【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#1

スターン!

勢いよくフスマを開け、アマクダリ・アクシスのニンジャ、スワッシュバックラーがアイアン・カメ・ヤクザクランの応接室内にエントリーした。

「ザッケンナコラーッ!市民!」「抵抗をやめなさい!市民!」オナタカミトルーパーズが後に続く。

「これは……?」スワッシュバックラーは眉根を寄せた。彼らを待ち受けていたのは、黒革の高級ソファ、クリスタル製の応接チャブ、甲冑をつけた亀を描いたタペストリー、「誠意」「親子愛」「上納を忘れてはダメ」と書かれたショドー等。ごくごく一般的なヤクザ事務所だ。室内には彼ら以外に人影は無い。

スワッシュバックラーはトルーパーズに指示を出しつつ、自身も室内を改めた。さほど広くも無いヤクザ事務所だ。結果はすぐに出た。

無い。どこにも無い。死体はおろか、血痕、爆発四散痕、カラテ戦闘による調度品の破壊、一切が見られなかった。唯一の発見は、ソファの裏側に黒い毛皮がこびりついているのが見つかったのみ。ブラックビーストの装束の一部だ。

アマクダリの傘下ヤクザクラン、アイアン・カメ・ヤクザクランの事務所から緊急の救援ノーティスが届けられ、直後に交信が途絶したのは今日の朝だ。最も近くに居たアクシス隊員のブラックビーストが事務所に急行し、状況の確認と問題の解決に当たることになった。

「こちらブラックビーストです。ただ今アイアン・カメ・ヤクザクラン事務所に到着。……特に変わった様子は見受けられない。これよりオヤブンにインタビューを……アバッ!?アババババ!」

これを最後にブラックビーストとの交信も途絶、ほぼ同時にバイタルサインも消失した。

ブラックビーストの安否の確認のため、アマクダリ上層部は最精鋭ニンジャのスワッシュバックラー他3名のアクシスとオナタカミ・トルーパーズ二個中隊の派遣が決定されたのだった。

ブラックビーストは決して弱体なニンジャでは無い。それを僅かな時間で屠ったとなれば、やはりネオサイタマの死神、ニンジャスレイヤーの仕業か?だが、状況はあまりにも奇妙……。スワッシュバックラーは腕組みをしつつ、同僚の死の現場にしてはあまりに整いすぎている事務所を眺めた。

………………………

「はっ……ここは……?」視界を覆う霧は少しずつ晴れてきた。自動車の車内。そうだ、家紋タクシーの車内だ。タクシーに乗り込むや否や急に睡魔に襲われて、そのまま眠り込んでしまったのだ。

「運転手=サン!?」タクシーは停車している。運転手の姿は見えない。キーは付けっ放しだ。

不安に襲われ、彼は所持品を改める。IRC端末、財布、「タナマチ工業株式会社 課長補佐 ヤギ ヒロキ」と書かれた名刺。全て自分の物だ。無くなっているものは無い。

「全く……なんだっていうんだ……」IRCのアプリで現在地を調べる。幸い、目的地のダイキチ・エンジニアリング・サービス本社ビルからはさほど離れていない。彼はタクシーのドアを開け、目的地に向かって歩き始めた。早く行かないと約束に遅れてしまう……。

………………………………

「あなたが好きなのー!」「そうなのー!?」「はっ……ここは……?」視界を覆う霧は少しずつ晴れてきた。目の前はカウンター席と熱された鉄板。棚の上には画質の悪いテレビが置いてあり、数年前のスカムドラマの再放送がついていた。

そうだ。繁華街をふらついていたところ、サングラスをかけたガタイのいい男に呼び止められ、誘われるままにテッパンヤキの店に入店したのだ。

ところが、待てど暮らせどテッパンヤキは出来上がらず、約束のノパン・サービスも始まらない。そのうち待ちくたびれて寝てしまったのだ。

あたりを見渡す。サングラスをした呼び込みも、その呼び込みと双子めいて似た店長も居ない。支払いで揉め、奥に引きずられながら悲鳴を上げていた先客も帰って来ない。

不安に襲われ、所持品を改める。IRC端末、財布、「アイアン・カメ・ヤクザクラン 組長 カメイド ニルキ」と書かれた名刺。全て自分の物だ。無くなっているものは無い。数枚のトークンをカウンターに置くと、恐る恐る店の外に出た。咎める者は、誰もいなかった。

………………………………

「はっ……ここは……?」視界を覆う霧は少しずつ晴れてきた。暗い路地裏。自分は一人で立ち尽くしていた。「なぜ……こんなところに……」思い出そうとしたその時。

「ついに見つけたぞ……」後ろから声をかけられた。押し殺した憎悪が滲み出る、暗く重い声だった。「アイエッ!?」弾かれたように振り返る。

後方、10mほど離れたところに街灯。照らされるようにして、男が立っていた。トレンチコートにハンチング帽。ジジッ……。街灯が点滅し、消えた。

街灯は数秒で点いた。しかし、そこにいたのはトレンチコートの男ではなく、赤黒のニンジャ装束を着たニンジャだった。そのメンポには恐怖を煽る書体で「忍」「殺」のカンジが彫られている。

「アイエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」恐怖のあまりへたり込んだ彼を憎悪に満ちた眼差しで睨みながら、ニンジャスレイヤーは冷然と尋ねた。

「彼女をどこへやった?まだ生きているのか?」「アイエッ!?彼女ってなんですか!?」

ニンジャスレイヤーは問い返しを無視し、地獄そのものの声音で宣告した。「答えれば楽に殺す!答えねば拷問した後に殺す!ニンジャ殺すべし!」

【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#1終わり #2に続く













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