綿野恵太

1988年、大阪府生まれ。福島県在住。出版社を経て文筆業。近刊に『「逆張り」の研究』(…

綿野恵太

1988年、大阪府生まれ。福島県在住。出版社を経て文筆業。近刊に『「逆張り」の研究』(筑摩書房)。そのほか『みんな政治でバカになる』(晶文社)、『「差別はいけない」とみんないうけれど。』など。 mail:edoyaneko800@gmail.com

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    現在執筆中の本の草稿を掲載していきます。 悪意といったテーマになるかな、と。 目標は月2回以上の更新です。また、過去に執筆したエッセイや論考を掲載予定。 (※宣伝や読者獲得のため、過去の記事を期間限定で無料公開する場合がございます。ご了承くださいませ)

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丸善京都店「逆張りくん」の本棚選書リスト

昨年、『「逆張り」の研究』(筑摩書房)の刊行記念として、丸善京都店でブックフェアを行いました。「逆張りくん」として影響を受けた本を20冊を選び、コメントをつけています。フェアは終了したのですが、そのままにしておくのは持ったないので、ここに載せておきます。よろしければ、ぜひ読んでみてください。 1 長濱一眞『近代のはずみ、ひずみ: 深田康算と中井正一』(航思社 2020年)  逆張りは差異化するための最も効果的な方法。だから、新しい批評家は先行世代の批評家の逆をはってデビュ

    • 異世界転生しないホリエモン

       ひろゆきは異世界転生する。しかし、ホリエモンは異世界転生しない。この点にふたりのキャラの違いがもっとも表れている。  たしかに両者には共通する感覚がある。どちらも集団の不合理なルールが大嫌いだ。  少し前、ホリエモンが「寿司職人が何年も修行するのはバカ」と発言して、炎上したことがあった。寿司屋で下積みする必要はない。専門学校で集中的に勉強したほうが効率良く技術を習得できる、と。こういう発言の背景には、前回触れたインターネットのオープンイノベーションの考え方がある。  「

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      • ポリコレという市場化について

        (前回のつづき)

        • 自利利他を実現するバザール

          (前回からの続き)   資本主義はさまざまな集団を解体していく。その最果てにあるのが、フリーエージェント社会である。  2001年に出版された『フリーエージェント社会の到来』という本がある(邦訳は2002年)。著者であるダニエル・ピンクは、クリントン政権下でスピーチライターを務めていたが、家族と過ごす時間を増やすためにフリーエージェントとして独立した。すでにアメリカ人の四人に一人がフリーエージェントとして働いている、とピンクは紹介している。  組織から自由になった人々が

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          集団に謎ルールが残り続ける理由

          (前回からのつづき)  どの集団にも謎ルールが存在する。謎ルールとは、集団のほとんどのメンバーが嫌がっているにもかかわらず、なぜか存続しているルールのことだ。ぼくが勝手にそう呼んでいるだけなのだが。とはいえ、みなさんもこの理不尽な謎ルールに苦労した経験があるんじゃなかろうか。  たとえば、会社であればサービス残業、学校であれば下級生へのシゴキ……などなどだ。なんのメリットもない。意味もない。やってる本人も内心では嫌がっている。けれども、一向に無くなる気配がない昔からの風習

          集団に謎ルールが残り続ける理由

          利己を利他に変える「見えざる手」

          (前回からの続き)   アシュリー・バビットという退役軍人の女性が銃で撃たれて死亡した。2022年1月、トランプ大統領の支持者たちが選挙の不正を訴えて連邦議会議事堂に乱入したが、彼女はそのひとりだった。ドナルド・トランプが小児性愛者の人身売買ネットワークと戦っているという「Qアノン」と呼ばれる陰謀論を信じていた。死後、彼女は殉教者のように扱われた。議事堂前では献花がおこなわれ、彼女の誕生日にはトランプ元大統領からメッセージが送られた。

          利己を利他に変える「見えざる手」

          思いがけず悪意

           (前回の続き) 統治の倫理が思いがけず悪意ある行動を生み出してしまう。   統治の倫理は集団を維持するために必要な行動をリスト化している。だから、国家や軍隊といった大きな集団だけでなく、マフィアやヤクザにも当てはまる。友人や家族といった小さな集団にも通用する倫理だ。 ぼくは集団が苦手である。高校も中退したし、大学にもほとんど通わなかった。会社で働いていたときも、職場の人間関係で苦労した。それぞれが良い人であっても、集団になるとなぜかイヤらしい人間になってしまう。そう思う

