見出し画像

〇 映画『マ・レイニーのブラックボトム』(ネットフリックス配給)評~1927年「ブルーズの母」のあるレコーディング~約100年後のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)への接点

〇 映画『マ・レイニーのブラックボトム』(ネットフリックス配給)評~1927年「ブルーズの母」のあるレコーディング~約100年後のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)への接点


(本文は値段がついていますが、最後まで無料で読めます。読後サポートしてもよいと思われた場合、購読などでサポートしていただければ幸いです。この本文は約3000字。「黙読」ゆっくり1分500字、「速読」1分1000字換算すると、6分から3分。いわゆる「音読」(アナウンサー1分300字)だと10分くらいの至福のひと時です。ただしリンク記事を読んだり、音源などを聴くと、もう少しさらに長いお時間楽しめます。お楽しみください)

~~~~~

1.  映画『マ・レイニーのブラック・ボトム』~今年のアカデミー・ノミネートか

〇 映画『マ・レイニーのブラックボトム』(ネットフリックス配給)評~1927年「ブルーズの母」のあるレコーディング~約100年後のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)への接点

【Ma Rainey’s Black Bottom : All The Way To Black Lives Matter】

(少しネタばれになります。鑑賞に大きな妨げにはなりませんが、あらゆる事前情報を入れたくない方はご注意ください。ただ鑑賞するか否かを悩んでいる方はどうぞ)

ブルーズ。

1920年代に活躍した女性ブラック・シンガー、ブルーズ・シンガー、マ・レイニーを巡る映画。デンゼル・ワシントンがプロデュースし、インターネットの配信局「ネットフリックス」で公開された『マ・レイニーのブラック・ボトム』をやっと見た。

全米では2020年11月25日にネットフリックスで公開された。製作予算は約2250万ドル(約23億6000万円)。ほとんど劇場公開映画と同等かそれ以上の予算がかけられ製作されている。

マ・レイニーは本名ゲートゥルード・プリジェット、1886年4月26日ジョージア州コロンバス生まれ、1939年12月22日に53歳で逝去している。十代の頃から南部を中心にブルーズ・シンガーとして人気を博し、「ブルーズの母」と呼ばれるようになり、北部のレコード会社に注目され、シカゴでレコーディングすることになった。そのあたりにフォーカスして約90分の映画にまとめた。

舞台は1927年(昭和2年)、シカゴ。パラマウント・レコーディング・スタジオにやってきたマ・レイニー(ヴァイオラ・デイヴィス)(ちなみに、日本での表記はまだヴィオラ・デイヴィスとなっているがヴァイオラが正しい)とそのバンド。野心家のトランペットのレヴィ―(チャドウィック・ボーズマン)、ピアノのトレド(グリン・ターマン)、トロンボーンのカトラー(コールマン・ドミンゴ)、アコースティック・ベースのスロー・ドラッグ(マイケル・ポッツ)は録音前にリハーサルをするが、そこからいろいろと細かいところでもめる。

マ・レイニー チャド、ヴァイオラ 文字入りポスターっぽいもの

白人マネージャーのアーヴィン(ジェレミー・シャモス)がレコード会社の偉いディレクター、メル(ジョニー・コイン)との間に入り、なんとかマの機嫌を取りつつレコーディングする。

特にこれらのやりとりの間には1920年代から、つまり奴隷解放されたとはいえ、人種差別が強く残っている時代におけるエピソードがたくさんでてくる。そして、それらの白人・黒人間の軋轢(あつれき)、黒人内の意識の違いなどは、ほぼ100年経った21世紀の今にもほぼあてはまる。それこそこの映画の本質を突いた部分だ。

主役のマ・レイニーを演じるのはヴァイオラ・デイヴィス。若いメンバーで、いずれは自分自身のバンドを結成し、レコーディング・アーティストとしてやっていこうという野心を持つレヴィ―に昨年急逝したチャドウィック・ボーズマン、本好きで哲学者的なにおいさえ感じさせるピアニストにグリン・ターマン(アレサ・フランクリンの元夫)という配役。この3人のダイアログ(セリフ)はいずれも、圧巻だ。老獪なヴェテラン・ミュージシャン3人と若手のレヴィ―のやりとりも実におもしろい。

2.おしゃれ者のブラザーにとっての靴~白人に搾取される黒人音楽


そんなエピソードで靴を巡る話がいい形で登場する。洒落者のブラック・ブラザーにとって、靴は命だ。レヴィ―は田舎の南部から大都会のシカゴにやってきて11ドルもする高価な靴に一目惚れして買う。この頃、11ドルは彼らの週給以上の大金で、その靴一足を買う。そのうちの4ドルはミュージシャン仲間カトラーから賭けで稼いだものだ。そして、その靴が踏まれるとレヴィ―は激高する。なぜ靴でそこまで激高するのか、と感じるが、これが思わぬ伏線になっていく。

マ・レイニーは吃音(きつおん=どもり)を持つ甥っ子をMC(司会)で使おうとするが、周りはレコーディングには向かないと反対するが、マ・レイニーは言うことを聞かない。

マは言う。「ブルーズは人生を理解するものだ。音楽で世界は豊になる。白人にブルーズはわからない。成り立ちを知らないからね。ブルーズは人を語る手段だ。楽しむためじゃなく、人生を理解するためにある。朝起きるとき(ブルーズは)力をくれ、(自分が)一人だけじゃないと教えてくれる。この世はブルーズによって足された何かがある。ブルーズなしの世界は空っぽだ」

このブルーズはどんな言葉にも言い換えられそうだ。音楽全般、アート全般、クリエイティヴなもの全般だ。

マ・レイニー チャド、ソロ トランペット

レコーディングは紆余曲折ありながら、成功。

さまざまなトラブルの中で、浮かび上がるそれぞれの過去。厳しい過去を持つレヴィ―は、自身が書いたオリジナル曲の録音を夢見て、その楽譜をレコード会社の社長、メルに渡す。マのレコーディングが無事終わったレヴィ―はメルに「あの曲はどうだった?」と尋ねると、「あれは使えない。だが、5ドルやる。ほかにもあればまた持ってこい。買い取りで5ドルやる」という。自分でレコーディングすればホットなものになると食い下がるが、メルは了承しない。

そして、その曲(「ベイビー・レット・ミー・ハヴ・イット・オール」)は、グルーヴもない白人のシンガーが歌って綺麗に脱色されレコーディングされていた。

まさに黒人音楽が、ミュージシャン、アーティストたちが白人に搾取されていたその現場だ。

