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ほどける毛糸 ニューシネマパラダイス

1989年、シネスイッチ銀座で「ニュー・シネマ・パラダイス」が公開された。
シネスイッチ銀座では、長蛇の列ができるほどの、過去最高の大人気となった。
単館系映画では時々このようなブームが起こる。
1992年の「覇王別記」もそうだった。
そしてどれも、長く愛される素晴らしい映画である。

私は過去に見た映画のアルバム帳を、頭の中にひっそりと隠している。
好きな映画の一番印象に残ったワンシーンを切り取って、アルバム帳に貼っている。

例えば、「マイライフ・アズ・アドッグ」だったら、おじさんの家の玄関に飾られた野の花の数々。
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」なら、部屋につるされた洗濯物の彩など、他の人びとなら興味ないような些細なシーンが張り付けられている。

「ニュー・シネマ・パラダイス」では、このシーン。
シチリア島を出て、何年も帰ってこなかった息子が、自宅に帰った瞬間。
母親は編んでいた編み物を放り出して、迎えに走る。
その時、編み物がほどけて、ほどけた糸がぐんぐんと伸びていくシーン。

毛糸がほどけていくさまは、息子と離れていた長い時間を表しているのだろう。
そして、毛糸がほどけていくさまは、母と息子の心がほどけていく様を表しているのだろう。

こんなふうに毛糸がほどける様子を印象的なシーンに仕上げた監督の手腕はすごいなと思う。
そしてなにより、フィルム映画へのオマージュであると思う。
フィルムは長くて、巻き戻したり、こんがらかったり、切れたりと、なんだか毛糸に似ていなくもない。

私は編み物が趣味なのだけど、編み物の良さは、ほどいてはまた編み直せるところ。
つまり、失敗しても、何度でも編み直せるところ。

さて、今日は何を編もうかな。
私の場合の編み物は、心を落ち着かせるための作業。
どんな精神安定剤よりも効果のある、作業療法なのである。
だから、編んだものは私の心でもある。

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