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本に「校閲者の名前」を載せてほしい

書籍にクレジットはなくていいい?

『ブスの自信の持ち方』(山崎 ナオコーラ 著)の発売記念トークイベントに行ってきた。

この本の作りの部分で面白いところがあって、本の制作関係者全員のクレジット(名前)を載せているのだ。それぞれのプロフィールも書かれている。

〈本を作っているのは自分だけではない。制作陣の協力があってできた本だ〉といった作者の思いがじんわり伝わる。そこが「素敵だな」と思った。

イベントでもクレジットの件は話題になっていた。その中でカバーデザインを担当した川名潤さんが「本当は、クレジットはなくていいと思っている」と発言されており印象に残っている。

その真意はわからない。でも、確かに、クレジットがなくても、編集者が本のカバーデザインを見て「このデザインを担当した人に、ウチの本も作ってほしい!」と惚れ込み「あのデザインはどなたが手がけたんですか」と出版社に問い合わせてしまう…。そんなふうに人を動かすデザインがあったらすごい。

クレジット表記は必要か

私なんかは、正直に書くと「今の仕事が、少しでも他の仕事につながれば」と打算的に考えている。なので、出版社の編集者さんたちがクレジットを見て連絡をくださると喜んでしまう。単純だ。

が、しかし、冷静に考えてみると…クレジットを見て連絡をくれるといっても様々だ。

ある編集者さんは…

出版社さんの編集者さん:「担当されている●●という本とXXという本を拝読しました。どちらの本も企画が斬新で、一度ご一緒してみたいと思っていました!」

私:(ええ、売れているあの本じゃなくて、地味だけどロングセラーになっているこの本に注目してくれていたんだ! 嬉しい!)「ありがとうございます!」

一方でこんなことも…

私:「どの本のクレジットを見てくださったんですか?」

出版社の編集者さん:「えっと、どれだったかは忘れてしまったんですが、このジャンルのフリーの編集さんを探していて、片っ端から書店でクレジットを確認してお声がけしました。どの本も綺麗に作られていますよね」

私(なるほど、そういうことか。綺麗に作ってくださったのはデザイナーさんだけれども…)「…そうなのですね、ありがとうございます」

後者のパターンは珍しいが、そういうこともあったので、こうなると「クレジットって何なのやら」と思ってしまう。もちろんお声がけいただくことは有り難いのだが、その編集者さんが、先に他のクレジットに目をとめていたら、そちらの案件になる話なので。

校閲者のクレジット、載せてほしい

自分の話はさておき、私は、「でもやっぱりクレジットに載せてほしいな」と考えている。特に、校閲者のクレジットを。

校閲は大変なのに「頑張り」が見えにくい、伝わりにくい。そんな仕事だと思うから。

本の制作にかかわる裏方の仕事で、「頑張り度」が比較的伝わりやすいのはデザイナー、編集者、ライターあたりだろう。

編集者は、一般読者からしたら「作者から原稿をもらう人? 原稿を催促するのが仕事?」と誤解されることもあるはず。しかし「あとがき」にある「編集の●●さん、ありがとう…」のくだりを読めば、「詳しくはわからないけど、この人は作者から感謝されている。きっと二人三脚で頑張ったのだな」という印象を多少なりとも与えるのではないか。

ライターも、「は? 著者が書いてないの? 何それ、ゴーストライター?」と誤解されがちだが、実用書においては著者が書いていないことは多い。本業で多忙を極めている著者が10万字近くを短期間で、読者を引きつける構成•文章で書き上げるのが難しい。そこにプロのライターの手が入るのである。

最近は、上阪徹さんのような有名な方が「私はゴーストライターではない、ブックライターだ」と明言されたことにより、だんだんとブックライターという職業自体が市民権を得始めているようだ。

では、校閲者はどうか。校閲は、TVドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』のおかげでだいぶ世間にも浸透したのではないか。でも、あれは「編集者的な校閲者」を描いているエンターテインメント作品である。校閲者が作者と話したり飲んだり、意見したり…といったシーンが度々出てくる。

実際に校閲者が作家•著者と会うのはほぼ0%だと思うので。校閲者は作者と顔を会わせることがないのはもちろん、作者が校閲者の名前を把握していることは稀だ(もしかしたら文芸のジャンルだとそうじゃないかもしれないけど、私の携わっている実用書だとほぼ0%である)。

本を作るには校閲者さんは絶対必要なのだ。だから、デザイナーや編集者、ライターだけではなく、校閲者のクレジットもどんどん載せるべき。そしてできれば校正の会社名だけではなく担当者の方のお名前も載せてほしい…!

(もっとも、私が優秀な校閲者さんの切実に欲している事情もあるのですが。「優秀な校閲者さん、校閲という仕事」についてはもっと語りたいことがあるので、後日別のnoteに書きたいと思います)

※校閲と校正の区別をここで書くと長くなるので、ここでは説明を省き、校閲に統一しています 


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