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編集者の勉強法

このツイートを見て「編集者でも毎日2時間勉強してる人は少なそう」と思ったので、若手編集者への勉強のすすめとして、以前書いた社内用の資料を改変して公開してみる。(注:ビジネス・経済系の編集者の話です)

◇           ◇

たまに他の編集者から勉強法や情報収集について聞かれるが、情報源などのWhatを気にする人が多い。でも自分が重要だと考えるのはWhyとHow Longだ。

Why:何のために情報に接するのか?
How Long:どれくらいの時間を勉強や情報収集に費やすか?

長期で見ると、これが編集者のパフォーマンスを大きく左右すると思う。

編集者は何のために勉強すべき?

編集者がネットを見たり本を読んだりするときにしているのは、著者探しとネタ探しであることが多い。自分の場合も、磯崎哲也さん、ちきりんさん、藤沢数希さん、西内啓さん……みんなネットで見つけて会いに行った人たちだ(そういえば本は少ない)。

でもあまり意識されていなくて、もっと重要な目的が、自分自身の教育・学習になる。

そもそもの話をすると、自分の現時点での結論では、書籍編集者のパフォーマンスを決める主な要因は次の3つで、この順番で重要だと思う。

①アスピレーション(志、憧れ)
②マーケットの理解度
③コンセプトをつくる力

長期的には、この3点で売上や社会へのインパクトの上限が決まるはずだ。

もちろん、情報の編集力や文章力、コミュニケーション力なども編集者には必要だけれど、これらは①〜③で決められたインパクトの上限を実現するためのスキルなのではないかな、と思っている。

①〜③の具体的な説明も念のため。

①アスピレーション(志、憧れ)

たとえば、
「どんな本を作りたいか/どんな本は出さないのか」
「どんな編集者になりたいか」
「出版社の存在意義はなにか」……など。

自分の場合は、
「世の中を良くする本をつくる/良くしない本はつくらない」
「日本一のビジネス書の編集者になる」
「編集者・出版社の存在意義は、知識の提供による社会問題の解決」

こうした方向性が設定されていないと、漫然とネットを見て本を読むだけになってしまう(アウトプットに繋がりにくい)。

どんなアスピレーションを持つかは、もちろん人それぞれでよいかと。
というか、一人ひとり自分の中から出たものでないとアスピレーションにならない。

②マーケットの理解

抽象的には、社会で評価される「価値」の本質・大きさ・創造のポイントを理解する。本に関しては下記ができれば概ねOKでは。

・すでに発見されているテーマ、ニーズ、読者についての市場規模の把握。
 たとえば、本の各ジャンルの平均的な部数と過去の最大部数/全国の税理士の人数/かつてSE本が流行ったこと……など

・新たな読者層の発見と、その読者が次に求めるもの/本当に求めるものの洞察。その際には、定性的・直感的な洞察と、定量的・論理的な分析を行き来する。

あと、ちきりんさんの『マーケット感覚を身につけよう』は本気で読んでほしい。半分くらい自分のためにつくった本なので(笑)。

③コンセプトをつくる力

本はタイトル&サブタイトル≒コンセプトで知覚・記憶され、伝播する。
成功した本の多くは良いコンセプトを持つ。例は挙げるまでもなく無数ある。

「コンセプトを作るってどういうこと?」は『左ききのエレン』52話で見事に描かれているので、未読の人はぜひ。

以上の①〜③は、日々の勉強や情報収集のなかで、自分自身でしか磨けない。

①目指す編集者はどんな知識を持っているべき? という逆算からさまざまな情報に触れる。自分の場合は「法律、会計、税金、金融、IT、マーケティング、統計、広告、物流、経営……どんな分野の専門家とも本質的な話ができる編集者になる」と決めたときから、そうした情報がきちんと引っかかるようになった(苦にもならなくなった)。

②情報に触れるたびに、価値の発見と洞察を繰り返す。

③良質なコンセプト(本以外も)に多数触れて、自分ならどう作るかを考える。

……これらの回数をいかに増やせるか、ということで次のポイント。

編集者はどれくらいの時間を勉強に費やすべきか?

理想は、業務時間の5割以上。普段の生活、読書、ネットサーフィンを含め、起床時間の7割を情報収集に充てるイメージ。

本の商品としての成功は、著者の設定と上記①〜③の初期段階でほぼ決まるので、その精度の向上にどれだけ多くの時間を割けるかが勝負を分ける(ゲラになってから頑張るという逆の時間配分になっている人、多いんじゃないでしょうか!)。

情報収集の時間を多くしておくことのメリットは他にもあって、情報収集の時間=削りやすい時間、なので良い著者がいたらすぐに動くこともできる。PR案件や事故対応など、イレギュラーな仕事にも対応しやすい。

その他

以下、五月雨で補足を。

本はもちろん、ネットを見よう。今の時代の有力な書き手は、基本的にネット上に、その存在もしくは才能の片鱗を見せている。また、1冊の本のライバルはネットの総体なので、ネットの基準を知っておく。
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大切なのは売れている本や著者を追っかけることではなく、その読者像と、読者がその本に求めた「価値」を知ること。テーマはパクらず、読者をパクろう。
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パブラインや日販WINはあまり見ない(ただ、若手の人はマーケットを知るために積極的に見るべきかもしれない)。
何が、どんな「価値」を提供して売れているかわかればよいから、週一とかの頻度でざっと見ればいい、という考え。「価値」がわからない本を特にチェック。難しい専門書は目次だけでも見てみる(構成の勉強にもなる)。本音のAmazonレビューも参考になる。
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普段の読書は、売れてる本よりも「名著として市場に残りそうなもの」を。それが世に提供した「新たな価値」を考える。もちろん読みたいと思った本は素直に読む(自分の欲望は極力殺さない)。
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アスピレーションが明確にならないうちは、短期間(1年とか)の目標でもよいかも。たとえば「イラストと文章を両方書ける人と仕事をする」とか。
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作業の時間を短くし、情報収集に時間を割けるよう、文章力、編集力、コミュニケーション力を高めることも当然必要。その一番の訓練は、良書を読むこと、人に会うこと。
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トラップは、情報収集のしすぎでその他の業務に支障が出がちなこと。そのコントロールはたぶん編集者の永遠の課題。

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