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「どのユニフォームを着て行っても良いじゃないか」と考える人は何を得て何を与えるのか。

時と場合に合わせて服装を変えるのは社会生活のマナー。ところが「どのユニフォームを着て行っても良いじゃないか」という主張をするサッカーファンも存在する。2018年のルヴァンカップ決勝戦では試合会場の埼玉スタジアムに浦和レッズのユニフォームで来場した人もいる。

「どのユニフォームを着て行っても良いじゃないか」・・・それは時と場合による。

他クラブのユニフォームを着てスタジアムへ行くことで得られる満足や主張はあるだろう。一方で、他クラブのユニフォームを着てスタジアムへやって来た人の存在により、受け入れ側に何かしらの心理的な負担を与えることが多い。

「どのユニフォームを着て行っても良いじゃないか」と考える人は、自分が得られることと受け入れ側の負担の足し算引き算をした方が良いだろう。

サポーターにとってユニフォームはフォーマルウエアといえる。フォーマルウエアは「記号」でもある。葬儀にはブラックスーツでブラックタイ。ホワイトタイは結婚式。侍が全身白装束で現れたら切腹。それぞれの適切なファッションは場面に合わせて決まっており意味がある。

もし葬式の会場に白ネクタイの人物が現れたらどうなるか。受け入れ側は「まずい人が来た」と警戒する。「記号」のセオリーに反するからだ。「この人には何をされるかわからない」という心理的なストレスがかかる。場合によっては警備役を立たせる必要が生じることもある。それと同じことがスタジアムで起きていことがある。

他クラブのユニフォームを着てスタジアムへ行くことが悪い行為かというとそうではない。

判断は白か黒かだけではない。それは時と場合によるのだ。そして、そこには一定の法則が存在する。ここでは、プロサッカーのエンターテイメントは緊迫感ある勝負を、好きなクラブを応援する姿勢で楽しむという大前提があるものとする。

判断基準は「距離」で考えたい。「距離」には物理的な「距離」と心理的な「距離」がある。

どうしても他クラブのユニフォームを着てスタジアムへ行きたければ、どのように「距離」を考えれば良いのかを整理してみた。

1.ゴール裏との「距離」

熱狂的に応援するゴール裏席に無関係な他クラブのユニフォーム姿で乗り込めばトラブルの原因となりやすい。なぜなら、ゴール裏の応援パフォーマンスの要素の一つにビジュアル形成があるからだ。全く異なるカラーのユニフォームが混在することはゴール裏サポーターにとっては受け入れ難いケースが多い。他クラブのユニフォーム姿で来場するならばゴール裏席から「距離」をおいた席が良いだろう。

2.対戦しているクラブとホームタウンの「距離」

例えばJ1で開催される浦和レッズの試合に、同じさいたま市をホームタウンとする大宮アルディージャのユニフォームで乗り込めばトラブルは必至だ。ガンバ大阪の試合にピンクのウエアで乗り込めば、これもトラブルの火種となりやすい。

3.対戦しているクラブとの立ち位置の「距離」

全く無関係なユニフォームであればトラブルは発生しない。例えば、近所の子どものリーグ戦にJリーグクラブのユニフォームを着て観戦しに行ってトラブルになることはまずない。誰の気分も害さない。近所の子どものクラブがJリーグクラブと利害が対立する「距離」にはないからだ。
JリーグクラブとUEFAチャンピオンズリーグ出場クラブの「距離」も遠い。だからJリーグクラブの試合にブンデスリーガのクラブのユニフォームを着て行って誰かの気分を害することは稀だ。 ただし、そのJリーグクラブが、クラブW杯への出場を睨むクラブとなると、欧州との「距離」はぐーんと近くなる。
浦和レッズのホームゲームにバルセロナのユニフォームを着て行った場合はどうなるだろう。浦和レッズとバルセロナでは「距離」が遠い。しかし、バルセロナ育ちのイニエスタがヴィッセル神戸に移籍し浦和レッズと対戦するとなると、浦和レッズとバルセロナの心理的な「距離」は一気に縮まる。

4.プロクラブのタイトル争いや残留争いからの「距離」

アマチュアクラブ同士の対戦では「どのユニフォームを着て行っても良い」状況が普通だ。生きるか死ぬかで比喩されるような緊迫感あるプロサッカーのエンターテイメントからは「距離」があるからだ。プロクラブのタイトル争いや残留争いからの「距離」がある環境の試合やイベントであれば、呉越同舟の世界であることが多い。

例外もある。1995年に国立競技場で行われた鹿島アントラーズ×セレッソ大阪だ。

FIFAワールドカップ2002年の開催会場を決めるための調査団が日本を訪問した。視察対象試合になるのは国立競技場で開催された鹿島アントラーズ×セレッソ大阪だった。ほとんどの席は前売り券が早々に完売したが、セレッソ大阪ゴール裏のチケットだけは売れ残った。そこれ各チームサポーターがチケットを購入して大集合。それぞれのユニフォームで満員のスタジアムを演出し、合同でワールドカップ招致パフォーマンスを展開した。その熱気あふれるスタジアムの雰囲気を視察団は高く評価した。

他クラブのユニフォームを着てスタジアムへ行くことが出来る人はサッカー上級者といえる。

最初に戻るが、サポーターにとってユニフォームはフォーマルウエアといえる。ファッション一般の考え方としては「フォーマルウエアを着崩すのは難しい」といえる。なぜなら、着崩すためには、ファッションの基本が身についている上で適切な崩し方を心得ていなければならないだからだ。「どのユニフォームを着て行っても良いじゃないか」と考える人は、着崩すことができる上級者か、それとも社会生活のマナー知らずか、いずれかであろう。


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