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〇ボニー・レイットの「ジャスト・ライク・ザット」~心臓移植を受けた男性が、その心臓提供主の母親を探して邂逅する物語

〇ボニー・レイットの「ジャスト・ライク・ザット」~心臓移植を受けた男性が、その心臓提供主の母親を探して邂逅する物語
 
【Bonnie Raitt’s “Just Like That” Story】
 
(本作・本文は約6000字。「黙読」ゆっくり1分500字、「速読」1分1000字で読むと、およそ12分から6分。いわゆる「音読」(アナウンサー1分300字)だと20分くらいの至福のひと時です。ただしリンク記事を読んだり、音源などを聴きますと、もう少しさらに長いお時間楽しめます。お楽しみください)
 
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〇ボニー・レイットの「ジャスト・ライク・ザット」~心臓移植を受けた男性が、その心臓提供主の母親を探して邂逅する物語
 
【Bonnie Raitt’s “Just Like That” Story】
 
サプライズ。
 
先日行われたグラミー賞授賞式で、主要4部門のひとつ「ソング・オブ・ジ・イヤー」(その年を代表する曲、よく日本では最優秀楽曲賞などとも表記される)を受賞したのが、ヴェテラン・シンガー・ソングライターのボニー・レイットが書いた「ジャスト・ライク・ザット」だった。この受賞を誰よりも驚いたのが本人だったが、いずれにせよ、ノミネートが5から10に増えたことで、各投票者の投票が割れ、年配のグラミー会員の票を得て、するりと1位になったのだろう。いずれの10曲も素晴らしい楽曲なので、どれもが「ソング」に輝いてもかまわないのだが、これからはどの曲に何票入ったかなどを明らかにすれば多くの人も納得するだろう。
 
ボニー受賞の瞬間

 
それはさておき、この曲の誕生にはなかなかのストーリーがあった。とてもいいストーリーだったので、それを簡単に紹介しよう。
 
これが発表された日本時間2023年2月6日(月曜)の翌日7日、毎日新聞夕刊の1面を飾った記事があった。
 
心臓移植、命の二人三脚(その2止) 心臓移植受けた女性、子ども食堂開く 今度は私が役に立ちたい
毎日新聞 2023/2/7 東京夕刊 有料記事 2485文字

 
毎月第一火曜の夕刊では僕も「特薦盤」というコラムで毎月1枚のブラック系のアルバムを紹介しているのだが、その夕刊のトップにこの記事がでていて、最初は興味本位で読んだ。だが、読んだら、これが前日のボニー・レイットの「ジャスト・ライク・ザット」の話と完全に符合するではないか。その偶然性に大変驚き、この記事が毎日新聞のウェッブサイトに掲載されていたので、すぐにリツイートした。おそらく、この記事を書くにはけっこうな取材と時間がかかっていたので、グラミーのボニー・レイットの話にあわせてということはまったくなく、完全に偶然だっただろうと思うが、本質的なところを突いた話だったので、感銘した。ひょっとしたら僕がなんでこのツイートをしているのか不思議に思った人もいたかもしれない。たぶん、記事を書いた人は、グラミーなど見ないだろうから、まだ気づいていないだろう。ひょっとしたら、本ブログを見て「はっ」と思うかもしれない。
 
さて、ボニーに話を戻そう。
 
ボニーによれば、この曲を書いたのはこういう経緯だった。
 
2018年頃テレビのニューズでこんなストーリーを放送していた。ある女性のお宅を突然男性が訪ねてきた。誰それを探しているのだが、その方はここにいるか、というので、その人物は私だと答える。ふだんはそんな見知らぬ人を家にはいれないが、その人はなんとなくいれてもいいような気がして招き入れた。面とむかって座って話を聞くと、その男性は、彼女の若くして死んだ息子の心臓を移植された人物だった。
 
その彼が「私の胸に顔をあてて、あなたの息子さんの心臓の鼓動を聴いてください」といい、彼女の頭を胸のところに引き寄せた。
 
彼女の息子の心臓がそこでしっかり鼓動していた。
 
母は、息子が事故死したときに臓器を提供することに躊躇(ちゅうちょ)逡巡(しゅんじゅん)していた。それは息子が自分に万一のときには、自分の臓器を誰かに提供したいと言っていたからだ。息子の死と臓器提供に本当に悩んだ。息子は戻らないことも頭ではわかっていた。
 
一方、その男性は、数年、そのドナー(臓器提供者)の家族を探していた。会って一言お礼が言いたかったのだ。
 
ボニーはそのニューズ・ストーリーを見ていて、あまりに感激して、途中でテレビのスイッチを切ってしまったほどだった。
 
母が悩み続けてきた十数年、そして、ドナーを探し続けてきた青年の十数年。自身の息子を失うこと、その臓器が誰かの新たな命になること、そのことがどういうことかわからずにいた。それがこんな形で、再会することの意味をボニーは考えた。
 
コロナでのこの2―3年の暗雲立ち込める空気の中で、このストーリーは歌にしなければならないと考えた。そして彼女はオリヴィア・ザンドという架空の女性の物語にして書くことにした。
 
そうして出来上がったのがこれだ。
 
Bonnie Raitt - Just Like That (Official Lyric Video)

 
「ジャスト・ライク・ザット」(作詞作曲・ボニー・レイット)
 
