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仙台の立ちはだかるBさん

妹が、仙台で生活をすることになったというのが、前回の話。

不動産屋で白塗りのK子さんに出会ったお話しをさせてもらったわけだが、
K子さんは店舗での接客までのお付き合いとなり、実際に車で物件回りをするというときには担当は変わっていた。

その後の担当になったのは、50代後半くらいの女性。(Bさんということにする)
Bさんは、なかなかの個性をお持ちの女性だった。

Bさんが妹に名刺を渡し、挨拶をする。

いよいよ内覧である。
不動産屋の裏の駐車場まで歩き、車に乗り込んだ。

エンジンをかけてから、Bさん、なにか呟いている。

「どこからまわりましょうねぇ」

こちらとしては土地勘はまったくないので、聞かれても困るのだが、
ひとり言なのか、私たちに聞いているのか判断しにくい。

これから見に行くのは4件である。

Bさん、やっと、不動産屋から近い物件から見に行くことを決めたようだ。

窓から流れる知らない土地の風景。

私は、旅先で必ず聞きたくなることが
一つある。

それは、県民性だ。
環境が違えば人も変化していくように、住む場所は、その人をかたちづくってしまうくらい大きいものだと思っているからだ。

Bさんに聞いてみる。

「仙台の人は、どんな人が多いんですか?県民性というのか」

Bさんは、こう応えた。

「そうですねぇ、あまり自分が自分がと前に出る人は少ないんじゃないですかね.....人に寄りますけどね」

その後も会話を続けた。

私 「仙台は、住みやすいですか?]

Bさん 「住みやすいと思いますよ、治安もそんなに悪くないと思いますし.....人に寄りますけどね」

私 「街をあげてイベントも多いって聞きました」

Bさん 「あっ!ここの大通り、けや木がライトアップされるので冬は綺麗だと思いますよ.....人に寄りますけどね」

ここまでくると、Bさんの「人に寄りますけどね」が聞きたいだけみたいに
なってきた。
妹も可笑しくて笑っている。

きっと、正直者なんだろうな、Bさんは。

しっかし、物件というのは、まさにタイミングがものをいうようである。
こうやって見に行こうとしている間にも、その物件が埋まってしまうこともあるようで、
「お疲れさまです。○○丁の○○ですが、、、」と、
さっきから無線からの声が、ひっきりなしに飛び交っている。

なんと、内覧せずに部屋を決める人もいるようだ。

順調に、一件目、二件目と、注意深く細部をチェックする妹。私は、入ったときの雰囲気で嫌な感じはしないかボーっと全体を眺める。
(別になにか見えるということではない)部屋は、リノべをしていて申し分なくきれいだったのだが、防犯上のことやなんとなくといった理由で流れたていった。

妹は、三件目に期待を膨らましているらしく、強気の姿勢だ。

それもそのはず。
駅近で、オール電化、クローゼットも大きく、バス・トイレは別。
部屋の広さは、一人暮らしには充分な8帖で、カウンターキッチンがある。周囲も適度ににぎやかだ。

その最中、ずっとBさんのポケットからは「Bさん、応答してください」という声が聞こえてくるので、気になった妹が、「でなくていいんですか?」と尋ねた。
Bさんは、「大丈夫です。いつもこうなんです」と、でなかった。

.....もう、予想がついた人もいるだろう。

そうなのだ。

この無線は、私たちが見に行こうとしていた三件目が、たった今、決まってしまったという連絡だったのだ。

それが判明したタイミングが、素晴らしいものだった。

三件目の物件に到着し、ガチャッと鍵を開けて玄関の扉を開いた....まさにその瞬間に「待って!なかを見ないでください!」と両手いっぱい広げ、
私たち姉妹の前に立ちはだかり必死に懇願してくるBさん。
言いにくそうに、「すみません。今、このお部屋、決まってしまったようなので見ないほうがいいと思います」
と、Bさんが言い終わるか終わらないかくらいに、妹が悲鳴をあげた「キャー!!!」

私は、思った。

この人(Bさん)もってるな。

あまりにショックだったのだろう。

妹は、車のなかでグッタリとしている。

「縁だからさー、部屋なんてさ」という私の励ましに、全体重を車のドアに預けながら、うな垂れるようにしてうすーく反応している。

Bさんは、さっきから「本当にすみません。まさかこの物件のことだとは」
と、謝っている。


気をとりなおして、四件目。

窓から、ラーメン屋さんが見えた。
朝から行動しているので、私も妹もとてもお腹が空いている。

「ラーメン美味しそう!」

と私が言うと、

「ここのラーメン美味しいですよ」

とBさんが言うので、

「行かれたことあるんですね!」

と私が応えると、Bさんから

「いや、ないです」

という言葉が返ってきた。私も妹も声をあげて笑ってしまった。

妹は、3件目のことがあったので、溜息混じりでちょっと投げやりな笑い方である。

当のBさんはというと、きょとんとしている。

私には、この状況がすべて面白く思えてきた。

きっと、この不動産屋では、妹の部屋は決まらないだろうなと思ったのも
このときだ。


午前中から行動しはじめて、4件見終わり、別の不動産屋に期待しつつ
仙台駅のなかにある、フレッシュネスバーガーに入り、2人でハンバーガーにぱくついた。

お腹もゴーゴー鳴っている。
空腹がなによりのスパイス。

Bさんが言っていたラーメン屋よりも、このハンバーガーの方がきっと美味しいことを期待して。


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