マガジンのカバー画像

台所の詩

5
運営しているクリエイター

記事一覧

豆ごはん

豆ごはん

こんな日は

ことばなんていらないから

必要なものだけたぐりよせ

その他はぜんぶ手放したら

あとは

湯気にときめき

香りに身をうずめて

しんこきゅう

緑の点々と ひとつまみの塩の匂い

あぁ

私は生きてます

ちくわの磯辺揚げ

ちくわの磯辺揚げ

今晩のメニューに

ちくわの磯辺揚げをくわえることにした

おなかの虫が泣くもんだから

まだ温度が低い油に

ちくわをダイブさせてしまった

ちいさく控えめな油の音

細かな気泡に包まれて

ちくわは気持ちよさそうだ

軽くぶつかり合っては方向転換を試みているようだった

鍋からの中継 おわり

悲しみで目の前がみえなくなるまえに

悲しみで目の前がみえなくなるまえに

悲しみで目の前がみえなくなるまえに
砂糖を摂取することにした

深夜
冷蔵庫のオレンジのライトに照らされた
私の顔はどんな顔をしているのだろう

とりだしたのは
ショートケーキ

皿にのせフォークで切って頬張る

今 わたしの口のなかは砂糖に占拠された

生きるために必要なもの
それは この砂糖のように甘い展開だ

秋みつけ

秋みつけ

素麺が残っていましたので

入麺といたしましょう

茄子の素焼きにかつおぶしを

かけえますと

茄子のお布団できました

秋をとっぷり味わいましょう

しじみの呼吸

しじみの呼吸

こんな大都会の

こんな街の片隅の

こんな小さな一軒家で

蛍光灯が照らし出す

台所の鍋の底

したたかに呼吸する