サポーターが戦術論議で盛り上がる中で、あえてミシュラン3つ星返上の話をしたい。スタジアムの魅力とコクとは何か?

サッカーのシーズンがやってきた!Jリーグは2月末に開幕。今日はプレナスなでしこリーグの開幕だ。今日は違った切り口でサポーターの価値を考えてみたいと思う。

昨年からサポーターの間では戦術論議が盛んだ。「5レーン」「ハーフスペース」「ポジショナルプレー」…様々な事象が言語化されることで、ネット上でも文字や図表を使って表現しやすくなったことが、この戦術ブームの背景にある。

一方で「戦術なんて難しいから解らない。」「難しいことは抜きにして選手の頑張りを見られれば良い。」「ただ応援すれば良い。」という「戦術なんてクソ食らえだ」という逆のベクトルの意見も目立つ。スタジアムでJリーグを楽しむ仲間を増やすのにはどうしたら良いだろう。サポーター視点で考えてみる。ただ、今日は、ちょっと例えがいつもとは違う。

レストランで一番大事なのは「雰囲気」。

そんな流れで、突然だが、ミシュラン3つ星を世界最年少で獲得した有名シェフが「星返上」をした話題に触れたい。なお、私は3つ星店には行ったことがない。

「料理界の天才」にして怪物、マルコ・ピエール・ホワイトは、26歳でロンドンに最初のレストランをオープンしミシュランの星を獲得。33歳のときに当時最年少で、かつ英国初のミシュラン3つ星を獲得。輝かしいキャリアを持ったシェフだが、38歳のときにミシュランの星を突如返上。調理場を去り、レストラン経営の道へ進んだ。記事のインタビューで、こう語っている。

若かったころ、私はレストランで一番大事なのは料理だと思っていた。だが、今では一番重要なのは「雰囲気」だと知っている。次がサービス、3番目が料理だ。私たちが売っているのは料理ではなく、外食という「体験」なのだということを認めなければ。

「楽しかったです。」と言って店を後にしたお客さまはまた来店してくれる。

私は以前、農林水産省の仕事でソムリエの田崎真也さんと札幌、東京、大阪、福岡を回ったことがある。各地の飲食店や宿泊施設の経営者に向けた田崎真也さんのお話の中で印象深い一節がある。

「美味しかったです。」と言って店を後にしたお客さまは帰ってこないかもしれないが「楽しかったです。」と言って店を後にしたお客さまはまた来店してくれることが多いのです。

どうだろう。読者の皆さんにも心当たりがあるかもしれない。美味しかったあの店に、何度、足を運んだだろう。楽しい時間を過ごしたあの店で、何度、楽しんだだろう。

シェフは監督、食材は選手。

さて、この話をサッカーに例えてみよう。料理の美味しさはサッカーの質に相当する。シェフは監督であり、厳選された食材は選手だろう。レストランはシェフと食材だけで出来ているのではない。ソムリエの説明、ワインと料理のマリアージュ、内装、音楽、皿、地域の空気感、常連客・・・様々な要素の組み合わせで構成されている。

スタジアムでの「体験」はサッカーの質だけではない。

マルコ・ピエール・ホワイトの言う「体験」とは何か?スタジアムで人は、どのような体験をするだろう?信じられないようなファインプレー、巨大な建造物であるスタジアム、ハーフタイムのエンターテイメント、スタジアムグルメ、愛くるしいマスコット・・・そして一つのボールに熱狂する雰囲気・・・。

サポーターが提供できるのは「凄かったね」「面白かったね」「アツかったね」「盛り上がったね」という「体験」。

初めてJリーグのスタジアムに足を踏み込んだ人は、試合が始まる前に、サポーターを見て、まず驚くのだという。大きな声、統制のとれた行動、派手なパフォーマンス。それは、まさに、ここでしかできない「体験」だ。

同じプレーを見ても、ガラガラのスタンドや河川敷のグラウンドで見るのと応援の声が渦巻くスタジアムで見るのとでは印象が全く違う。チケット代の多くを占めるのはスタジアム全体での「ここでしか味わえない雰囲気の対価」だ。

戦術は裏側で感じる味によるコク。

庄内にある自然派イタリアンの旗手・アル・ケッチァーノの奥田政行とお仕事をした際に教えてもらった旨さの理由を思い出した。

食材を口に含んで噛んだとき、1番目ではなく2番目に拡がる香りと味の印象、それに相性の良い食材を合わせると味にも香りにもコクが生れるのです。

戦術は、この2番目に広がる香りと味。目の前の面白いサッカー、楽しいスタジアムの雰囲気を裏で生み出しているコクに相当する。ちなみに、そのコクを生み出すには様々な塩が必要になる。

戦術論議はコクを味わうための塩。入れすぎは禁物。

上の動画をご覧いただきたい。店の佇まい、シェフの考えた庄内イタリアンのストーリー、素晴らしい食材。わずかにパラリと塩を使う。

料理を塩でまとめたら食材は台無し。まずは食材。そして楽しさが優先だ。

レストランと同じく主役は食材。食材である選手を軸に、楽しさを「体験」できる雰囲気づくりが第一。
「凄いゴールだ!!」
「スタジアムは楽しい!!!」
「あの凄いゴールまでに道筋には、こんな考え方と組み立てがあったんだ!」
と後から気付けく程度に気の利いた量の戦術説明がパラリと投下されれば、スタジアムでの「体験」はより楽しくなる。戦術論は、小さじで少々くらいが適量だ。まずは応援しよう。



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日本のサポーター論の入口

サポーターとは誰で何をしている人たちなのか。日本固有の文化とサッカーが融合して生まれたサポーターカルチャーを文章化した。日本のサポーター論の入口を紹介する。
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