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おすもうちゃん、いないね

長女が月に2回、プールに通う高井戸には、相撲部屋があります。
だから時々、駅でお相撲さんに出会うこともあるのです。
お相撲さんは、たいてい浴衣を着て、下駄をはいて、風呂敷包みを下げて、のっし、のっしとゆっくり歩いています。

お相撲さんを見つけると、長女は大喜びです。
「わあ、おすもうちゃんだ。おすもうちゃんだ。」
でっかい、お相撲さんを「おすもうちゃん」と呼ぶのは、テレビで見た、グミの広告のせいでしょうか。
数人のお相撲さんが、グミを使って紙相撲をしている、あのハリボーの広告です。
無心に遊ぶお相撲さんの声はなぜか、子どもの声。
だからなのか、長女はお相撲さんを
「おすもうちゃん」と呼ぶのです。

ある時、おすもうちゃんが、待合室の中で座っていました。
おすもうちゃんは椅子を3個使って座っていました。
真ん中の椅子にお尻、右の椅子に右の太もも、左の椅子に左の太もも。
「すごいねえ、おすもうちゃん。」と長女はものすごおく、感心していました。
こんなに大きい人がいるんだねえ。

私は電車で乗り合わせたラガーマンのことを思い出しました。
私の住んでいる町には、強豪のラグビーチームがふたつあります。
だから、ラガーマンは多いのです。
ある時電車に乗ったら、優先席にラガーマンが座っていました。
ほかの席は満員だったので、私はラガーマンの隣に座りました。
優先席は4人掛けだけど、ラガーマンと私との二人で席はいっぱいいっぱいでした。
なぜなら、ラガーマンは3人分のシートを使って座っていたのです。
真ん中のシートにお尻、右のシートに右太もも、左のシートには左の太もも。
お相撲さんと同じで、座るときは3人分のシートが必要なのですね。
立派な太ももは、成人の一人分の幅があるんだなあと、ほれぼれとしながら感心しました。

しかし、たいてい、電車の中では、スポーツマンは立っています。
だからなのか、ちらちらとラガーマンを見ている乗客もいました。
そして、ラガーマンに押されて、窮屈そうにしている、おばあさんをかわいそうにという顔で見る人もいました。

いや、私は元気ですよ。立っていることもできるけど、席が空いているから座っているだけですよ。
それより、屈強なラガーマンだって、座らずにはいられないときだってあると思うのですよ。
もしかしてだけど、激しい練習で、足を痛めて立っていられないのかもしれないし。
もしかしてだけど、お腹をこわして、練習を早めに終わらせてきたのかもしれないし。
もしかしてだけど、丈夫そうに見えるけど、外からはわからない持病があるのかもしれないし。

ただ眠いだけなのかもしれないけど。

そう思いながら、ラガーマンと私は、乗客の視線を感じながら、電車に揺られていました。

そんなことを思い出していると、
「きょうは、おすもうちゃん、いないねえ。」と長女の大きい声がホームに響いたのでした。

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