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『堕武者狩りのセン』 第1部第2話 【ハナビ・コンペティション】

芥子陽市河原町区 200X年8月31日午後8時35分 「早くミクちゃんに告って来いよ!」「えっまだ心のじゅウワー!」仲間に背を突き飛ばされたイガグリ頭の少年が、少女の持つポン菓子袋に突っ込んでたちまちポン菓子まみれになった。 物陰で頭を抱える仲間たちの背後、「アーン!アーン!」5歳くらいの男の子が、破れた金魚掬い網を投げ出してべそをかく。涙目の男の子は暫し母親に何かを訴えていたが、5分もすれば他の屋台に目を輝かせることだろう。例えば水風船掬いなど。 その水風船掬い屋台

    • 『堕武者狩りのセン』 第1部第1話 【ウェルカム・トゥ・ケショウシティ】

      200X年8月16日午前4時44分 芥子陽市 北端 道祖寺山頂上付近 己の指先も見えぬほどの暗闇の中、場違いに明るい色のテントが一つ。ザッ……、ザッ……。乾いた落ち葉を踏みしめ、テントに近づく足音が一つ。テントの主がトイレから帰ったのだろうか?違う。絶対に違う。 足音の主が時代劇めいた菅笠と旅羽織を身につけているからだろうか。否、芥子陽市は現在空前の時代劇ブームだ。和服やインバネスコートで出歩く市民などありふれている。では、腰に三尺の太刀を佩いているからだろうか。否、芥

      • 【ザ・セイクリッド・カジバパワー】

        ゴーン……ゴーン……ゴーン…… 鐘楼で鐘が鳴った。ノジミはIRC端末を開き、時刻を確認した。午前0時8分7秒。また見当違いの時間に鳴っている。二ヶ月に内蔵UNIXが狂って以来、ずっとこうなのだ。 セント・オヨネ市には技術者がいない、金がない、そもそも向上心がない。みんな面倒になってしまっているのだ。あるのは20年ほど前の市町村合併の際に押し付けられた悪趣味な市名と、市名の由来となった隠れキリシタン修道女オヨネが建てたとされる、大きな鐘楼付きの教会くらいだ。 その数少ない

        • 【エイム・ザ・ヒューマニティ】#上

          (((アイエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?)))マゴは悲鳴を押し殺し、失禁を堪える。 数百メートル先ではニンジャのイクサ、否、虐殺が繰り広げられていた。 …………………………… 数分前、トリイ社戦車師団の行軍進路上に、謎の上半身裸ナイスミドルサラリマンが不敵に正座していた。否、謎ではない。男の正体は、脇に畳まれた武者鎧やサイバネ腕に刻まれた雷神紋から明らかだ。 装甲指揮者のハッチが開き、トリイ社の装甲師団長が尊大にお辞儀した。「ドーモ、年間休日矮小なる奴隷めいたオ

        『堕武者狩りのセン』 第1部第2話 【ハナビ・コンペティション】

        • 『堕武者狩りのセン』 第1部第1話 【ウェルカム・トゥ・ケショウシティ】

        • 【ザ・セイクリッド・カジバパワー】

        • 【エイム・ザ・ヒューマニティ】#上

          【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#2

          暗黒非合法探偵フジキド・ケンジに持ち込まれる行方不明者捜索依頼は、ここ数週間で数十件にも上っていた。行方不明者の身元は、レッサーヤクザ、サイバーゴス、ショーユ職人、大学生、カチグミ・サラリマンなど多岐に渡るが、その全てがこのタマチャン・ディスティンクト及びその隣接地域で発生している。 聞き込み調査を行うべく、タマチャン・ディスティンクトに足を踏み入れたフジキドの、まさにその目の前で犯行は行われたのだ。 フジキドの少し前を歩いていた、サラリマンらしき身長150cmほどの小男

          【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#2

          【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#1

          スターン! 勢いよくフスマを開け、アマクダリ・アクシスのニンジャ、スワッシュバックラーがアイアン・カメ・ヤクザクランの応接室内にエントリーした。 「ザッケンナコラーッ!市民!」「抵抗をやめなさい!市民!」オナタカミトルーパーズが後に続く。 「これは……?」スワッシュバックラーは眉根を寄せた。彼らを待ち受けていたのは、黒革の高級ソファ、クリスタル製の応接チャブ、甲冑をつけた亀を描いたタペストリー、「誠意」「親子愛」「上納を忘れてはダメ」と書かれたショドー等。ごくごく一般的

          【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#1

          【カラテリング・コン】#0

          1.ニンジャ・カラテリングとは? 現代のプロ・レスリングが、平安時代にリアルニンジャ達によって行われた「ニンジャ・カラテリング」に起源を持つのは読者の皆様も既にご存知であろう。 では、ニンジャ・カラテリングの起源は?こちらはニンジャ研究家毎に諸説ある。緊張関係にあるニンジャクランや支配モータルに対するカラテ示威行動にあるという説、逆に同盟ニンジャクラン同士の交友関係にあるという説、或いは単なるカラテトレーニングメニューの発展と見る説もある。 しかし、その全てに共通してい

          【カラテリング・コン】#0

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】エピローグ#2

          三日後未明、ムトー・ニンジャは一人、ドージョーの壁際にアグラしていた。灯は中央に置かれた蝋燭一つ。 未熟者の目には壁に寄りかかってうたた寝をしているように映るが、左に非ず。ニューロン内では過去に戦ったニンジャ達との熾烈なカラテ・シミュレーションが繰り広げられているのだ。 ニューロンの中では複数の強者とのカラテラリーが同時並行して行われる。一秒間に数十のカラテ応酬。あの時、敵の攻撃で手傷を負ったのは何故か?海老反り回避ではなく側転すべきだったのでは?仮に側転していれば敵はど

