実の世界でもない。あとはどれだけ対処スキルがあるかだけだ。

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あっさり風味


サイバーテロについては、大手の会社が大問題を起こしたネットワーク認証の事件の時に社長が二段階認証をまったく知らないと会見で露呈したり、国のサイバーセキュリティー担当大臣がUSBを知らないなんて状況がつい最近まであったのだ。政治家に専門知識はいらない?そんなコトが通じる時代ではなくなっている。最低限のロジックを理解する能力は必要なのだ。

※ 二段階認証の件についてはコミケ99でとてもわかりやすい解説を手にするコトが出来た。コミケはエロ同人誌の祭典なだけじゃないのだ。いや、エロも大事だけど(笑)

認証の事件もUSBの件も本人の問題だけじゃなく、わからない責任者に会見をさせるという日本の悪習慣自体が問題な面もある。体裁のための会見や討議を見せる必要なんかないのだ。USBの件は与党の人選もひどい問題だが、野党のくだらない個人攻撃を税金で成り立っている場でやられるのもうんざりだ。昨年の衆院選結果はそれがそれなりに反映されていたと思う。本当の選挙の争点は与野党問わずの残念老害排除だった。


……それはともかく、現状のサイバーテロの状況については作内で非常に厳しく、恐ろしいひと言で纏められている。これについては是非読んで確認していただきたい。


・おわりに


爆破解体マンガの解体屋ゲンはいまや建設業だけでなく、全ての産業と全ての人に関わりのある事柄を描く社会派マンガである。そして今回はサイバーテロとの戦いを他に例の無いほど実直に描きつつも、笑いも忘れず、さらに大活劇として仕上げている。そして作画の石井さだよし先生の絵はどんな話にも対応できるのだ。

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ゲンは笑いを忘れないどころではない様子


ゲンの爆破でドカーンと景気よく……なんて簡単には終わらずに、読者に素晴らしいカタルシスを与えつつも、なんともいえない余韻を残して終わる。我々の周りには常に危険があって、人知れずそれと戦っている人々がいるコトは覚えておかなければならない。サイバーテロだけではないが。

少しは国も真面目に考えるようになったかもしれないけれど、便利な未来になるごとに新しい方向の危機が増えるのはしょうがない。ただ、もう個人や企業だけで防げる問題ではないのかもしれない。もちろん出来る限りの対処は心がけて実施しなければ。


とにもかくにもこの年末年始、解体屋ゲン88巻を美味しくゆっくりと味わっていただきたい。









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