資料本と猫

資料マウンテン

小説を書くのに一番大切なのは妄想力だと思うのですが、妄想力だけではどうにもならない場合も多々あります。というか、妄想力だけでなんとかなる場合のほうが少ない……。

妄想力、実体験から得た知識、そして資料。この三本柱で物語は成り立つわけで、私の場合、資料をなにも読まないことはほとんどありません。結果として、具体的に使った資料はなかったね……というケースはままありますが、とりあえず読みます。読まないと、それが必要かどうかすらわからないので。ただ、出版社を舞台にしたBL作品があるのですが(『普通のひと』大洋図書)、これは資料は必要ありませんでした。なぜなら自分がかつて出版社にいたから……。もっとも私は事務方だったので、営業担当の男性に「ごはん奢るから話を聞かせて~」と取材はさせてもらいました。あっ、念のため書いておきますが、作中のキャラのモデルではありません(笑)キャラはひたすら妄想で創り出すのです。

では、一番資料が必要だった作品はなにか。

はい、そうです。『カブキブ!』シリーズです。1~3巻、角川文庫から絶賛発売中。自分で絶賛って言ってみた。これはねえ、もう、歌舞伎ですから、資料めちゃくちゃ必要なわけです。上にある写真はそのごく一部。筋書(公演パンフレット)は別にして、書籍で50冊くらい……かな……? そしてDVDがこれまたたくさんある……。ちなみに私、べつに歌舞伎に詳しいわけではありません。観るようになったのはここ7~8年のことなので、観客としてもまだまだの域です。読めない外題も(げだい。演目のタイトルのこと)たくさんあります。白浪五人男の外題(青砥稿花紅彩画)を覚えたのだって、わりと最近。これ「あおとぞうしはなのにしきえ」と読むのですが、今、ATOKが一発で変換してちょっと感動しました……。

そんなわけで、難しいことはよくわからないまま歌舞伎が好きになり、ならば難しいことはよくわからないまま若者が歌舞伎をやる小説があってもいいんじゃないか……と思って書き始めたのが『カブキブ!』です。高校生が部活で歌舞伎に挑戦するというお話。歌舞伎を一度も観たことのない方こそ、ぜひ読んでいただきたいと思っております。ときどき感想で「歌舞伎を観てみたくなりました!」というお言葉をいただきますが、本当に嬉しいです。絶賛発売ちゅ……もう言いましたね。

かくして私は資料マウンテンを築き上げ、大変な苦労をして読み込み……というわけでもない(笑)。だって歌舞伎大好きなんですから、資料読むのがつらいわけないのです。むしろ小説を書くより、ずっと資料を読んでいたい……。でもそれでは本がいつまでたっても出ないので、ほどほどのところで資料読みをやめて原稿に入らなければならない。ああ、残念。歌舞伎の場合は、資料だけではわからないこともたくさんありますので、国立劇場の渡邊様にご助力いただき、監修をしていただいております。毎回丁寧に見ていただき、本当にありがたいことです。

振り返ってみれば、自分の好きなもの、興味のあるものしかテーマやモチーフにしていないので、資料を読むこといつも楽しい。なんて幸せなことなのでしょう。デビュー作の『夏の塩』で主人公・魚住が免疫学講座に所属するのも、私の趣味でした。利根川博士が大好きだったもので……。そうなってくると、もはや資料読みは仕事なのか、趣味なのか……。

もっとも、たまには「ぐぬぬ、どうしてもここでキャラに経済問題を語らせなければならぬ……」という場合も、たまにはあります。これは例ですが、私は経済はとてもとても苦手なので、きっと苦しみながら資料にあたるわけです。仕事なんだから、がまんしなきゃいかん時もあります。……まあ、あんまりないんですけどね……「経済はやめよう。粘菌研究家にしよう」みたいな回避策を採ることもしばしばだし。

そんなわけで、資料大好きです。できるなら、『歌舞伎大辞典』を捲りながら、一日中ニマニマしていたい。『性現象事典』を読みながら、一日中ニヤニヤしていたい。ちなみに『性現象事典』は編集さんからいただいた本です。いろんな事典があるものだ……。これからも、ワクワクできる資料本に出会えますように。