彼は私の家の周りをうろうろして、ついにうちの前にやってきた。だがノックをするまでにはずいぶんと時間がかかった
 
「すいません、奥様、ちょっと方向がわからないのですが、オリヴィア・ザンドさんを探しているんです。おそらくここら辺ではないかと言われてたんですが」
 
私は驚いた。彼は何を探しているんだろうと。
 
知りたいことを何かもっているのかもしれない。彼を招き入れた。そんなにすぐ人を信用するなんてことないんだけど。
驚いた。
でも彼の何かが、彼の目が物語っていた。
 
一瞬で(just like that)人生とは変わるもの
私が目を離さなければ、私の息子はまだ生きていた
息子は今日が25歳の誕生日
どんなナイフでもその泥は落とせない
いくら(酒を)飲んでもその後悔は水に流せない
イエスはあなたに「平和と恵、祝福」をもたらすという
でも、私にはまだそれはやってきていない
 
ナナナ~~
 
彼は腰かけ、深呼吸をし、私の顔をしっかりと見据えた
 
「あなたが失った息子さんのことを聞きました。なぜ跡形もなく消えてしまったのですか? 私は何年もかけてあなたを探しました。そして今、ついにあなたに報告することができます。あなたの息子さんの心臓が、私の命を救ってくれたのです。そして、私たちに命を与えてくれたのです」
 
一瞬で人生変わるもの
天使の贈り物を見て
私の頭を彼の胸にそっと置いた
私の息子と再会できた
そう、私は本当に長い間漆黒の暗闇の中にいた
その夜の暗闇に終わりが来るとはとうてい思えなかった
だが、恵、祝福が私の元に訪れたのだ
そう、もはや、私は彼を受け入れなければならなかった
 
ナナナ~~~
 
(大意・訳詞:ザ・ソウル・サーチャー)

Just Like That by Bonnie Raitt 

[Verse 1]
 
I watched him circle 'round the block, finally stopped at mine
Took a while before he knocked like all he had was time
"Excuse me, ma’am, maybe you can help, the directions weren't so clear
I'm looking for Olivia Zand, they said I might find her here"
Well, I looked real hard and asked him, "What she’s got he's looking for?"
Said, "There's somethin' I think she'd wanna know" and I let him in the door
It's not like me to trust so quick, caught me by surprise
But somеthin' about him gave me easе, right there in his eyes
 
[Chorus]
 
And just like that, your life can change if I hadn't looked away
My boy might still be with me now, he’d be twenty-five today
No knife can carve away the stain, no drink can drown regret
They say Jesus brings you peace and grace, well, He ain’t found me yet
 
[Post-Chorus]
Na-na-na, na, na
Na-na-na, na, na
Na, na, na-na-na-na
 
[Verse 2]
 
He sat down and took a deeper breath, then looked right in my face
I heard about the son you lost, how you left without a trace
I've spent years just tryna find you so I could finally let you know
It was your son’s heart that saved me, and a life you gave us both
 
[Chorus]
And just like that, your life can change, look what the angels send
I lay my head upon his chest and I was with my boy again
Well, I've spent so long in darkness, I never thought the night would end
But somehow, grace has found me, and I had to let Him in
 
[Post-Chorus]
Na-na-na, na, na
Na-na-na, na, na
 
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ボニー・レイットがインタヴューでこの曲を書いたときの話をしている。
 
Bonnie Raitt: ‘Just Like That,’ Albums That Shaped Her, and Embracing Uncertainty | Apple Music
2022/04/20 #BonnieRaitt #JustLikeThat #AppleMusic  (約1時間)

(英語の字幕をだせます) 
この曲については、21分10秒くらいから。
 
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ボニーは、このテレビ・ニューズに感激し、この曲を書いた。だが、このインタヴューでもその話をすると、思わず涙ぐむ。そして、「ライヴで実際に歌えるか自信がない」と言う。おそらくそのストーリーを思い出して、泣いてしまうかもしれないからだ。
 
グラミー「ソング・オブ・ジ・イヤー」を獲得した「ジャスト・ライク・ザット」を歌ったボニー・レイットが、膨大なメッセージへの返信としてまとめた文章をホームページに掲載した
 
→ 

 
 
曲ユーチューブのコメント欄に大反響→ 

 

 
(CD)
JUST LIKE THAT…
ボニー・レイット

 
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この「ジャスト・ライク・ザット」の元になったストーリーの主人公と思われる人物と心臓を移植された人物がボストンのテレビ局でさっそくインタヴューを受けていた。
 
この物語の元になった息子、ジョーイの母、シャーリーン・スレイヴァ―・ルーズヴェルトと、心臓を移植されたハミッド・マーダヴィーがインタヴュー。約12分。
 

 
このハーミッドの記事

 

心臓移植を受けたハーミッドさん


 
 
ただ、この放送を見ると、移植から出会いまでは1~2年程度のようだ。そのあたりは、曲を書くうえで、脚色したのかもしれない。また、ボニーの話から、もう少し若い男性を勝手に想像していた。
 
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関連記事
 
Bonnie Raitt Reveals the Emotional Story Behind Her Grammy-Winning Song ‘Just Like That’

https://parade.com/news/bonnie-raitt-reveals-inspiration-grammy-winning-just-like-that-lyrics

 
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臓器移植はまちがいなく、さまざまなソウル・サーチンの物語を生み出す。
 
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