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仏検読解問題の解き方(3)

 前回までで、私が読解問題を解くとき、どんな風に取り組むのかについて手順を書いてみました。これから問題に解答していくわけですが、今回はその手順について見ていきたいと思います。ちょっと長くなりますが、ひとつひとつ細かく解説していきますね。

問題文は同じ過去問サンプル(2008年秋) 2級の大問 4を使います。問題を見てみましょう。

まず、各問が何を問うているかを見てみます。それによって、本文に当てはめる選択の際に注目する点が変わってくるからです。

(1) は被害の度合いです。

① 命を失う
② 恐れ
③ 悪印象

なので、①>③ というグラデーションになっています。

(2) は現行措置のレベル。

① (今よりも)大幅に厳しく 
② (今よりも)どちらかと言えば効果的な
③ (今よりも)ちょっとゆるく

これも厳しさの度合いが①>③です。

(3)は主語を選ばなくてはなりません。

① 各々が 
② 誰も〜ない
③ 誰もが〜なわけではない

これは、②③が否定文になっていることに気を付けなければならない引っ掛け問題です。本文の前後をよく読んで入れなければなりません。

特に、②がpersonne ... ne と全否定しているのに対し、③は一種の部分否定の形であり、他の選択肢と違うので、これが正解臭い...怪しいわ〜と思えてきます。

(4) 今度も主語の選択です。

① de〜を処分したいと考えている人
② par〜から攻撃を受けた人
③ de〜の持ち主

① se débarrasser de ② propriétaires という語彙がわからないと、この問題を解くのは厳しくなり、唯一理解できそうな②にフラフラと寄っていってしまいがちです。だいたいそういう選択はワナなんですよね...

(5) 最後は主語に合う動詞を選びます。

① 近づかない
② 離れすぎない
③ もっと近くに来る

これは一見すると簡単そうに見える問題ですが、主語をきちんと把握していないとつまづく問題です。

このように問いの対象が何なのかを把握せず、いきなり本文にピースを合わせようとすると、文法上も意味上もうまく辻褄が合ってしまう選択肢があったりすると誤って選んでしまうことがあります。級が上がれば上がるほど、このタイプの問題はその傾向が高くなります。

このシリーズの最初から言っている、「文の流れを理解できているか」というところが問われているからなんですね。

 では、実際に本文に合わせて見ていきます。

必ず、(  ) の前後の文を注意深く読みます。直前直後だけではなく、その文のあるパラグラフ全体を対象に考えるのがポイントです。

(1)

 Ce week-end encore, un drame de ce type a fait ( 1 ) à une petite fille de 18 mois. Pour éviter que cela ne se produise de nouveau,

ここで、先ほどマークしておいた状況補語が役立ちます。「Ce week-end encore」と言っており、更にその先に、先ほどチェックはしなかったものの「de nouveau (再び、新たに)」という表現も後押ししてくれているので、「同じことが起きる」ということを言わなければならないとわかります。

では、その「こと」は何か?冒頭に戻ると

En France, depuis 9 ans, 28 personnes sont mortes après avoir été attaquées par des chiens.

「9年で28人が犬に襲われて死んでいる」と言っているのですから、(1)は①のperdre la vie (命を失う) 以外にないわけです。

このように、選択をする際は、その選択を支える「論拠(主張を支える証拠となるもの)」を探さなければなりません。論拠は、本文の内容だけでなく、使われている語彙、文法が手掛かりとなる場合もあります(準1級以上は特に)。

例えばこの問の場合、「un drame」という言葉はふつう重大な衝撃を与えるかなり「大げさ」な言葉です。それが主部に在るのに② peur や③ une mauvaise impressionでは文自体が頭でっかちになってバランスが崩れてしまい、統辞的に美しくない。

なーんてことも、②や③を消去するのに考えたりするわけです。

(2)

le gouvernement souhaite que des mesures ( 2 ) soient prises, pour ne pas laisser des enfants courir des risques.

(  ) の前後だけを見ると接続法が使われていてなんだか難しいのでは...と構えてしまいがちですが、もっと引いてみてみると、(1) から続く文が問になっていますので、もう(1) の流れがわかっているのだから実は悩む要素はほぼありません。ラッキー問題とも言える。答えは① 「もっと厳しい」 が正解。

 もし、 sévères, efficaces, dures という語の意味を知らずモザイクがかかっているとしたらどう挑むかですが、しつこいようですが、ここまでの流れで、

・ここ約10年で人死にが約30人も出ている
・drame, risques, éviter などの言葉が並んでいることから、plutôt とか un peuなどのゆるい言葉が合わない

ことを論拠として、①に賭けるでしょう。

(3)

Aujourd’hui, ( 3 ) le droit d’avoir un chien d’une race considérée comme pouvant être dangereuse.

 これは、この文だけを読んでも正解を導き出せません。これは¶2の冒頭ですから、前を読むのではなく、この文に続く文を読んでみます。パラグラフが変われば述べている内容も変わるため、前文の¶1の最後を読むより、先を読んだほうが手掛かりを掴める可能性が高いからです。

Les jeunes de moins de 18 ans et les personnes qui ont déjà été condamnées par la justice n’ont pas la permission d’en élever

中性代名詞 en がイマイチわからなかったとしても、太字部分で文意はだいたい理解できます。

「18歳以下の若い人」と「有罪の」「人」は「許可を持たない」「育てる」

つまり、18歳以下の若者と有罪の判決を受けたことがある人は(危険だと判断されるような)犬(種)を飼う許可が降りないってことです。

これを元に問題文に戻ってみると、concidérée や pouvant などの分詞がやや難しいように思える文ですが、太字部分さえ理解できていれば

Aujourd’hui, ( 3 ) le droit d’avoir un chien d’une race considérée comme pouvant être dangereuse.

