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VS Part 2

いかん。
あれから見逃し配信を1日に何回か観るという毎日になってしまっている。
観る度に、「すげぇええ」と笑いながら感嘆している。

6月7日に行われた、井上尚弥vsノニト・ドネアの3団体世界統一戦。

この試合については以下、”細川バレンタインさんの前向き教室”というyoutubeチャンネルのこの動画が最も適格に表現していると思う。
(ただこの動画、途中から細川氏ではない別のモノが主役になるが)

上の動画で細川氏も指摘されているが、この試合、決定的だったのはやはり1Rラスト10秒頃のドネアのダウンだろう。

井上の右ストレートがカウンターでドネアのテンプル辺りにヒットした。

右目尻の傷を治療しなければならない、という事で試合後の会見をキャンセルしたドネアは、ホテルに戻った後、自身の動画チャンネルで試合について語り、またファンからの質問にも答えている。

目が腫れ上がっている印象を薄める為か、サングラスをかけて話すドネアからは、リング上と同じく紳士的な雰囲気が漂っている。

2R、レフェリーが試合を止めた後、自分のコーナーに戻ったドネアは、観客に向けて勝利のパフォーマンスを終え自分の所にやってきた井上を抱きしめて、「ありがとう、コングラチュレーション、ありがとうございます」と言っていた。

また、リングを去る前、リング中央ではなく、自分のコーナーで手を上げた後深々とお辞儀をする動作を四方に配るドネアへの、満員の観客の拍手と歓声は、大勢の体温とその温かさがドネアを包みこんでいくような感じが、画面を通して伝わってきた。

2年前、WBSSの決勝で井上選手と初めて対戦した時、その朝、2人の息子に「優勝トロフィーを見せてあげるよ」と約束して試合に臨んだドネア。
結果は判定負け。

リングを離れてもリスペクトし合っているドネアと井上選手だが、迷いながらドネアは井上選手に「一晩だけトロフィーを貸してくれないか?」と頼んだという。

「私の為でなく、トロフィーを見せてあげるという私の約束の為に」

間髪を入れずに返事をした井上選手の言葉は、「Go ahead!」だったと、海外ボクシング番組のインタビューでドネアは語っていた。

翌日、”NAOYA INOUE”と記銘されたトロフィーを前に、たどたどしく「サンキュー、Mr.イノウエ、コングラチュレーション!」と言う幼い2人の息子の動画があがった。

集まった賞賛の中にこんな声があった。

「試合前、試合、試合後、全てが美しい」

2年前のこの試合、2Rにドネアが放った左フックで井上選手は右目を切った。ボクサー人生で初めての流血戦といっていい戦いになった。
それどころか、試合後の診断で右眼窩底骨折が判明した。

2R以降、「ドネアが二重に見えた」という中、井上選手は戦い続け、9Rにはドネアの右ストレートでダウン寸前にまで追い詰められるも、11Rに得意の左フックをボディに叩き込み、逆にドネアからダウンを奪う。

結果は先述したように、井上選手の判定勝ち。

この試合、2R以降、ドネアは井上選手の右目をほとんど攻撃していない。

ある雑誌のインタビューでは、「井上選手の右目の異常に気づかなかった」と言っている。気づかなかったのが骨折した事を指しているなら、井上陣営も気づいたのは試合後である。

この記事を読んだ時、(何だそれ?)と思ってしまった。
あれだけ流血していたのだ。
敵のウィークポイントを攻めるのはセオリーである。

もし、意図的に右目への攻撃を選択肢から外していたのなら、私はそれを美しいとは思わない。
拳を交えている間”だけ”は、紳士的である必要は全く無いと思うからだ。

別の記事のインタビューでは、右目を攻めなかった事を記者に指摘されてこう答えている。

「正々堂々と戦いたかった」

正々堂々と右目を攻めればよいだけではないのか?
ボクシングをしているのだから。

今はこう解釈している。
ドネアは完勝したかったのだ、と。
正々堂々、完勝で優勝トロフィーを手にしたかったのだ、と。
2人の息子達の為に。

完勝を目指すという姿勢を、私は美しいと思う。

”NAOYA INOUE”と記銘されたトロフィーを前に、父が負けた事を知り、泣きじゃくる2人の息子にドネアは伝えたかったそうだ。

「ベストを尽くしても人生にはままならない事もある。でも男が一度口にした約束はどんな事があっても守らなければならない。
それを息子達に伝えたかった」

そう語ったドネアは幼い頃、気弱で病弱だった事から酷いいじめを受け続ける毎日だったという。
身を守る為にボクシングをやっていた兄の影響から、ボクシングを始めたそうだ。
そして幼い頃からの、大の親日家でもある。

子供の頃から日本の文化や歴史、礼儀などに興味があったと語っており、プライベートでもたびたび来日するなど親日家として知られている。
侍に対する敬意は深く、子供の頃にアニメ映画の獣兵衛忍風帖を見たのをはじめとして、七人の侍宮本武蔵関連の映画を多く見ている。
また、一番好きな俳優として三船敏郎を挙げている。

wikipediaより

2年前、判定で負けた直後からドネアは井上との再戦を強く望んだ。
そして今のままでは実現が難しいと判断するや、「なら井上の持っていないベルトを獲れば、統一戦として再戦できる」と考えた。

井上選手は、全部で4団体あるボクシングの世界機構のうち、2つの団体におけるバンタム級の世界チャンピオンだった。

残る2団体のうちの一つ、WBCのベルトは持っていなかった。
なら、WBCのベルトを獲れば良い、とドネアは思ったそうだ。

念のために言っておくと、”獲れば良い”とドネアがまるで仮面ライダーの変身ベルトをおもちゃ屋で買ってくるような感じで言っているWBCのベルトというのは、”ボクシングの世界チャンピオンのベルト”の事である。

そしてドネアは、コロナで何度も試合がキャンセルとなった一昨年を乗り越え、去年、4RKO勝ちでWBC世界バンタム級チャンピオンとなり、同じく去年にこれも4RKO勝ちで初防衛を果たしている。

39歳という年齢からは考えにくい事だが、その動きは明らかに全盛期を超える進化を見せていた。

そして、先日の6月7日を迎えたのである。

(Part3に続く、次のPart3で終わる・・・ハズです)

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