          思いがけず悪意

          金持ち編集者 貧乏編集者

           ぼくが編集者として働き始めたころ、まったく異なるタイプの先輩の編集者がいた。ひとりは金持ち編集者、もうひとりは貧乏編集者と呼ぼう。  ぼくは左派系の集まりやイベントによく顔を出していた。そこで出会ったのが貧乏編集者だ。いわゆる人文書にはリベラルや左派的な考えを持つ人が多い。しかし、そのなかでも一目置かれているぐらいの硬派な編集者だった。  分厚くて難しいゴリゴリな本をかっこいいデザインで出版した。内容も尖りすぎていて万人受けしなかったが、人文業界の評価は高い編集者だった。

          金持ち編集者 貧乏編集者

          悪意は言葉の問題でもある

           言葉は別の意味をほのめかすことができる。世界に悪意が満ちているように見えるのは、言葉そのものに原因がある。   京都の老舗のうどん屋さんで、ある文学研究者とごはんを食べたことがある。その研究者は東京出身で、京都に来たというだけでテンションが上がりまくっていた。店内には洛中洛外を描いた古い京都の地図が貼られていた。その研究者は指を指して、「このあたりに谷崎潤一郎が住んでいたんだよ!!!」とおおはしゃぎしていた。  すると、店員のおばあさんが、注文したうどんを持ってきた。そし

          悪意は言葉の問題でもある

          冬休みの日記①12/15、16

          12/15(金) 今日から大阪に帰省する。 朝、出発の準備をしていると、同居人の女性が財布を取り出して、二万円を渡そうとしてくる。「なにこれ?」と聞くと「こづかいだ」というので、ちょっと笑ってしまった。 「ヒモみたいだ!」と感動しながらも、遠慮して受け取らず。新幹線に乗ったあたりで、やっぱり受け取っておくべきだったか、と悔やむ。 福岡のとらきつねさんのトークイベントのついでに帰省することにした。福島から福岡まで新幹線で行く途中で大阪に立ち寄る予定。もちろん、飛行機のほうが早

          冬休みの日記①12/15、16

          12/22福岡でトークイベント!

          今週末の12/22(金)に福岡のとらきつねで『「逆張り」の研究』トークイベントをやります。参加者は韻踏み夫さん、てーくさん、鳥羽和久さんです。お近くの方はぜひお越しください。

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          反TSUTAYAオリンピック宣言

          (初出『子午線通信』4号、2017年)  2015年の冬、虎ノ門ヒルズでおこなわれたあるイベントに行った。イベントのメンツは、建築家の磯崎新、妹島和世、彫刻家の名和晃平、思想家の浅田彰という豪華なもので、私は勤めていた出版社の物販のために行ったのだが、このイベントが謎だった。一般への告知はなく、招待客だけのクローズドな講演会。主催も「カルチャー・ヴィジョン・ジャパン」(以下、CVJ)という耳慣れない団体だった。要領を得ないまま、会場前でぼんやりと売り子をしていると、デザイナ

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          反TSUTAYAオリンピック宣言

          悪意本の目次案をつくる

           マガジン更新が空いてしまい、申し訳ないです。悪意本の準備のためにいろいろ資料を読んでいるところです。しかし、いま格闘しているのがアイン・ランドの『水源』とアダム・スミス『国富論』で、どちらも1000ページを越えていて、なかなか終わりが見えない。そんな現状ですので、悪意本の草稿の掲載はいましばらくお待ちください。  で、いま編集者と出版に向けて作業を進めています。まず越えなきゃいけない関門が迫っています。そう、企画会議です。  僕も編集者時代に経験したのですが、企画会議を

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          反社会的処罰

          (前回の記事の続き)

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          悪意

           この世界は「悪意」に満ちている。罵詈雑言あふれるインターネットの炎上から、他人を道連れにした自殺まで。たとえ自分の幸せを犠牲にしても、相手をもっと不幸にさせたい。そんな「悪意」があふれている。    ぼくが通った高校は「自利利他の精神」を大切にしていた。よく校長がこんな話をした。  他人をかえりみず、自分の幸せを求めるのは「利己主義」である。当たり前だが、全員が自分の利益だけを追求すれば、社会は壊れてしまう。私たちが共に生きていくためには、他人の幸せを思いやれなくてはならな

          借金取りだったいとこの話 その3

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