「危険」「種類」「犬を飼う権利」から

「誰もが危険となり得ると考えられる犬種を飼う権利を持てるわけではない」とならないと、次文につながらないとわかります。

なので、予想通りここで当てはまるのは③ tout le monde n'a pas でした。tout le monde は否定文では「みんなが〜なわけではない」と訳されます。これ、地味に初級の否定文で出てくるのですが、わりと抜けやすいんですよね。他に

 beaucoup / bien などは 「それほど〜でない」となります。

(4)

De plus, ( 4 ) ces animaux doivent informer la mairie de leur existence et, quand ils se promènent avec eux dans les lieux publics, ils sont obligés de les tenir en laisse* et de leur mettre une muselière**.

(3)の直後の文です。これは、選択肢に使われている語彙が難しい上に、この文も長くて複雑。難問のように見えますが...

まずは、状況補語De plus があるので、前文「誰でも獰猛犬を飼えるわけやないで」という内容と同じベクトルの文が重なってくるとわかります。

ここも、太字部分を理解できれば、この文の内容はだいたいわかります。なんと、この文には「文末の * 語彙」(補助語彙)が2つも含まれているのです!最初にチェックしておいてよかった〜!

さて、ここで太字の代名詞「ils」に注目します。この問題のように、主語を選ぶ問題では、その直前後の文に代名詞が出てきた場合、同じ人/物を指していると考えることができます。ではils って誰かを読んでみましょう。

1つ目の

ils se promènent avec eux

で、ils が人、eux が犬だとわかります(この文ではその話題についてしか語られていませんから、他の登場人物は考えられない)。では、その犬と散歩するのは誰かと考えると、②の attaqués (攻撃された) 人というのはありえないので、消えます。

① se débarrasser de は処分するという意味の動詞です。 「dé」が語頭に付いている時(接頭語といいます)、たいがい「否定」「分離」「強意」の意味が付きます。「デバら セ」と いう音と「自分の持っている何かいらないものをぶん投げたりぶっ壊して、パンパンと手を払っている」ようなイメージを結びつけると、覚えやすいですよ。 

さて、①か③かを語彙を知らずに選ぶのは正直難しいです。文法的にはどちらも入れるのが可能ですので、se débarrasser と propriétaire のどちらかがわかれば、正解は③とわかるんですが・・・。

「犬を処分したい人は市に届け出なければならない」となる①は、そこだけ見れば辻褄が合っているのですが、その後先程見た文に続くと

ils (=犬を処分したい人)が犬と散歩をする際にはリードと口輪を付けなければならない

というのは流れとして「???」となってしまいます。さっき処分したい言うたやん!

なので、③飼い主が正解。propriétaire という語はよく貸家の「大家」という意味で出てきますが、動物の飼い主のことも言うんですね。

さて、最後(5)です!

Il faut donc être très prudent et ( 5 ) d’un chien dans la rue, surtout s’il n’est surveillé par personne.

ここで気を付けなければならないのは、Il faut ...節の意味上の主語が述べられていないということです。il faut は(5) 部分でも有効になっているので、

il faut (5) d'un chien dans la rue [...]

と考えれば、(5)の主語でもあり、明らかにする必要があります。誰が「とても用心深くあらねばらなない」のか?

ここでも、チェックした状況補語 donc (つまり)があることから、直前の文を受けているとわかるので、見てみましょう。

Mais cela ne suffit pas toujours car les réactions des animaux restent difficiles à prévoir.

car = parce que ですので、ここに cela ne suffit pas toujoursの理由があります。「動物たちの反応は予測するのが難しいままだから」と言っています。何をしてくるかわからない、だからいままで¶2で見てきたような対策措置があっても死人がでてしまっているわけです。

それを踏まえると、il faut (〜しなければならない) 人は限定されておらず、予測不可能な危険動物に攻撃されないように用心深くあらねばならないのは、その動物自身でも動物の飼い主でもなく、次の被害者となるかもしれない私たち「街を歩く人」だとわかります。なので、

③「もっと近くに来る」は超ドM提案としか思えず、いままでの読解の努力を一瞬にして破壊する力があります。
「しにたいのか!」と叫んでしまいそうです。

ということで、またもや2択、①か②か。文体は同じ構造をしていますが、まるで正反対のことを言っています。これもs'approcher とs'éloignerをセットで知らない場合は鉛筆を転がして決めるしかありません... 

が、ここで最後のあがきをしてみます。

フランス語は英語と同じラテン語というルーツを持っているため、「同じような綴りと意味で違う発音」が多いです。そのため、知らない語が出てきた場合、よーく眺めてみてください。聞いたことあるような発音ができないか・・・? さぷろ...ち? あ? あぷろ...?

そうです!アプローチする、と考えてみるとアプローチは対象に何らかの形で「近づく」ことです。とすれば 文脈から ② 「近づかない」 が正解です。危ないやつに絡まれたくなかったら、近づかないのが一番ってことです。

長くなりましたが、以上、私が実際に読解問題を解くときにどんな風な技術を使っているかについて、書いてみました。

仏検シリーズの次回は「聞き取り」「書き取り」の解き方について書こうと思っています。レベルによって解き方も違いますし、もっと言えば、「書き取り(ディクテ)」問題と「聞き取り」問題では、聞き取り方も変えています。

仏検の聞き取り問題はとても優しいのに、点を落としてしまうのはもったいない!ぜひチェックしてみてください!

image : Photo by Letizia Bordoni on Unsplash

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