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彼女は自らを

最近まで妹に関するエッセイを書いたせいか、
妹が赤ちゃんだった頃のことまで思い出している。

髪が生えてくるのも、寝返りも、つかまり立ちも、はいはいも、
全てにおいて周囲から後れを取っていた私とは違い、妹は、これらすべての習得が早かったように記憶している。

特に、はいはいで前進してくる様子は、姉の私が見ていてもちょっと後ずさりしまうぐらいに、とにかくスピードが早かった。

よだれを滝のように垂れ流し、両手両足を激しく動かし前進してくる。

そんな妹だが、唯一、遅かったものがある。

それは、自分の名前を正しく覚える言葉ことだ。

だいたい、一歳くらいには、自分の名前を認識して言葉にしだすものらしいのだが、妹は、いつまで経っても自分の名前(二文字)を言わなかった。


その変わり、まったく違う言葉を自分を名前として発していた。


彼女は自らのことを


「ぶしゅ」

と名乗っていた。


もう一度、言おう。


「ぶしゅ」


だ。


ちなみに、妹の名前とは一文字も被ってもいなければ、響きも異なる。

だれかに、「お前、ブス(ぶしゅ)だな」とでも言われたのだろうかと心配したぐらいである。

一体、妹は、どのタイミングで自分は「ぶしゅ」という名前なんだと思ったのかは、いまだに謎である。

「ぶ」「しゅ」

なんだか、間抜けな響きだが、「ぶしゅ。ぶしゅ。ぶしゅ」と顔を真っ赤にして怒りながら全速力で突進してくる赤ん坊というのは、なかなか迫力があるものであり、怒っているときは、その二文字は破裂音になっているので、より一層よだれが遠くへ吹き飛ばされた。


そんな妹だが、現在、25歳になる。

赤ちゃんのころからよく動き回る性質だったからなのか、スポーツに関係する仕事をしている。


なにかあったら、姉を頼ってくればよい。

私は、いつでもぶしゅの味方だ!!


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