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似たカバーの本が多くなる2つの理由

ちきりんさんの、本のデザインに関するエントリを読んだ。

本の表紙デザインの微妙な変化http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20170722?platform=hootsuite

似たデザインの本が増える理由は自分も考えたことがあるので、ここでまとめてみる。

1つ目の理由はいたってシンプルで、編集者が「売れた本の真似」をするからだ。

同じ編集者として気持ちはわからなくもないが、「元本ほどでなくても、そこそこのヒットになってほしい」というような志の低い打算で、ヒット作の二番煎じのデザインになる。

この場合は、そもそもカバー以前に本のテーマやコンセプトを真似していることが多いので、かなり残念な話だ。

ただ、真似本は書店員さんの扱いも軽くなるという事実は、ぜひ著者や若手の編集者に知っておいてほしい。

書店員さんは毎日誰よりも本を見ているから、元本と真似本の関係はすぐに分かる。となると元本のほうを売りたくなるのが自然だし、棚のスペースが足りなくなって、どちらかしかお店に残せないとしたら、返品されるのは当然イミテーションのほうだ。

また、出版社の営業部としても、売込む優先順位は確実に低くなる。本を持っていくと、書店員さんに「これ真似本ですよね」と言われることもあるらしい(自分のつくった本でそんなことになったら、とても辛い)。

ここまでは分かりやすい話だが、似たデザインの本が増えるもう1つの理由は、ちょっと事情が異なる。

というのは、「本のコンセプトをしっかりと伝える」ことを目的にすると、どうしても「白地や無地の上に文字だけ」というデザインが最良の方向性になることが多いからだ(と、有名デザイナーが教えてくれた)。

ビジネス書では、たぶん2012年〜2013年あたりからその傾向が顕著になって、『採用基準』や『世界の経営学者はいま何を考えているのか』、『統計学が最強の学問である』『伝え方が9割』といった白地に文字だけの本が多くなった。

これらは出版時期こそ近いものの、決して互いにデザインを真似たわけではない。ましてや、デザイナーさんたちの名誉ためにも断言するが、手抜きをしたわけでもない。どれも「本のコンセプトをしっかりと伝える」ことを最優先した結果、このデザインになったのだ。

(スマホやSNSが浸透したことで人々が接する情報量は以前よりも格段に多くなった。その結果、コンセプトをタイトルにはっきりと出して、書店で本の有用性を即座に認識してもらう必要性が高まったのでは……というのが自分の仮説の1つ。)

だから自分としては、昨今の「白地に文字だけ」の流れは必然だったと思っている。時代に合わせてコンセプトが明確な良書が増え、その魅力を最大限に表現しようとしたからこそ、同じ方向性になったのだ。

それぞれの本の中身の違いを最大限に表現しようとしたら、外側は似たデザインに行き着いた、とも言える。

……と書いてみて思ったが、このように本質的な意味で差別化に成功したデザインも、やはり「似たデザイン」と言うのだろうか?

(以下補足)
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若手の編集者から、装丁の依頼のコツについて聞かれることがよくある。
上記の理由で、自分の答えは「何よりも本のコンセプトを独自でシャープなものにすること」。それが良いデザインにするための大前提だ。それさえできれば、「売る」という意味でも「手元に置きたい」という意味でも、最適なデザインができるはず。……ということを、ようやく最近確信できた。
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コンセプトベースの本のデザインは、「白地にタイトルだけ」に集約しがちだが、著者名ありきの本は、「著者の写真とタイトル」でパターン化しがち。
でも、人間にとって人の顔は「それぞれ大きく違うもの」と認識されるので、後者は似たデザインと思われにくいようだ。
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本の装丁は、基本的に編集者の主導でデザイナーに発注する。著者とデザインについて相談することはあるが、実質的には完成に近いものを見せてOKをもらうことが多い。つまり、似たデザインが生まれるのは、編集者に理由があることがほとんど。
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カバー周りの用語は、正しくは下記のように使い分ける。

「表紙」…本からカバー、帯を外して裸にしたときの外側の部分。ペーパーブックは本文と表紙だけでできている。
「カバー」…本の表紙の外側に巻かれるもの。
「帯」…カバーの上に巻かれるもの。販促物の要素が大きく、しばしばデザインやコピーが変更される。
「装丁」…カバー、帯、表紙に加えて、本扉やスピン(ハードカバーに付く紐状のしおり)などを含めた、本の外側のデザインのこと。

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