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タイムアウト 秋

発達障害の子どもにたいして、タイムアウトという方法があります。
癇癪などをおこして、わあわあ騒ぎ出し、話もできなくなってしまった時など、一人になって静かに過ごす時間を持たせます。
それは、子どもを静かな場所に移動させ、静かに過ごすやり方もあるし、大人の方が、外に出てお互い離れることもあります。

しばらく小康状態で穏やかな日々が続いていましたが、とうとう、我が家の長女は躁状態になってしまいました。
大きな声で、わあわあ騒いだり、癇癪を起したりします。
わあわあ騒ぐのは一日中続くわけでなく、今のところは最大1時間から、2時間でおさまっています。
おさまることはわかっているものの、ではどうやっておさめる方向にもっていくか。
そして、私自身の心を、いやあな気分にならないようにしていくか。
それが問題なのです。

私の取る方法は、すきを見て外へ出るやり方です。
これがなかなか難しい。
わあわあ癇癪を起している長女は、母親の気を引きたいわけで、母親がその場を逃げ出さないように、目を三角にして見張っているからです。

これは手ごわい。
しかし、私より体の大きい長女を他の場所へ移すことは出来ないから、ここは何としても、私が逃げ出すより方法はないのです。
とにかく、一緒にいると長女はますます激高してしまうので、なんとしても私が逃げださなければならないわけです。

その日の、最初の逃げ出しは、何も持たず、靴下も履かずに、いつもの「家の近く一周」です。
秋の気持ちの良い午前7時。
自転車や徒歩で通学や通勤の人が行きかう中、とぼとぼと歩く。
長女と離れていれば、長女からの暴言からも、意味不明の命令からも離れられるわけで、私も普通の人として街に溶け込み、歩くことができます。
そして、私が家を離れている間は、長女も暴言を吐く相手がいないから、静かにしていることができます。

20分ほどして家に戻ると、玄関を開けた瞬間から、長女の怒鳴り声。
それで、まだまだだなと思って、外へ出て草取りをしてみます。
そうやってまた家に入ると、これまた手ごわい怒鳴り声。
まだだめだ。

そこで今度は、私は自分のかばんをもって外へ出て、自転車でワークマンへ行くことにしました。
自転車をこいでいると、なんだか楽しくなってきて、秋の朝のすがすがしい空気を吸いこんでいい気持。

ああ、出てきてよかった。

今日の癇癪の原因は「靴」でした。
たいていの原因は、靴、服、靴下、かばんです。
「きょうなにをはけばいいの。」と聞いてくる長女に、
「昨日と同じクロックスでいいよ。」と答えましたが、
「やだあ、やだああ。なにほかのください。」というので、他の靴を一足ずつ出してあげると、すべてに
「やだあ。やだあ。」と言いいます。
すべての靴を出し終えても
「なにか、ひとつください。」と言うので、もう一度、一足ずつ出して渡していきます。
「やだあ、やだあ。」
この不毛な繰り返しを数回続けていると、私は疲れてきて怒りだしたくなります。

ここで怒ると、自分の気分が悪くなるから逃げ出すのです。
「ワークマンに行って靴を買ってきます。」
と言って家を出ました。
店内は楽しくて、靴を4足選んで買いました。
ワークマンの靴はすごく履き心地が良くて安いのです。

るんるん気分になって家に戻り玄関に入ると、長女が
「くろっくすでいくことにしました。」と言うではありませんか。
いつも、こうなのです。
もとのところへ落ち着くのです。

何という、ばかばかしい茶番劇というか、喜劇というか、コントというか。
あほくさいとわかっていても、ここまで、時間をかけないと、日常が続いて行かないのです。

ワークマンで買ってきた靴は、全部私のものです。
ふ、ふ、ふ。
私は今日から新しい靴です。
転ばないよう、ワークマンの靴です。

神経内科に10時の予約。
ただいま8時半。

さあ出かけましょう。
今日も何とか落ち着くところに落ち着きました。
電車の中でも、しゃべり続ける長女。
しゃべってないとイライラするそうです。

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