「FC東京はクールなのか」という疑問から始まる推察・・・奈良クラブの「都市型クール」戦略。これはブランディングのねじれ現象だ。

あなたの好きなクラブは客観的にみてクールだと思えるだろうか?そんな疑問が気になる人・・・作家・中村慎太郎さん。サッカー(フットボールクラブ)のクールとは?芸術としてのサッカーとは?「宇都宮徹壱WMプレゼンツ 河内一馬と考える『芸術としてのサッカー論』アルゼンチンから発信することで得られたもの」の中で河内一馬さんに「FC東京はクールなのか?」を聞いてみたかったと言っていた中村慎太郎さん。しかし残念ながら、イベントは時間切れで、その話題に踏み込むことはなかった。そこで・・・。

「FC東京はクールなのか?」を入り口にJリーグクラブのクールとは何なのか?からサッカークラブのブランドとブランドデザインとは?について考えてみた。

中村慎太郎さんは「赤青だとどうしてもクールなデザイン表現にならないんですよ」と言った。

赤と青だけのデザインは難しい。本来ならば、赤・青と同じくらいの面積で白が加わると美しいバランスを保つことができる。しかし、トリコロールは横浜F・マリノスのカラー。白を多く使いにくいFC東京のブランドデザインは、どうしても垢抜けないものになってしまう。

ユヴェントス、リバプール、パリ・サンジェルマンの取り組みで注目を集めるロゴデザインによるリブランディング。

世界のデザイントレンドにおける「ミニマル化(シンプル化)」の流れを汲んだデザインが世界中に衝撃を与えた。またユニフォーム等で全体のデザインを洗練するために、エンブレムをモノクロ(白抜き)化して存在感を弱めることも2018年の流行だ。パリ・サンジェルマンによるコラボグッズはスタジアムで熱狂的に応援するサポーターだけがクラブビジネスのターゲットではないことを明確に示している。

ただ、ブランドデザインはブランディングの一部でしかなく、ブランドとは「約束」から生まれる。

ブランドをつくるとは、カッコいい商品名を考えることでも、エンブレムの高級感を高めることでもない。商品やサービスを通じてお客さまにどんな満足を提供するのかを明確にし、その満足を与えつづけることを「約束」する。そして「約束」を守りつづけることで、お客さまの信頼と安心を獲得する。その積み重ねの結果として生まれるのが「ブランド」なのだ。それを示したのが、このブランドピラミッドだ。

目に見えない部分も含めて「約束」全体を顧客に伝えるためのメッセージを表現することがブランドデザイン。

だから浦和レッズのエンブレムには「埼玉県師範学校」がデザインされている。アーセナルのでエンブレムには「大砲」がデザインされているのだ。FC東京のエンブレムの炎は公式には説明されていないが、おそらくエネルギー企業である東京ガスを示す意味も含まれているだろう。

ユヴェントス、リバプール、パリ・サンジェルマンの「クール」は洗練された「都市型クール」。

サッカークラブにおけるクールとな何だろう?先端的な取り組みをしている3クラブのうちユヴェントス、リバプールは国内でもホームタウン以外からも羨望の目で見られたり、ホームタウン以外の地域にもファンが存在する特異なクラブだ。パリ・サンジェルマンはホームタウンが花の都パリであり世界から観光客が集まる土壌がある。またパリはアートでも世界をリードしてきた大都市だ。近年は大型補強で世界中から注目を集めている。こうした都市型クラブは広域からファンを集めたりグッズをワールドワイドで販売展開できる「憧れの対象を目指す」クラブには洗練された「クール」が求められてきた。だからブランドデザインもクールな表現が求められてきている。
これを「都市型クール」とする。

「クール」は画一的ではない。郊外や地方都市のクラブには、全く別の「郊外型クール」が存在する。

日本は人口減少、経済衰退が進み、各地の地方社会が崩壊に向かっている。地方創成が叫ばれ、地域に「ヒト、モノ、カネ」を呼び込むための施策が投下されている。Jリーグクラブの育成やスタジアム建設も、その重要な施策の一つとして地方都市では捕らえられている。首都圏郊外も例外ではなく、東京通勤圏といわれた自治体でも、将来は消滅の危機に瀕しているとされている自治体が多数ある。

そうした地域のクラブも洗練された「クール」を発信できた方が良い。だが、先に示したブランドピラミッドの中で見えない部分に相当する理念の考え方が都市型クラブとは異なってくる。いわゆる「地方を元気にする」「ヒト、モノ、カネ」を呼び込むといったことが、クラブの理念の中で高い比重となるのだ。

「郊外型クール」では多くの人(地域住民)が集まることが重要になる。「人が集まる=クール」なのだ。

都市型クラブを応援するサポーターには、例えば松本山雅の発信するメッセージやブランドデザインを揶揄する人が多い。それはエンターテイメントとして対立関係を盛り上げる文脈においては、ある意味正解の行為だ。しかし「クール」の本質で捉えると意味が異なる。「洗練」よりも「郷土愛」「郷土自慢」「地元の仲間が集まる場でありコトである」。人が集まることが、人口減少、経済衰退に悩む地域の「郊外型クール」なのだ。

そう考えると、政令指定都市であり憧れの住みたい街・武蔵小杉を本拠とする川崎フロンターレが、実は「都市型クール」ではなく「郊外型クール」を一貫して目指していることがわかる。

地方都市でありJFLを闘いの舞台としている奈良クラブは「ミニマル化(シンプル化)」の流れを汲んだデザインを発表。「都市型クール」に挑んできた。

奈良市は人口約36万人。かつては都であったとはいえ、観光産業に支えられた地方都市だ。大阪市のベッドタウンとして発展してきたが、近年は人口の都市部への集中があり、奈良県全体としても「大阪からの『脱ベッドタウン』」を目指している。奈良クラブはJリーグを目指す道半ばのJFLを闘いの舞台としている。その奈良クラブがユヴェントス級のロゴデザインを発表して、多くのサッカーファンが驚いた。

奈良クラブのブランドデザイン戦略が垣間見える林舞輝GM(23歳)の「2番目に好きなクラブを目指す」というスローガン。

この言葉を林舞輝GMが発したのは12月9日に行われた「新体制&ビジョン発表会」でのことだ。なぜ「都市型クール」を表現したロゴデザインとなったのか。「新体制&ビジョン発表会」は奈良市ではなく東京で開催されている。つまり全国にニュースを発信したいという奈良クラブの意図が現れている。そして、「2番目に好きなクラブを目指す」というスローガン。奈良クラブを「2番目に好きなクラブ」にしてほしい対象者は誰か?それは東京都民をはじめとする、情報感度の高い都市部在住のサッカーファンであろう。都市部在住のサッカーファンの「2番目に好きなクラブ」のポジションを奈良クラブは目指す。奈良クラブは郊外のクラブでありながら、広域からファンを集めたりグッズをワールドワイドで販売展開できる「憧れの対象を目指す」という戦略を立案し、戦略に基づいたブランドデザインを行ったと推察できる。これは、大いなる挑戦だ。注目していきたい。

FC東京は首都にありながら「郊外型クール」で闘ってきた。奈良クラブとは真逆の存在といえるねじれ現象。

FC東京は噂の原宿移転となれば、大胆なブランドデザイン変更を行うのではないか。現在のブランデザインは「都市型クール」ではなく「郊外型クール」が必要な、調布市を中心とした三多摩地区で活動する前提の理念を表現しているのだろう。


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