スクリーンショット_2019-06-18_18

雑誌「ViVi」×自民党キャンペーンについて。編集者として(後乗り)

雑誌『ViVi』と自民党のタイアップキャンペーンについて、今さらだけど、私も編集者として感じたモヤモヤを、noteに書こうと思う。というのも、我々のプロジェクトに参画し、「編集のがっこう・第2期」の講師としてやってきてくれた軍地さゆみさんにお叱り(笑)を受けたからだ。

「お叱り」と言っても、お互いに旧知の仲。軍地さんが『VOGUEgirl』(コンデナスト社)の編集長だったとき、私は競合誌『ELLEgirl』(ハースト婦人画報社)の編集長だった。競合誌と聞くと世間一般的には仲が悪そうに思うかもしれないが、若い女性たちのファッションや未来について共に語り合ったこともある関係性だから、今回の「お叱り」は、「編集者としてどう思っているのか、どうあるべきなのか、意見を表明してほしい」という叱咤激励

さて、今回の「ViVi girl」たちによる「社会は自分たちがつくるのだから、自分の意見を自信をもって発言してみてもいんじゃない?」ということで、各モデルが目指す社会のスローガンが入ったTシャツを着用(右肩には自民党ロゴ入り)。自分の意見を #自民党2019 #メッセージTシャツプレゼントのハッシュタグをつけてtwitter 、もしくはinstagramに投稿すると抽選でTシャツがプレゼントされるというキャンペーン。

自民党とViViとのタイアップであることは、誰が見ても明白。

雑誌が政治について語ることは、私自身、大賛成。その証拠に私が編集長時代の『ELLEgirl』では、政治オタクの春香クリスティーンさんに登場してもらい、「政治家に若者の意見や疑問をぶつけに行く」という企画で、毎号政治について1ページではあるが連載を設けていた。なぜ若い世代こそが選挙に行ったほうがいいのか、どんな将来を描かなければいけないのかを、身近なファッション誌を通じて伝えたかったから。

今回のような「自分たちがどういう社会をつくるべきか」という問いが、若いモデルやインスタグラマーの間から自然発生的に巻き起こった企画なら、どんなに素晴らしかったか! それを『ViVi』という若い女性たちに好んで読まれている雑誌がサポートし、一つのムーブメントになっていたとしたら、どれほどの素晴らしい企画になっていたことか!

しかし、今回の問題は、(公職選挙法に違反する云々という)タイアップであることだけでなく、出版社として、編集者として、日本の一つの政党の依頼を受けたことに問題があるのではないか?

ペンは剣よりも強しーー周知の通り、言論が人の心に訴える力は武力よりも強く、永続性があり広範囲に及ぶという意味だ(三省堂・大辞林)。だから、私たち編集者は、自分たちが書いたもの、企画したものが、人々の心に入り込み大きな影響を及ぼす危険性と隣り合わせで仕事をしている自覚を持たなければならない。それを束ねる出版社ならなおさら。「若者の未来や社会のあり方」という大義名分の旗を振りかざし、その裏で一つの政党を支持させるような取り組み。これこそが、私の中の今回のモヤモヤだ。

しかも、今は「感情の時代」

バブル崩壊後の不景気の中で生まれ、東日本大震災による人間の無力さを体感し、ある種の「あきらめ」を抱えて生きている若い世代の人たちは、精神的な充足や、好きか嫌いか、楽しいか楽しくないかという「感情」が判断の基準として優先しがち(『新・ゆとり論』すみたたかひろ著)。その中で、感情を共有し、ゆる〜くつながる時代に、大義名分に隠された「自民党支持」が自然に入り込んでいく恐さも同時に感じる。

私は決してアンチ自民党でも、熱烈な自民党支持者というわけでもない。

今回の一件について、編集者として、どういう姿勢で、なにを伝えて行かなければならないか、面白い発想や企画なら何をやってもいいではなく、しっかりとしたボーダーラインを引いた上で、世間の人たちを楽しませる企画を着想しなくてはならない。

読んでくださってありがとうございます。サポートしていただいたお金は、「編集のがっこう」の運営費に使わせていただきます。