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】エピローグ#2

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】エピローグ#1

          一ヶ月後、タケミツはドージョーで客と向き合って正座していた。ドージョー内には真新しい木人や巻藁が整然と並べられ、壁には「克己心」「負けぬ」「辞め時が掴めない」「ローマを作るには大分時間がかかった」等の警句が入門者を奮い立たせる。 オウガジェイラーとの一戦後、タケミツは寂れたイアイドージョーを無料同然で貰い受けた。無法者オウガジェイラーを討ち取ったタケミツの勇名を慕い、瞬く間に弟子入り志願者が近隣から押し寄せ、連日ドージョーは大賑わいであった。 しかし、今日ドージョーは静か

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】エピローグ#1

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#6

          遠くで声がする。遥か遠い昔。(((ムトー、確かにお前の剣は速い。切れる。だが、それだけだ。それじゃあダメだ。まだ免許はやれねえ。イアイで切るべきなのは敵の)))あれは、最早顔も忘れた…… 「親父!?」「アイエッ!?」隣でカオルがひっくり返った。河原の石に手をつき、起き上がろうとする。「ここは…グワーッ!」たちまち四肢に激痛。少なからぬ本数の骨が折れている。 「無理しないで!」「カオル=サン、ナンデ……?アンタは屋敷の中に…」「遠くでものすごい叫びがしたから木によじ登ってみ

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#6

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#5

          「イヤーッ!」オウガジェイラーの右カワラ割りパンチ!タケミツは軽やかなバックステップで躱す。砕砕砕砕砕!大地が砕ける!未だタケミツのカタナは鞘の内だ。 「イヤーッ!」オウガジェイラーの左カワラ割りパンチ!タケミツは軽やかなバックステップで躱す。砕砕砕砕砕!大地が砕ける! 未だタケミツのカタナは鞘の内だ。 飛び下がりながらタケミツはオウガジェイラーのカラテを観察する。弱敵。 なかなかの膂力。だがそれだけだ。動きは鈍重、構えは硬い。付け入る隙はいくらでもある。先にスシ屋で戦

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#5

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#4

          遠くで声が聞こえる。遠い遠い、遥か遠く。 「お前の010は確かに01101010101だが、それじゃあ01011メだ。そのためには……」 「スシ!!!」タケミツはフートンを蹴飛ばして跳ね起きた。「アイエッ!?」傍で看病していた女が驚き仰向けにひっくり返った。 タケミツはフートンに正座し、奥ゆかしくアイサツする。「ドーモ、はじめまして、ムトー・タケミツです。貴女様はどなた様ですか。アッシはいったい…?あとスシをもらえませんかい?」 女も恐る恐るアイサツを返す。「ド、ドー

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#4

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#3

          「タ、タイショー……、ヤッテル……?」「エエ、ヤッテマスヨ!」板前と寿司屋入店プロトコルアイサツを交わしつつノレンをくぐったのはムトー・タケミツ。装束は泥で汚れ、頬はこけ、目は落ち窪み、別人のような、ビンボガミめいた有様だ。 無理もない。もう5日も碌な食事を取っていないのだ。 「イクサには食糧が要る」平安時代の哲人剣士、ミヤモト・マサシのリベリオンハイクもある。 「オススメはウニ・グンカンですよ」板前が後ろを向いたまま声をかける。「じゃあそれで…」タケミツはカウンタァの

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#3

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#2

          「タイショー、ヤッテル?」「エエ、ヤッテマスヨ!」板前と寿司屋入店プロトコルアイサツを交わしつつノレンをくぐったのはムトー・タケミツ。 店内は掃除がゆき届き、「大漁」のショドーやカミダナ(日本家屋の中に設置される、小型のシュライン)が奥ゆかしい。 カウンタァの椅子に腰掛けながらタケミツが問う。「おすすめのネタはあるかい?」「へえ、炙ったイカなんていかがでしょう?」「ほう……」タケミツは健啖家であった。 「じゃあそれで…」 ドクン…!タケミツのニンジャ第六感が危機を告げ

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#2

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#1

          「タイショー、ヤッテル?」「エエ、ヤッテマスヨ!」板前と寿司屋入店プロトコルアイサツを交わしつつノレンをくぐったのはムトー・タケミツ。 店内は掃除がゆき届き、「不如帰」のショドーやカミダナ(日本家屋の中に設置される、小型のシュライン)が奥ゆかしい。 「おすすめのネタはあるかい?」「へえ、鰹のタタキなんていかがでしょう?」「ほう……」タケミツは健啖家であった。 「んじゃあそれで…」 ドクン…!タケミツのニンジャ第六感が危機を告げる。タケミツはカウンタァ越しに板前の顔を掴

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#1

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】プロローグ

          街道の脇のオジゾウの陰。 地面に倒れ臥すのはニンジャ装束の男。しかし、それにしても何たる汚れきった有様であろう。装束にこびりついた泥と垢はとても昨日今日ついたものとも思えぬ。 僅かに息がある。「スシを…誰か…スシを…」往来は少なく、誰も男に情けをかける者は… 否、目の前に紙苞に包まれた握り飯が差し出された。汚れたニンジャはひったくるようにして握り飯を受け取り、そのまま貪り食い始めた。 スシには及ばないが、握り飯にも血中カラテ回復を促進させる効力がある。男の体力は早くも

          【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】プロローグ