~~~

3.マクサン・ルイスのヴォーカル


マクサン。

今回のマ役ヴァイオラ・デイヴィスの歌の部分での吹き替えは、なんと『ソウル・サーチン・ザ・セッション~トリビュート・アレサ・フランクリン』にも登場してくれたアワ・シスター、マクサン・ルイスだ。迫力あるブルーズを完璧に聴かせる。

ジャケ写 マクサン 

本作はこれから発表されるアカデミー賞でもなにがしかのノミネートを得るだろう。ヴァイオラ・ディヴィス(主役)、チャドウィック・ボーズマン(助演)、ブランドーフォード・マルサリス(音楽)あたりだ。

それにしても、チャドウィックが主演となったジェームス・ブラウンの伝記『ゲット・オン・アップ(最高のソウルを持つ男)』で、ヴァイオラはジェームス・ブラウンの母親役でちょっとだけ出ているが、そのヴァイオラが今度は主役となりそのチャドウィックと堂々の共演を果たすとはおもしろい。

そして、1920年代、黒人として女性として、白人の世界でいかに対等にやっていくことが難しいか、常にマは闘ってきた。その厳しい闘いっぷりがこの映画が見る者に多くの勇気を与えることになっている。

サウンドトラック盤
Ma Rainey's Black Bottom
Original Soundtrack (アーティスト) 形式: CD

https://amzn.to/3kzd2TX



https://amzn.to/3kzd2TX

映画『マ・レイニー』を特集した隔月刊音楽雑誌『ブルース&ソウル・レコーズ』
ブルース&ソウル・レコーズ2021年4月号 No.158 雑誌 – 2021/2/25


https://amzn.to/2MysuDg

ジ・エッセンシャル・レコーディングス


https://amzn.to/3b5QVS5

~~~~~

■サポートのお願い

ソウル・サーチン・ブログは2002年6月スタート、2002年10月6日から現在まで毎日一日も休まず更新しています。ソウル関係の情報などを一日最低ひとつ提供しています。

これまで完全無給手弁当で運営してきましたが、昨今のコロナ禍などの状況も踏まえ、広くサポートを募集することにいたしました。

ブログの更新はこれまで通り、すべて無料でごらんいただけます。ただもし記事を読んでサポートしてもよいと思われましたら、次の方法でサポートしていただければ幸いです。ストリート・ライヴの「投げ銭」のようなものです。また、ブログより長文のものをnoteに掲載しています。

オリジナルはソウル・サーチン・ブログ
ソウル・サーチン・ブログ・トップ
https://ameblo.jp/soulsearchin/

noteでの記事購入、サポートのほかに次の方法があります。

方法はふたつあります。送金側には一切手数料はかかりません。金額は100円以上いくらでもかまいません。

1) ペイパル (Paypal) 使用の方法

ペイパル・アカウントをお持ちの方は、ソウル・サーチンのペイパル・アカウントへサポート・寄付が送れます。送金先を、こちらのアドレス、 ebs@st.rim.or.jp にしていただければこちらに届きます。サポートは匿名でもできますし、ペンネーム、もちろんご本名でも可能です。もし受領の確認、あるいは領収書などが必要でしたら上記メールアドレスへお知らせください。PDFなどでお送りします。

2) ペイペイ(PayPay) 使用の方法

ペイペイアカウントをお持ちの方は、こちらのアカウントあてにお送りいただければ幸いです。送金先IDは、 whatsgoingon です。ホワッツ・ゴーイング・オンをワンワードにしたものです。こちらもサポートは匿名でもできますし、ペンネーム、もちろんご本名などでも可能です。もし受領の確認、あるいは領収書などが必要でしたら上記メールアドレスへお知らせください。PDFなどでお送りします。

3) サポートしたいが、ペイペイ、ペイパル、ノートなどでのサポートが難しい場合は、 ebs@st.rim.or.jp までご連絡ください。銀行振込口座をご案内いたします。(ちなみに当方三井住友銀行です。同行同士の場合、手数料がゼロか安くなります)

コロナ禍、みなさんとともに生き残りましょう。ソウル・サーチン・ブログへのサポート、ご理解をいただければ幸いです。

ソウル・サーチン・ブログ運営・吉岡正晴

本記事はnoteでも読めます
Noteトップ
https://note.com/ebs

ANNOUNCEMENT>Support

~~~~


ここから先は

0字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?