ざらめと恋
「結局、好きかどうかよ」
私が尊敬する女性は、こう言い放った。
この人の口からそんな言葉が飛び出してくるなんて意外だったので、
私は驚いていた。
そんな私をよそに、彼女はにっこり笑っていた。
彼女はいくつもの事業を手掛け、今尚、社長としてバリバリ働く70代。
財も名誉も自らの手で掴んだ女性は、恋愛ばなしだのなんだのという事には興味がない、なんてイメージが私にはあった。
お茶の時間をご一緒にと席につき、互いに好きな菓子・ざらめ煎餅をガリバリ噛み砕きながの雑談。
内容は、人間関係のはなしから恋愛ばなしへと変わる。
ご主人との馴れ初めを尋ねると、そんな大したことじゃないけど、と言いながら教えてくれた。
「決め手は両親がこの結婚に賛成だったこと」そう彼女は言う。
女性は結婚して子供を産み育てるというのが当たり前だった時代があったのだから、それはその通りなのだろう。
でも、次の瞬間、彼女は(このパン屋は塩パンがおいしいのよ)とでもいうような軽さで、
「結局、好きかどうかよ」
と言い、この話を締めくくった。
この直後に見せた彼女のおどけた表情を見て、すこし恥ずかしがっていたことに私は気づいた。
2枚目のざらめ煎餅の勢いの良い噛みっぷりは、彼女の精一杯の取り繕いだ。
私も、それ以上突っ込んで話を聞くことはなかったが、とてもご主人のことが好きなんだなぁと思った。
素敵な夫婦であることを知り、ざらめがより甘く感じたのだった。
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