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『サルビアの花』と秋元康


【私の音楽履歴書】 # 35   特別編  サルビアの花

4月10日発売の乃木坂46 35thシングルの『チャンスは平等』に『サルビアの花を覚えているかい?』というカップリング曲がある。
遅ればせながら、昨日サブスクで拝聴した。

五期生である五百城茉央と奥田いろはのデュエット曲だが、聴いてみると懐かしいフォーク調でなんとなくかつての花*花やKiroroを思い起こす。

秋元康作詞の一節にあるのは

あの時代がよかったって後出しのジャンケンだ

『サルビアの花を覚えているかい?』 乃木坂46   
 

そして、私が推している同じく坂道グループの櫻坂46の最新シングル『何歳の頃に戻りたいのか?』にも同様の詞が書かれている。

本当に あの頃 そんな楽しかったか?
きっと 特別 楽しくはなかっただろう

『何歳の頃に戻りたいのか?』 櫻坂46

秋元康の直近作品の傾向として多いのは、この「過去を振り返る時の想い」である。インタビューなどでも度々口にするこのキーワードは彼自身の人生観であり、長年のテーマでもあるんだろう。
昔のことを懐古する段階に彼も入って来たのか…とさえ、ふと思ったりもした。

そんなことを考えながらも、私がそのタイトルを初めて見た時、真っ先に思い浮かべたのが、今回紹介する『サルビアの花』という半世紀も前の古い歌だ。
秋元康がまだ若かりし頃の作品だが、彼も当然にしてこの曲を知っての作詞だろう。
元カノ?の結婚を知っての、何とも言えない男ごころ〜を題材にしているのは、この曲をオマージュして詞を書いたから…と半ば決めつけてしまいたいほどのものだ。
既に、両曲の共通性を指摘している声もネットではいくつか上がっている。さもありなん…だ。


『サルビアの花』は、ジャックスの早川義夫がグループ解散後、ソロとして1969年に発表したアルバム『かっこいいことはなんてカッコ悪いんだろう』に収められている一曲だが、後に多くの人にカヴァーされている。
調べてみたら〜
本田路津子、鳳蘭、山本リンダ、天地真理、小坂明子、あがた森魚、甲斐よしひろ、あみん、井上陽水、八神純子などの錚々たる面々がカヴァーしている。

さて、ここで注目したいのは、この楽曲の作詞者は男性である早川自身ではなく相沢靖子(相澤靖子)という女性であるという点だ。
過去にこだわる未練タラタラの情けない男の姿のテーマは、古今東西いつの世にもありふれたものだが、現代に照らし合わせればストーカーとも言われかねないものでもある。この強烈な詞を男性ではなく女性が書いているというところがなんとも唸らされるものがある。
もちろん男性アーティストが「女ごころ」を歌うケースも数多あるが、この歌詞はまた独特のものがある。
ジェンダーレスが叫ばれるこの時代に、男だ女だとの価値観を画一的に押しつけるつもりは毛頭ないが、やはり互いの「性差」を尊重してこその多様性であろう。
その上での、こと恋愛に関する切り口の違いは音楽の詞の世界では重要視されて然るべきとは思う。

男には女はわからない 時がいくつ流れても…
女には男はわからない 涙いくつ流しても…

『Bye Bye』 風


私は後年になって、いや近年と言ってもいいが、この曲を知ったのはそんな昔のことでもない。
しかし、この何ともノスタルジックなメロディーとその特徴的な詞の世界観は、妙に心に残ると言うか引っかかる作品ではあった。

上記のように、多くのミュージシャン•アーティストにカヴァーされてきた中で、ここでは最も有名な「もとまろ」のもの、次に岩崎宏美、そして早川本人と〜三組の歌唱を紹介しておこう。

◆ もとまろ

かつてヤマハがスポンサーだった音楽番組「コッキーポップ」で有名になったもの。
青山学院高等部出身の女性三人組グループは、この後プロとしての音楽活動は一切行わずに、このシングルのみを残している。


◆ 岩崎宏美

私が女性ボーカリストとして、最も評価している歌手の一人〜岩崎宏美のライブバージョンである。
1978年10月15日に、芝の郵便貯金ホール(後のメルパルクホール東京)で行われたライブの模様を収めたアルバムのうちの一曲だ。そのメルパルクホール東京も、今やその役割を終えて再開発を待つ状況らしい。こんなところにも時の流れを痛感する。
さて、ここで注目したいのは、この楽曲には特別に上田知華+KARYOBINが参加しているということだ。
岩崎のボーカルに合わせての上田知華のハーモニーとピアノ、そこに加わるKARYOBINのヴァイオリン✕2•チェロ•ヴィオラの弦楽四重奏による演奏でのバージョンだ。
私にとって上田知華は亡くなった今でも、とても好きなアーティストであるし、岩崎とは年齢も一つ違いの二人のコラボはとても感慨深いものがある。

◆ 早川義夫

最後は早川義夫のオリジナルバージョン。
一旦音楽シーンから遠ざかっていた早川は、後に緩やかに音楽活動を再開し、この楽曲を歌う機会も何度かあったようだ。
これ以外でもYouTubeでは永井龍雲と共演した映像も上がっていたりと、Spotifyも含めて多くのミュージシャンのカヴァーバージョンがあるので興味のある方は是非ご覧に(お聴きに)なって欲しい。


今回、元ネタがハッキリ特定出来るほどの作品を書いたことについて思うのは、秋元康は確信的であろうということだ。
そんな彼の、好意的に言えば「遊びごころ」から、かつての楽曲を思い出す機会となったところで、この『サルビアの花』を取り上げてみた。

同じく秋元康作詞の作品に、上に上げている櫻坂46『何歳の頃に戻りたいのか?』のカップリング曲として『何度 LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう』がある。
私が櫻坂を推しているがゆえの強引さは否めないが、その歌詞もこのテーマに通底したコンセプトと言えるかも知れない。

何度  LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう
思い当たるフレーズに切なくなった
きっと人は誰も同じなんだな
こんな歌詞を書いた誰かの経験だ
自分のこの想いをわかって欲しいと
好きになった夜 眠れなくなる                 

『何度 LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう』
櫻坂46



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